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君が笑うその世界を愛してる
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吸血鬼の中でも“特別”とされる“純血種”
その血の中に人間の血が混じっていない者の事をそう尊称する。
その血を濃く受け継ぐとされる貴族階級の吸血鬼と比べても寿命が長く若さを保てる事、純血種以外の吸血鬼を従わせる事の出来る風格。
その力も他の追随を許さぬほど強く、捕食者の頂点に立つ者。
しかし年々その数を減らしており、今では純血種家は8家しか現存していない。
その純血種家の1つである“南風野”家。
屋敷のリビングでは、生まれたばかりの我が子を抱き上げ相好を崩す男がいた。
「決めた!玻璃に枢惚れさせてこっぴどく振ってもらおう!
それで復讐した事にする!!」
「……あったま悪い復讐計画ね。まっ、平和的だけど」
生まれたばかりの娘を可愛い可愛いと愛でていた男、玖蘭李土はその妻、南風野瑠璃にバッサリ切られつつも前言を撤回する事はない。
「…だって、樹里は僕じゃなくて悠を選んだんだぞ?悠の方が絶対僕より性質が悪く腹黒いのに…悠の方が優しいと!」
ウルリと瞳を潤ます李土は情けない。しかし、そんな情けないところも好きな瑠璃は夫の頭を優しく撫でる。
「はいはい。…悠が優しいのも本当でしょ?敵認定されなければ、だけど」
一度敵と見定めた相手や(恋の)ライバルには容赦なかったが、樹里に優しかったのも本当だ。
そして恋のライバルである李土に悠がしてきた事の一部を見ていた瑠璃は敵に回したくない。と確かに思う。
それゆえに味方に回せば頼もしい相手ではある。
昔、自分が李土を好きだと知った彼は色々と協力してくれた。
その動機の9割が“ライバル排除”だったとしても彼がいなければ、今こうして李土と共にいる幸せはなかったはずだ。
振られた腹いせに悠殺して樹里を攫おうとした頭の悪い子(李土)は返り討ちにあった。
その時に悠は瑠璃に連絡をくれたのだ。
李土を助けて欲しいと。
悠から貰った情報を元に捜索し、ボロボロになった李土を保護出来たのは運が良かった。
もう少し遅ければいくら純血種といえど、無事ではなかったかもしれない。
直ぐに家に連れ返り手当てをすれば意識を取り戻した李土に「なぜ助けた?」と問われた。
助けた理由など好きだからで…ただそれを言うのは躊躇われた。
李土が好きなのは樹里で、彼女を手に入れようとしてこんな大怪我を負ったのだ。
「同情か…?
お前にされるなど…僕も堕ちたものだ」
言葉を返せぬうちに勝手な解釈をされ、思わず声を荒げた。
「好きだからよ!
李土が好きだから…生きてて欲しいから…助けたんじゃない!!」
はっと、自分が何を口走ったのか気付き慌てて口を押さえるも手遅れで…。
李土は驚いたように瞳を見開くとついで渇いた声で笑いだす。
「はは…お前が?僕を?
なんて質の悪い冗談だ…」
笑う李土を見て、胸が痛む。
この人は…自分の思いを信じもしないのか。
1000年以上続いたこの思いすら否定するのか…。
李土が樹里しかみていない事など知っていたがこれはキツい。
このままでは泣いてしまいそうだと席を外そうとすれば手を掴まれてしまう。
何のようだと睨むようにしてみれば…。
「なら…身体で僕を慰めてみろ」
などとバカな事を言いだすから…。
ーー殺意がわいた。
その衝動に抗わずもう一度ズタボロにした。殺す気でやった。てか死ななかったのが不思議。さすがは純血種の中の純血種。元王族。手負いじゃなければ無理だっただろうけど、手負いだから出来た。
あれ?これで意識あったらスゴくね?といった状態の李土に
「好きだからこそ身代わりで抱かれてなんてあげない!
