こんにゃく戦争
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食卓にはいつもの顔触れに加え、任務でたまたま京都まで来ていた張と鎌足の姿があった。
いつもより少し賑やかな夕餉の時間。
この日のメニューはちくわとこんにゃくの五目煮に、大きめのこんにゃくが入った具沢山のけんちん汁、
こんにゃくと茄子の肉味噌田楽と、メインは牛肉とごぼうのピリ辛こんにゃく炒め。
右も左もまさにこんにゃく尽くしの今晩の献立に、由美は眉をぴくぴくと震わせあからさまに顔をしかめていた。
「ちょっと……なんなの、この一面灰色のテーブルは…」
「どれも美味しいですよ。今日は人数が多いので、ホノホと二人で張り切ったんですから」
「それはありがたいんだけどねぇ…なんでどこもかしこもこんなにこんにゃくだらけなのよ…」
「ちょうど安売りで、つい大量に買ってしまって」
「なるほどねぇ…」
宗次郎の健気な笑顔を見て、由美は仕方ないと諦めさっそく手前の料理に箸をつける。
すると、つるんと箸を転げ落ちるいびつな四角形のこんにゃく。
一旦は機嫌を取り直した由美だったが、眉間にはまた新たなシワが上書きされていく。
「あ~ら、由美ってもしかして…お箸の使い方あまりお上手じゃなくて?」
その様子を見た鎌足は、ここぞとばかりにわざとらしく小さな挑発を始める。
田楽を頬張りながら、串越しには色のある目つきできっちりと志々雄を捉えていた。
「うるッさいわね。あんたは鎌だけ器用に使えてれば十分なのよこのオカマ」
「聞き捨てならないわね。箸もまともに使えない女なんてアタシは女と認めないわよ」
「なんですって」
「静かにしてよ〜。せっかく作った料理が冷めちゃうでしょ、喧嘩は後にして」
ホノホの涙ぐんだ声で、二人のバトルは一旦お預けに。
今にも泣き出しそうなホノホの頭をよしよしと撫であやす宗次郎。
「まぁ美味いは美味いんやけど、ほんま滑るなぁこのこんにゃくっちゅーヤツは…」
「張、こんにゃくも掴めねぇ奴が、この国を掴めると思うか?だからお前はまだまだ甘めェんだよ」
いくらその場の冗談でも、わざわざ国盗りに話をつなげるあたりが、ちょっと面倒くさいと思う宗次郎とホノホ。
張は閉じていた片目をうっすら開けると、志々雄の方へとささくれ立った視線を向ける。
「そういう志々雄様こそ、なんで一回もこんにゃくに手ェつけてないん?滑らせるん恐くて手ェ出せないんとちゃいますか?」
「馬鹿言え、俺は元からこんにゃくが嫌いなんだよ。だから食わねェってだけだ」
「またまた、見え透いた嘘を」
「もう、今度はこっちでですか。つまらないことで言い合いしてないで、さっさと食べちゃってくださいよ」
呆れた宗次郎の一言で、大の大人たちは静まり返る。
すると、一人だけ納得のいっていない男がついに、しばらくへの字にしていた口を開いた。
「宗次郎、ホノホ。志々雄様の苦手なものをわざわざ食卓に出すとは、無礼極まりないぞ」
「方治さん、宗ちゃんは悪くないの。私がこんにゃく食べたかったから…」
「ホノホ、僕もちょうど食べたかったんです、だから一人で責任背負わないで」
「宗ちゃん…大好き!こんにゃくより好き!!」
「それはあんまり嬉しくないなぁ…」
苦笑いをする宗次郎の向かいでは、こめかみに血管を浮かべ真っ赤な顔をした由美が、未だにたった一つのこんにゃくを掴むことに悪戦苦闘していたが、やがて濁った叫び声をあげついに、その箸を投げ出した。
「思い出したわ。私もこんにゃく嫌いなのよ、食べ物の世界で一番嫌いだったわ」
「あんたそれ、ただ掴めなくて食べれないってだけでしょーが」
鎌足の的を得た一言にも屈しず、由美はなおも怒りに任せたワガママ発言を続ける。
「もうこんにゃく料理には二度と箸をつけないわ」
「こんにゃくが少しでも入ってたらダメなんですか?」
「当たり前じゃないの、あんたたちよく覚えておきなさいよ」
言いましたね。ひっそりと何か企むような宗次郎の妖しい笑みを、由美はこの時うっかり見逃していた。
そして次の日。
「牛鍋なんて久しぶりですねぇ」
「ここね、最近話題のお店なんだって!」
宗次郎とホノホの提案で、この日の夜は牛鍋屋に足を運んでいた志々雄たち。
目の前でグツグツと美味しそうに煮立つ牛鍋に、由美はキラキラと目を輝かせさっそくど真ん中に箸を伸ばす。
すると、宗次郎の右手が颯爽とその箸の行く手を阻んだ。
「危ないです、由美さん。これ、由美さんが食べれないやつですよ」
「はぁ?何言ってんのよボウヤ。牛鍋は花魁時代からの大好物よ?食べれないわけ」
ホノホはそこそこ広い鍋の中、白く透き通ったそれを目掛け一直線に箸を伸ばす。
そして器用に掴み上げると、これ見よがしに高く掲げた。
「宗ちゃんはい、糸こんにゃく!あ〜ん」
「あーん、ん、うん!おいひいです」
由美は絶句した。
“こんにゃくが少しでも入ってたらダメなんですか?”
“当たり前じゃないの、あんたたちよく覚えておきなさいよ”
………
「二度と箸を付けないんですよね?由美さん」
「昨日の今日だもん、よーく覚えてるよね?宗ちゃん」
由美、今回はこいつらの勝ちだ。
志々雄の一声は牛鍋から沸き立つ湯気とともに、ゆらゆらと上空へ消えていった。
‐おわり‐
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