第二話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「よっと」
大久保利通暗殺の任務を終え、馬車から一歩遠ざかる。
白昼堂々暗殺の命を下すだなんて、方治さんもまともじゃないなぁ。
馬車に追いつくのも殺すのも簡単なことだけど、一つの猫みたいな視線が長いこと僕を捉えていた。
見られてもまずいことはないだろうけれど、ついでに殺しちゃった方がいいのかな。
「あれぇ、今の、見ちゃいました?」
視線の主は、僕と同じ歳くらいの女の子。
青ざめた顔をこちらに向け、小さく身震いをしている。
こういう顔は、この十年、何度も何度も見たことがある。
死と直面した人間のする、珍しくない反応だった。
「私を、殺すの…?」
殺しますよ。その顔を見た次にはもう、目の前の人間は僕に斬り殺されてる。
いつも通りのその行動を取ることに、今まで例外はなかった。
“死ぬのがそんなに嬉しいの?”
誰かが遠い昔、僕に同じことを言った。
まさかこの奇妙な感覚が、僕の行動や思考までもを支配するなんて。
「あはは…」
彼女は、笑っていた。
「安心してください。あなたの命をとったりなんて、しませんから」
僕はこの、今まで感じたことのない感覚のせいで、どうしても彼女を殺すことができなかった。
疾っくの疾うに死んでいる筈の彼女は、目の前で嬉しそうに瞳を潤ませている。
ころころと表情が変わって、可笑しな人だなあ。
彼女のことをもっと知ることができたら、僕の中のこの不思議な感覚は一体どうなっていくのかな。
「小雨さんは弱くても、僕が必ず守りますから」
所詮この世は、弱肉強食。
強ければ生き、弱ければ死ぬ。
彼女は弱いから死ぬべきだけど、
この感覚の行方を知りたい。彼女のことをもっと知りたい。
だから、彼女が死んだら僕が困ってしまう。
誰かを守りたいと思うなんて、生まれて初めてのことだった。
ーーー
「…そういえばこの手、どうします?」
「あっ、ごめんなさい…!」
私は宗次郎と手をつないだ状態でしばらく歩いていた。
というのも、先程宗次郎の手を取ってから何一つ体勢を変えていないだけであって、無理やり引き放す理由も特には見つからなかったのだが、
そんなことを言われると急に小恥ずかしくなり、私は慌ててその手を解き、空いていたもう片方の手でぎゅっとその手を握り締めた。
「どうしてそんなに顔を赤くしてるんですか?」
「それは…」
「ふふ、恥ずかしがっている小雨を眺めるのは面白いですね」
面白い…?!
たじろぐ私とは正反対に、悠然とした態度で薄ら笑いを浮かべながら私を見つめる宗次郎。
その視線から逃れるように、なるべく下を向きながら残りの帰路を辿った。
「あ…ここ、私の家」
「じゃあ、身支度済ませておいてくださいね。僕は少し用事があるので、また二日後ここに迎えにきます」
お気に入りの服、化粧品、持って行きたいものは山ほどあるけれど、足りないものは後から揃えたらいいと、なるべく軽装でとのことなので、
理由はわからないが、宗次郎に言われた通り最低限の荷物をまとめ、私は仕事先に突然の退職を申し出た。
「長い間、お世話になりました」
「そう、残念だけど、新しい場所でも頑張ってね」
私を10歳の頃から雇ってくれて、6年間ほぼ毎日、この仕事場と家の往復くらいしかしてこなかった。
人間関係はさほどなかったけれど、私にとっては幼少から大人になるまでの成長の場でもあった。
今更になって、少し切ない気持ちが込み上げてくる。
もしかして、宗次郎に騙されているのかもしれない、途中で裏切られてしまうかも。
不安な気持ちがないとは言い切れないが、今はそれよりも、正体のわからない期待や希望が膨らんで、それを気にしている暇はそこまでなかった。