第二話
夢小説設定
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壁の向こうからは志々雄さんの立てる湯の音がぴちゃっと時折響いていた。ここは湿気で生温い。
見張りをする宗次郎の横にしばらく立っていると、青ざめた血相の男が一人慌てて宗次郎の元へと駆け寄ってきた。
「何です?」
「申し訳ありません!箱根の峠で緋村抜刀斎の奴急に森に入り込み、そのため見失ってしまいました」
小刻みに震える男。この人も宗次郎と出会った時の私のように、心の奥で死と直面しているのだろうか。
宗次郎と視線も合わせられず、ただただ跪き床を見つめる姿に、思わず同情してしまう。
「目下、全力で行方を探してますから…どうか…」
「どうします?志々雄さん」
それに比べて宗次郎は、まるでこの男の命を手の平の上で転がしているように楽しそうだった。
志々雄さんの返答次第では、この男を殺してもいいと、わくわくしているようにも見える。
「いいさ許してやるよ、半年振りの湯治で今は気分がいいんだ。気が変わらん内にとっとと抜刀斎を探して来な」
「あ…有難うございます!」
「良かったですねー。でも、今度こんな失態犯した時は、僕が許しませんからね」
男に近付き、宗次郎はそっと囁く。
この男性たちのことを”僕より弱いだけ”と、先程宗次郎は言っていた。
弱ければ殺される、恐怖で人を支配する組織。
その縮図を垣間見ると、拭いきれていなかった不安が影からひっそりと私の中で膨らんでいった。
「瀬田様!」
「もう、やっと小雨とゆっくり話が出来ると思ったのに。今度は何です?」
「す、すみません…それが…」
「…へえ」
先程の男と入れ違いに、今度は黒尽くめの男が慌てて駆け込んできたが、怯える素振りもなく、謝罪をする訳でもなく、私はその男の様子を見て少しだけ安心した。
宗次郎はと言えば、その男の報告を聞きながら、何やら楽しそうに不穏な笑みを浮かべていた。
「志々雄さん志々雄さん」
「うるせえなぁ今度は何だ」
「左頬に十字傷の男と、日本刀を帯びた警官が、どうやらこの館に向かっている様ですよ」
「成程、俺が挨拶に行く前にわざわざ来てくれるとは…流石は先輩」
志々雄さんから出迎えに行くよう指示を受けた宗次郎に手招きされたが、内容はわからなくとも事の重大さは私でも感じ取れる。
もしかすると、その警官たちは敵で、突然なにか危険なことが始まるのかもしれない。
「私も行くの…?」
「小雨は僕から離れちゃダメですよ。小雨のことは必ず守るって、前に僕言ったでしょう?」
「…うん、わかった」
その笑顔の裏に何があるのか、私はまだ全てを知らない。先程顔を出した不安も、完全に姿を隠したわけではない。
それでも、宗次郎の一言一言は真っ直ぐで、嘘偽りがなく、私の心の隙間にあたたかく充満していくのだった。
続く