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【第四十四争覇記録:于禁文則】

──そして、私の率いた軍勢は
川の氾濫により水没する。──

高台に登った諸将らは今にも舟を出して襲いくる軍勢に対して、ただただ水を眺めるばかりだ。

『カワイソウニ』

耳元でハッキリと呟かれた。
私は膝から崩れ落ちる。
急になだれ込んできた記憶は、まさしくこの先の『結末』をハッキリと捉えていたのに。
何故忘れていた?あの瞬間だけ、何故………

“声”は続ける。

『カワイソウ』
『オボレテ』『モガイテ』
『ゼンブウシナウ』

『カワイソウ』

「黙れ…っ!!!!」

今からでも武器をとろうとするも、『闇』は私を捕らえて離さない。
膝立ちのまま堪えた精神に追い打ちとばかりに『悪夢』をもって夢幻を錯乱させ、
恐怖による喪失感で、冷汗とともに血色を失わせた。

『オチロ』
『オチロ』

目の前が暗くなって、最後の糸が切れる間際、
ふと、誰かが肩を叩いた。


虚ろなまま顔を上げて、目を見開く。

──特徴的な長い髯……軍神関羽だ。

咄嗟に立ち上がろうとして、また崩れ落ちた。
──情けない。“恐怖”により、すっかり腰が抜けてしまっていたのだ。
そんな無防備な姿だというのに関羽は律儀にも一向に刃を向けてこず、病人を厭うように背をさすった。
それがまた、私の武人としての精神を傷つけていると知らずに。

『大事ないか』

『……せ、…殺、せ…っ!!この、失態は……私に、責任が、ある……私の、首をもって……部下の命を、保証、せよ……!!』

力のない肉体で、縋るように、ありったけの威を込めてそう訴えたが、
関羽は首を横に振った。
それは、あくまで利用価値があるというよりも、諸国の掲げる『意思』のほうが強かった。

『それは出来ぬ。万全ではない、息災である者に手を出すことは『仁義』に反する。拠って、諸将も含め、この軍は全員、江陵にて捕虜となってもらう。
──于禁殿、生きて戻れたら、是非ともまたの戦で交えようぞ。』

関羽は笑ったが、私はうつむいてただただ目を閉じた。
──終わりだ。

黒い身体が、嬉々として
無力な背中にずっしりと絡んだ。
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