私が欲しいのなら狂うくらいの愛で私を魅せてごらんなさい!!」
堂々と宣言し、悠にも樹里にも内緒で李土を匿った。
それからも瑠璃は李土の看病をした。
時々李土がバカな事を言っては瑠璃にズタボロにされたため、傷はなかなか完治しなかったけれど100年が経った頃にはさすがに回復していた。
回復した途端に追い出された李土の胸にあったのは“寂しさ”だった。
自然に溢れてくる涙が頬を伝う。
樹里が悠を好きだと言った時よりも寂しい。哀しい。
あの時は怒りの方が強かった。
兄弟妹への復讐とかどうでもよくなって屋敷に戻り瑠璃に告白したら案の定信じてくれなくて、興奮した瑠璃にやっぱりズタボロにされた。
その時に飛び散った血を、どうにか瑠璃の口に入れたおかげで信じてもらえたのだけど。
自分達が血で想いを確認出来る吸血鬼(ヴァンパイア)で良かったと思う。
でなければ瑠璃が信じてくれるまで何年かかった事か…。
それにかかっただろう時間も瑠璃をこの腕に抱けるのが嬉しい。
復讐を100%諦めた訳ではないが、大分どうでもよくはなっていった。
でも悔しいから自分が瑠璃と一緒にいるのは内緒。生死不明の状態を続けて、実の兄を殺したかもしれない恐怖と、いつまた襲撃されるか分からぬ緊張感を持ち続ければいい。
幸せに浸りきれないモヤッと感を味わうがいいさ!
「嫌な男ねぇ~…」
そう言って笑う李土にしみじみと瑠璃は呟いた。
まぁ、どちらが死ぬか分からない復讐方法を諦めてくれたのだから、これくらいは目を瞑ろうと黙認する。
行方不明のままにしておけば元老院からの仕事も無く、一緒にいる時間が増えるのだし。
そのうち仲直りするでしょ。と放っておいたらあっという間に300年が経っていた。まだまだ仲直りする気はないらしい。
悠と樹里には枢と優姫という2人の子供が生まれたし、自分達にも子供が出来た。
生まれてきた子供が“純血”であれば自然相手は限られてくる。
バレるよりはバラした方がいいんじゃない?と持ちかけたところしぶしぶとだが「子供が生まれたら」と頷いてくれた。
数ヶ月の猶予を得た李土は、それでもその時は仲直りをする事を前向きに考えていたのだ。
生まれた玻璃を見るまでは――。
母親譲りの愛らしい顔立ちとミルクティー色の髪。
開いた瞳は母親と同じ深い蒼…ではなく、父親の片目に近い色味の青。
一目で愛娘の虜になった李土はこれなら枢も惚れる!と名前しか知らぬ甥の好みを勝手に決めて先程の頭の悪い発言をした。
「僕の娘だって知られると悠が警戒するだろうから内緒にな?」
「…ぁあ?」
ついガラの悪い声が出てしまったが気にしない。
バカな事を言いだす李土を殴るため娘を返して貰おうとするが逃げられる。
「何、それ?…つまりは李土のくだらない復讐に玻璃と枢くんを巻き込むの?」
バリンッと、近くにあった水差しが割れる。
「…うっ、だが!」
「だいたい!枢くんが玻璃に惚れるか分からないでしょ!?」
純血種は兄弟婚が当たり前。
幼いためかまだ公式ではないが、すでに枢と優姫を婚約させるという話は出ている。
自分の目で見た限りでも枢は優姫にベッタリで、その婚約話を疑問に思うどころか当然と受け止めているようだった。
そこに玻璃が割って入れるとは思わなかったし、まかり間違って玻璃が枢に惚れたらどうしてくれる?
