第二話
夢小説設定
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「お待たせしました、それじゃあ行きましょうか」
「うん……え、え?!ちょっと、何するの?!」
「何って、京都に行くんですよ?」
「そ、それはわかってるけど…!」
信じられない。私は体をひょいと持ち上げられて、宗次郎の腕の中に居る。なぜか、横抱きされて居る。なんで、なんで?
手を触れるだけでも顔が真っ赤になる私に、この状態はいくらなんでも耐え難かった。
「降ろして!ほんとに!お願い…」
「小雨、落ちないように気をつけてくださいね」
もう、何が起きているのか私にはまったくもってわからない。空を飛んだことはないけれど、私の体は確実に高速で宙に浮いているのがわかる。
一秒で数十メートル分もの景色と私の悲鳴が置いてきぼりになり、東京の街はどんどんと遠くなって行く。
宗次郎、あなたは一体何者なの。
「あ、そうだ。すみません、ちょっと寄り道です」
「やっと止まった…」
「びっくりしちゃいました?」
「宗次郎、その…足が速いんだね…」
「あはは、よく言われます」
なんだかそういう問題ではない気がするのだが、気を取り直して、風になびかれて乱れた髪や着物を整え、顔を上げる。
たどり着いた場所は、少しの高台から見下ろすだけで視界に収まるほどの小さな村。
加えて、人の気配がまったくしない、まるで廃村のような、荒れ果てた村落だった。
「この村で、志々雄さんと落ち合う約束をしているんです」
「志々雄さんって?」
「僕たちを従える、一番偉くて、誰よりも強い人です」
日本の要人暗殺を企てるような組織。その所謂親玉とこれから対面しなければならないなんて。
どんな人か想像もつかないが、会うのは少し、いや結構怖い。
「お帰りなさいませ!」
「お帰りなさいませ、瀬田様!」
「瀬田様、中で志々雄様がお待ちです!」
村を抜けた先には、この村には似つかわしくない、見上げるほど大きな屋敷が建っていた。
私たちの到着と同時にぞろぞろと駆け寄ってくる、黒い覆面の数人の男たち。
深くお辞儀をして宗次郎を持て成す姿から、身分の低さが窺える。
「宗次郎って、偉い人なんだね」
「いいえ、ただこの人たちが僕より弱いだけですよ」
いつものようににこにこしながら平然と口走っているが、すんなりと納得するには難しい鋭さと、妙な違和感がある。
ただ、深く掘り下げるには時間がかかりそうな、重い言葉にも感じた。
少し廊下を歩いた先の大きな戸の前に差しかかると、宗次郎は声もかけずにピシャッとその戸を開く。
「志々雄さん、ただいまぁ」
「礼儀が悪りぃな。声くらい掛けろ」
「すみません。でも、僕に礼儀作法を教えてくれたのは志々雄さんですよ?」
「ったく、減らず口が」
全身に包帯を巻き、鋭い眼をした年齢不詳の男性。おじさん…と呼んだら失礼に当たるだろうか。
ただ、隣に擦り寄りぴったりともたれかかっている女性が美しすぎて、その光景が極端に眩しく感じ、思わず目を逸らした。
「その女は?」
「僕の夜伽役になってもらう、紗月小雨さんです」
「夜伽役?!」
驚きのあまりつい口を挟んでしまった私は、慌てて頭を下げ、最大限の一歩を退いた。
夜伽役。宗次郎は一体何を考えているのか。私は一体何をする役なの。夜伽とは一体。なにも、なにもわからない。
「あらボウヤ、志々雄様の真似事なの?」
混乱して動転している私とは正反対に、その美しい女性はくすくすと笑っている。
志々雄さんと呼ばれる包帯男も薄ら笑い。
当の宗次郎も案の定、いつも通りの素晴らしい笑顔だった。
「まぁいい勝手にしろ。俺はこれから温泉に浸かる。宗次郎、見張りを頼む」
「はい、志々雄さん」
立ち上がり、この部屋を出て行く二人。
すぐに後を続こうとする宗次郎を小走りで追いながら、私は小声でそっと尋ねてみる。
「宗次郎、その…夜伽役って…?」
「さあ?僕にもよくわからないんですけど、志々雄さんの隣にいる由美さん、あの人は志々雄さんの夜伽役なんです」
「へえ、そうなんだ」
「まあ、あんまり気にしないでくださいね」
もしかして、宗次郎は私にああいう風にして欲しいのかな。
すり寄ったり、もたれかかったり、その他にも…その他って……?
「小雨?どうしたんです、また顔を赤くして」
「べ、べつに?」
「ふふ、もしかして、変なこと想像しちゃいました?」
「そんなことないです!」
力の限り首を左右に振り一生懸命に否定をする私を見て、宗次郎はくすくすと妖しい声で笑っている。
宗次郎は私と同じくらいの歳なのに、確実に私より一枚上手な気がするのは、恐らく気のせいではないと思う。