前日譚2
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本家お抱えの運転手さんの送りで到着したのは嵐山の(花開院本家ほどではないが)大きなお屋敷だった。
「あなた方が花開院の...本日はよろしくお願いいたします。本当に困っておりまして...」
当主だと名乗る初老の男性が深々と頭を下げた。
毎回思うのだが、同業者の中では少し有名とは言えよくもまあこんな小娘と少年に丁寧にできるものだ。
「で、件の井戸とやらに案内してもらえますか。」
竜二が笑みを顔に貼り付けてにこやかに言った。
「井戸から女の声がするんでしたよね、」
私は前を歩く当主に聞いた。
「はい、声が聞こえるようになってから娘も寝込んでおりまして...結婚を控えているのに困っております...」
当主の顔には疲労の色が見えた。
「...これはひどいな。」
「...うん、怨念と妖気が混ざったような嫌な感じ...」
井戸に近づくと竜二も私も顔を顰めた。
とその時、井戸の中から若い女の妖怪が出て来て私をいきなり押し倒した。
「待っておったぞ、××!」
何と呼んだのか聞き取れなかった、馬乗りになって首を絞められる。
声が出せない、式神が呼び出せない。
振り払おうとしても金縛りに遭ったように手が上がらない。
「絵瑠!!ちっ、餓狼!!」
竜二の餓狼が容赦なく女を襲う。
女がうめき声を上げながらあっさりと消え、私の身体の硬直が解けた。
「ごめん竜二。足引っ張っちゃった。」
「まあ今回は仕方なかったんじゃないか。それよりお前の出番はこれからだろ。」
うん、と頷くと私は青ざめた顔で立ち尽くしている当主に声をかけた。
「娘さんに合わせていただけませんか?」
通された薄暗い和室で娘は眠っていた。
私と同じ茶色がかった長い髪。さっきの妖怪が呼んだ名前はこの娘に似た人だったのだろうか。
時折うなされながらじっとりと前髪に汗をかく姿がいかにも苦しそうだ。
「盾舜六花、双天帰盾。」
私の式神が娘の上に現れる。
双天帰盾は我らが柳流お得意の治癒・回復術。私の集中力と体力を消耗するのと引き換えに"呪い"という"事象"の存在を拒絶する。
娘はみるみる穏やかな顔になりゆっくりと瞼を開いた。
「...お父さん?」
当主は娘の手を握り涙を流した。
「ありがとうございます、ありがとうございます。」
「この術式は彼女の得意分野ですから。」
竜二が自分の手柄のように言った。
帰りがけに当主が、あの井戸は昔座敷牢があったところに作ったのだと話した。
旧家であればあるほど、どこの家にも話したくない事情はあるだろう。竜二も私も深く聞きはしなかった。
「あなた方が花開院の...本日はよろしくお願いいたします。本当に困っておりまして...」
当主だと名乗る初老の男性が深々と頭を下げた。
毎回思うのだが、同業者の中では少し有名とは言えよくもまあこんな小娘と少年に丁寧にできるものだ。
「で、件の井戸とやらに案内してもらえますか。」
竜二が笑みを顔に貼り付けてにこやかに言った。
「井戸から女の声がするんでしたよね、」
私は前を歩く当主に聞いた。
「はい、声が聞こえるようになってから娘も寝込んでおりまして...結婚を控えているのに困っております...」
当主の顔には疲労の色が見えた。
「...これはひどいな。」
「...うん、怨念と妖気が混ざったような嫌な感じ...」
井戸に近づくと竜二も私も顔を顰めた。
とその時、井戸の中から若い女の妖怪が出て来て私をいきなり押し倒した。
「待っておったぞ、××!」
何と呼んだのか聞き取れなかった、馬乗りになって首を絞められる。
声が出せない、式神が呼び出せない。
振り払おうとしても金縛りに遭ったように手が上がらない。
「絵瑠!!ちっ、餓狼!!」
竜二の餓狼が容赦なく女を襲う。
女がうめき声を上げながらあっさりと消え、私の身体の硬直が解けた。
「ごめん竜二。足引っ張っちゃった。」
「まあ今回は仕方なかったんじゃないか。それよりお前の出番はこれからだろ。」
うん、と頷くと私は青ざめた顔で立ち尽くしている当主に声をかけた。
「娘さんに合わせていただけませんか?」
通された薄暗い和室で娘は眠っていた。
私と同じ茶色がかった長い髪。さっきの妖怪が呼んだ名前はこの娘に似た人だったのだろうか。
時折うなされながらじっとりと前髪に汗をかく姿がいかにも苦しそうだ。
「盾舜六花、双天帰盾。」
私の式神が娘の上に現れる。
双天帰盾は我らが柳流お得意の治癒・回復術。私の集中力と体力を消耗するのと引き換えに"呪い"という"事象"の存在を拒絶する。
娘はみるみる穏やかな顔になりゆっくりと瞼を開いた。
「...お父さん?」
当主は娘の手を握り涙を流した。
「ありがとうございます、ありがとうございます。」
「この術式は彼女の得意分野ですから。」
竜二が自分の手柄のように言った。
帰りがけに当主が、あの井戸は昔座敷牢があったところに作ったのだと話した。
旧家であればあるほど、どこの家にも話したくない事情はあるだろう。竜二も私も深く聞きはしなかった。