更に何か言ってやろうと息継ぎをしている時だった。
「それなら大丈夫だ!玻璃は瑠璃に似て可愛いし、性格だって玖蘭の男なら気の強い子が好みのはずだ!」
「やっ、まだどんな性格になるか分からないし…」
その断定する口調に気勢を削がれつつも指摘をすれば
「“南風野”の娘なのにか?」
と首を傾げられてしまう。
その言葉にああ、ないな。と納得するのは自分の家がどんなものか良く知ってるから。
「…だめ、か?」
上目遣いのウルウル目で、捨てられた子犬の様な目で見つめられれば強くは言えない。…いわゆる惚れた弱みというやつで。
更に言えば「瑠璃に似て~」発言にもほだされている。
「…でも、玻璃が純血だったら悠は気付くと思うけど?」
普段ニコニコしているから騙されがちだが、悠は鋭い。
瑠璃が李土を好きなのも知ってるし、生まれた子供が純血なら間違いなく当たりを付けるはずだ。
まだ気付かれたくなくて、妊娠が発覚してからは玖蘭家にも行ってないし、会わない様にしていたのだから。
「その件だが、“南風野”の術式に純血の気配隠すものがあったよな?ほら、一時期瑠璃が使ってたやつだ」
「…本来の用途は違うわよ?」
「構わないさ、隠せれば」
ニッと笑う李土を見て、溜め息を付く。
“南風野”の女は唯一人の人に感情の大部分を持っていかれる。
その唯一人の為に感情を乱す。
怒って、泣いて、笑う。
ただそれだけの事なのに、想いは溢れだし、制御出来なくなった感情は破壊衝動となりその唯一人へと向かう。
とどのつまり“殴ること”が“南風野”の愛情表現なのだ。
純血の“南風野”のその愛情表現を受け止められる者など、同じ純血種くらいしかいない。
あの100年に渡った静養期間は単純な抵抗以外にも愛情表現も含まれていたからこそ、あそこまで長引いた。
その“衝動”を抑える為の術式が今李土が言ったもの。
まず“衝動”を抑える為に全ての感情が抑えられる。
次に力を大量消費する為か、力自体も半分ほどになり純血の気配も抑えられてしまう。
そして常に睡魔に襲われる。おそらくは力を使い続けているため。
常にギリギリの状態を維持しているせいか、少し能力を使えば直ぐに強制睡眠へと移行する。
その術を、100年の静養期間中に使っていた時期があった。
その時の瑠璃の態度も李土が自身の気持ちに気付くきっかけとなり、殴られてもいいからいつもの瑠璃がいい。と訴えたのも昔の話。
(…ゴメン、玻璃)
心の中で娘に謝る。
自分はこの男にとことん甘い。
「2つだけ、条件を呑んでくれるなら…」
と白旗を上げれば「なんだ?」と目を輝かせられる。
「玻璃が自分の意志で止めたいって言った時は止めずに、責任を取って公式の場で自分の娘だと証明すること」
「まあ、いいだろう」
「2つ目は…万一枢くんと玻璃が2人の意志で結婚したいと言いだした時は認めること」
「…えっ?」
李土は心底嫌そうな顔をする。
「有り得ないとは言えないでしょう?」
「いっ、嫌だ!玻璃は枢になんてあげないぞ!」
「じゃあダメ」
最低限の約束くらいしておかないと玻璃が可哀想だ。
今度こそ、今にも泣きそうな瞳で見られても負けない。
「ぅう~~っっ…」
この人、3000歳超えてるよね?と10歳児以下の態度に無性に確認したくなる。
「わかっ…た…」
やがて頷いた李土に誓約書まで書かせ、こうして李土のあったま悪い復讐計画は開始される事となった。
END
その血の中に人間の血が混じっていない者の事をそう尊称する。
その血を濃く受け継ぐとされる貴族階級の吸血鬼と比べても寿命が長く若さを保てる事、純血種以外の吸血鬼を従わせる事の出来る風格。
その力も他の追随を許さぬほど強く、捕食者の頂点に立つ者。
しかし年々その数を減らしており、今では純血種家は8家しか現存していない。
その純血種家の1つである“南風野”家。
屋敷のリビングでは、生まれたばかりの我が子を抱き上げ相好を崩す男がいた。
「決めた!玻璃に枢惚れさせてこっぴどく振ってもらおう!
