桜の季節
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「わあ、もうこんなに桜が咲いてる」
「本当だ、綺麗ですねえ」
「綺麗だねー」
桜の季節になるといつも、あの時のことを思い出す。
ちょうど今と同じように桜が満開に咲いていて、
はらはらと散る桜の花びらの中、まだ少女だったホノカは一人、声をあげて泣いていた。
ーーー
「志々雄さん、あの女の子」
「んあ?」
「泣いてるよ」
「そうだな」
僕と志々雄さんはその少女の姿が見える場所で昼食をとっていた。
と言っても、志々雄さんは三口程でたいらげ、すぐに寝そべって昼寝の体勢に入ってしまったので、
僕だけが握り飯を頬張っているような状態。
「見てきていい?」
「好きにしろ」
許可を得た僕は、まだ残っていたお握りを一つ持って、その少女に近付いた。
大声で泣くのに夢中で、僕にはまったく気付かない。
しばらくその姿を眺めていると、涙を拭う手を離した隙間から、ようやく僕の存在を捉えてくれたようで。
「誰?!」
「どうしたの?お腹空いてるの?」
「空いてない!ほっといて!」
「これ食べる?」
「……うん」
少女は必死に涙を堪えながら、お礼も言わずに差し出したお握りをばっと奪って、志々雄さんみたく三口でそれを口の中に押し込めた。
真っ赤な顔で頬を膨らませ、もぐもぐと一生懸命に頬張る姿が面白くて思わず笑っていると、
それに気付いてふい、とそっぽを向かれてしまった。
「おいしい?」
「……普通」
「ねえ、君、一人なの?」
「だったら何?」
少女はまた泣き出しそうな顔をして、その場にしゃがみ込んだ。
次々と落ちてくる桜の花びらが、少女の体に積もっていく。
「僕と一緒に来る?」
「…あなたも一人なの?」
「少し前はそうだったけど、今は違うよ」
「……べつに、いいけど」
ーーー
その時からホノカとはずっと一緒に過ごしている。
大人になっても相変わらずな意地っ張りだけど、ホノカはその日から僕にとってかけがえのない存在で。
だからこの季節になると、ホノカのことをいつもよりもっと考える。
「ホノカはどうなんですか?」
「なにが?」
「桜を見て、何か思い出したりとか」
「…うん、それはまあ、色々と」
頬を赤らめて下を向くホノカ。
そのせいで、頭の上にはどんどんと桜の花びらが散り落ちていく。
まるであの時みたいだ。変わってないなぁ。
「思い出してくれました?僕のこと」
「覚えてないわけないでしょ」
「あの時は思いつかなかったけど、今の僕ならこうしてたかなぁ」
「わっ…!もう…」
強めに手を引いて、桜の木へ追い詰めた。
髪をそっと撫で、積もった花びらをひらひらと落としていく。
「もう泣かないで、僕がついてますから、って」
「…ふぅん」
「その後、僕に抱き付いて欲しいんですけど、できますか?」
「やるわけないでしょ!」
「はあ、照れ屋さんですねぇ、ホノカは」
「あ…っ」
仕方ないから、僕が一人二役…っていうのも変だけど。
ぎゅっとホノカを包み込んで、後ろに回した手で背中を撫でる。
「もう、一人じゃないですからね」
「…うん」
「僕がずっと一緒にいますからね」
「……ありがとう」
あの日に伝えたかったことを今更。
巡り巡った桜の季節に。
‐おわり‐
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