【第四十四争覇記録:于禁文則】
【第四十四回争覇記録:于禁文則】
ーー 思えば、この『世界』に《起動(てんせい)》した時から私の体は患(くる)っていた。 ーー
『転生世界』の始動とともに地に足を着いた私は、いつものように、生前の『記憶』の引き継ぎを貰ったはずだった。
……これは『転生』の仕様上、ただの憶測でしかないのだが、
私はこれまでの世界線で選ぶ記憶は、決まって『前世の主君』に関するものばかりだったと思う。
何故なら、私は『記録上』でも、『この世界』でも、あの主君の元でしか自身を活かせなかったからだ。
しかし、今回は違った。
ーー それは、私の『負』の記録。
その膨大かつ、容易に『禁忌』の領域を超えた記憶の波に押し流されるような怒涛の“嵐”は、私の耳元で、すきま風のようにひゅうと囁く。
〝カ ナ シ メ〟
〝ク ル シ メ〟
〝オマエ ハ エ ラ バ レ タ〟
私は、血の気が失せた。
気づけば地面も、空も、全てが血や赤道を闇に混ぜたような生々しい粘着性があって、
その“黒い気配”に、足元から首筋に徐々に這われるような感覚が嗚咽を誘った。
ーー 目に映るのは、目を逸らしたくなるほど鮮明な、間違いなく『私』が生きた姿であって。
苦痛が全身を襲い、ついに悲鳴をあげそうになる口にさえも泥が注ぎ込まれようとした瞬間、
いつの間にやら私は『世界』に帰ってきた。
恐怖に息が上がり、すっかり血の気が失せた顔には脂汗が張り付いていたが
目の前にはもう“闇”は見えない。
私は、この『世界』が怖くなった。
もし、あの時に見えた『記憶』の数々が私の踏む轍だとしたら
生前も『世界』でも繰り返した悲劇だとしたら
あまりにも、あまりにも
「報われないではないか」
きっと、この先も私はこの『記録』を繰り返す。
記憶も根拠もないが、なぜだかそう思えた。
膝から崩れ落ち、両手で顔を覆った先には無数の闇しか広がらない。
私はただ、“貴方”に赦して欲しかっただけなのに。
ーー 思えば、この『世界』に《起動(てんせい)》した時から私の体は患(くる)っていた。 ーー
『転生世界』の始動とともに地に足を着いた私は、いつものように、生前の『記憶』の引き継ぎを貰ったはずだった。
……これは『転生』の仕様上、ただの憶測でしかないのだが、
私はこれまでの世界線で選ぶ記憶は、決まって『前世の主君』に関するものばかりだったと思う。
何故なら、私は『記録上』でも、『この世界』でも、あの主君の元でしか自身を活かせなかったからだ。
しかし、今回は違った。
ーー それは、私の『負』の記録。
その膨大かつ、容易に『禁忌』の領域を超えた記憶の波に押し流されるような怒涛の“嵐”は、私の耳元で、すきま風のようにひゅうと囁く。
〝カ ナ シ メ〟
〝ク ル シ メ〟
〝オマエ ハ エ ラ バ レ タ〟
私は、血の気が失せた。
気づけば地面も、空も、全てが血や赤道を闇に混ぜたような生々しい粘着性があって、
その“黒い気配”に、足元から首筋に徐々に這われるような感覚が嗚咽を誘った。
ーー 目に映るのは、目を逸らしたくなるほど鮮明な、間違いなく『私』が生きた姿であって。
苦痛が全身を襲い、ついに悲鳴をあげそうになる口にさえも泥が注ぎ込まれようとした瞬間、
いつの間にやら私は『世界』に帰ってきた。
恐怖に息が上がり、すっかり血の気が失せた顔には脂汗が張り付いていたが
目の前にはもう“闇”は見えない。
私は、この『世界』が怖くなった。
もし、あの時に見えた『記憶』の数々が私の踏む轍だとしたら
生前も『世界』でも繰り返した悲劇だとしたら
あまりにも、あまりにも
「報われないではないか」
きっと、この先も私はこの『記録』を繰り返す。
記憶も根拠もないが、なぜだかそう思えた。
膝から崩れ落ち、両手で顔を覆った先には無数の闇しか広がらない。
私はただ、“貴方”に赦して欲しかっただけなのに。
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