それで復讐した事にする!!」
「……あったま悪い復讐計画ね。まっ、平和的だけど」
生まれたばかりの娘を可愛い可愛いと愛でていた男、玖蘭李土はその妻、南風野瑠璃にバッサリ切られつつも前言を撤回する事はない。
「…だって、樹里は僕じゃなくて悠を選んだんだぞ?悠の方が絶対僕より性質が悪く腹黒いのに…悠の方が優しいと!」
ウルリと瞳を潤ます李土は情けない。しかし、そんな情けないところも好きな瑠璃は夫の頭を優しく撫でる。
「はいはい。…悠が優しいのも本当でしょ?敵認定されなければ、だけど」
一度敵と見定めた相手や(恋の)ライバルには容赦なかったが、樹里に優しかったのも本当だ。
そして恋のライバルである李土に悠がしてきた事の一部を見ていた瑠璃は敵に回したくない。と確かに思う。
それゆえに味方に回せば頼もしい相手ではある。
昔、自分が李土を好きだと知った彼は色々と協力してくれた。
その動機の9割が“ライバル排除”だったとしても彼がいなければ、今こうして李土と共にいる幸せはなかったはずだ。
振られた腹いせに悠殺して樹里を攫おうとした頭の悪い子(李土)は返り討ちにあった。
その時に悠は瑠璃に連絡をくれたのだ。
李土を助けて欲しいと。
悠から貰った情報を元に捜索し、ボロボロになった李土を保護出来たのは運が良かった。
もう少し遅ければいくら純血種といえど、無事ではなかったかもしれない。
直ぐに家に連れ返り手当てをすれば意識を取り戻した李土に「なぜ助けた?」と問われた。
助けた理由など好きだからで…ただそれを言うのは躊躇われた。
李土が好きなのは樹里で、彼女を手に入れようとしてこんな大怪我を負ったのだ。
「同情か…?
お前にされるなど…僕も堕ちたものだ」
言葉を返せぬうちに勝手な解釈をされ、思わず声を荒げた。
「好きだからよ!
李土が好きだから…生きてて欲しいから…助けたんじゃない!!」
はっと、自分が何を口走ったのか気付き慌てて口を押さえるも手遅れで…。
李土は驚いたように瞳を見開くとついで渇いた声で笑いだす。
「はは…お前が?僕を?
なんて質の悪い冗談だ…」
笑う李土を見て、胸が痛む。
この人は…自分の思いを信じもしないのか。
1000年以上続いたこの思いすら否定するのか…。
李土が樹里しかみていない事など知っていたがこれはキツい。
このままでは泣いてしまいそうだと席を外そうとすれば手を掴まれてしまう。
何のようだと睨むようにしてみれば…。
「なら…身体で僕を慰めてみろ」
などとバカな事を言いだすから…。
ーー殺意がわいた。
その衝動に抗わずもう一度ズタボロにした。殺す気でやった。てか死ななかったのが不思議。さすがは純血種の中の純血種。元王族。手負いじゃなければ無理だっただろうけど、手負いだから出来た。
あれ?これで意識あったらスゴくね?といった状態の李土に
「好きだからこそ身代わりで抱かれてなんてあげない!
私が欲しいのなら狂うくらいの愛で私を魅せてごらんなさい!!」
堂々と宣言し、悠にも樹里にも内緒で李土を匿った。
それからも瑠璃は李土の看病をした。
時々李土がバカな事を言っては瑠璃にズタボロにされたため、傷はなかなか完治しなかったけれど100年が経った頃にはさすがに回復していた。
回復した途端に追い出された李土の胸にあったのは“寂しさ”だった。
自然に溢れてくる涙が頬を伝う。
樹里が悠を好きだと言った時よりも寂しい。哀しい。
あの時は怒りの方が強かった。
兄弟妹への復讐とかどうでもよくなって屋敷に戻り瑠璃に告白したら案の定信じてくれなくて、興奮した瑠璃にやっぱりズタボロにされた。
その時に飛び散った血を、どうにか瑠璃の口に入れたおかげで信じてもらえたのだけど。
自分達が血で想いを確認出来る吸血鬼(ヴァンパイア)で良かったと思う。
でなければ瑠璃が信じてくれるまで何年かかった事か…。
それにかかっただろう時間も瑠璃をこの腕に抱けるのが嬉しい。
復讐を100%諦めた訳ではないが、大分どうでもよくはなっていった。
でも悔しいから自分が瑠璃と一緒にいるのは内緒。生死不明の状態を続けて、実の兄を殺したかもしれない恐怖と、いつまた襲撃されるか分からぬ緊張感を持ち続ければいい。
幸せに浸りきれないモヤッと感を味わうがいいさ!
「嫌な男ねぇ~…」
そう言って笑う李土にしみじみと瑠璃は呟いた。
まぁ、どちらが死ぬか分からない復讐方法を諦めてくれたのだから、これくらいは目を瞑ろうと黙認する。
行方不明のままにしておけば元老院からの仕事も無く、一緒にいる時間が増えるのだし。
そのうち仲直りするでしょ。と放っておいたらあっという間に300年が経っていた。まだまだ仲直りする気はないらしい。
悠と樹里には枢と優姫という2人の子供が生まれたし、自分達にも子供が出来た。
生まれてきた子供が“純血”であれば自然相手は限られてくる。
バレるよりはバラした方がいいんじゃない?と持ちかけたところしぶしぶとだが「子供が生まれたら」と頷いてくれた。
数ヶ月の猶予を得た李土は、それでもその時は仲直りをする事を前向きに考えていたのだ。
生まれた玻璃を見るまでは――。
母親譲りの愛らしい顔立ちとミルクティー色の髪。
開いた瞳は母親と同じ深い蒼…ではなく、父親の片目に近い色味の青。
一目で愛娘の虜になった李土はこれなら枢も惚れる!と名前しか知らぬ甥の好みを勝手に決めて先程の頭の悪い発言をした。
「僕の娘だって知られると悠が警戒するだろうから内緒にな?」
「…ぁあ?」
ついガラの悪い声が出てしまったが気にしない。
バカな事を言いだす李土を殴るため娘を返して貰おうとするが逃げられる。
「何、それ?…つまりは李土のくだらない復讐に玻璃と枢くんを巻き込むの?」
バリンッと、近くにあった水差しが割れる。
「…うっ、だが!」
「だいたい!枢くんが玻璃に惚れるか分からないでしょ!?」
純血種は兄弟婚が当たり前。
幼いためかまだ公式ではないが、すでに枢と優姫を婚約させるという話は出ている。
自分の目で見た限りでも枢は優姫にベッタリで、その婚約話を疑問に思うどころか当然と受け止めているようだった。
そこに玻璃が割って入れるとは思わなかったし、まかり間違って玻璃が枢に惚れたらどうしてくれる?
更に何か言ってやろうと息継ぎをしている時だった。
「それなら大丈夫だ!玻璃は瑠璃に似て可愛いし、性格だって玖蘭の男なら気の強い子が好みのはずだ!」
「やっ、まだどんな性格になるか分からないし…」
その断定する口調に気勢を削がれつつも指摘をすれば
「“南風野”の娘なのにか?」
と首を傾げられてしまう。
その言葉にああ、ないな。と納得するのは自分の家がどんなものか良く知ってるから。
「…だめ、か?」
上目遣いのウルウル目で、捨てられた子犬の様な目で見つめられれば強くは言えない。…いわゆる惚れた弱みというやつで。
更に言えば「瑠璃に似て~」発言にもほだされている。
「…でも、玻璃が純血だったら悠は気付くと思うけど?」
普段ニコニコしているから騙されがちだが、悠は鋭い。
瑠璃が李土を好きなのも知ってるし、生まれた子供が純血なら間違いなく当たりを付けるはずだ。
まだ気付かれたくなくて、妊娠が発覚してからは玖蘭家にも行ってないし、会わない様にしていたのだから。
「その件だが、“南風野”の術式に純血の気配隠すものがあったよな?ほら、一時期瑠璃が使ってたやつだ」
「…本来の用途は違うわよ?」
「構わないさ、隠せれば」
ニッと笑う李土を見て、溜め息を付く。
“南風野”の女は唯一人の人に感情の大部分を持っていかれる。
その唯一人の為に感情を乱す。
怒って、泣いて、笑う。
ただそれだけの事なのに、想いは溢れだし、制御出来なくなった感情は破壊衝動となりその唯一人へと向かう。
とどのつまり“殴ること”が“南風野”の愛情表現なのだ。
純血の“南風野”のその愛情表現を受け止められる者など、同じ純血種くらいしかいない。
あの100年に渡った静養期間は単純な抵抗以外にも愛情表現も含まれていたからこそ、あそこまで長引いた。
その“衝動”を抑える為の術式が今李土が言ったもの。
まず“衝動”を抑える為に全ての感情が抑えられる。
次に力を大量消費する為か、力自体も半分ほどになり純血の気配も抑えられてしまう。
そして常に睡魔に襲われる。おそらくは力を使い続けているため。
常にギリギリの状態を維持しているせいか、少し能力を使えば直ぐに強制睡眠へと移行する。
その術を、100年の静養期間中に使っていた時期があった。
その時の瑠璃の態度も李土が自身の気持ちに気付くきっかけとなり、殴られてもいいからいつもの瑠璃がいい。と訴えたのも昔の話。
(…ゴメン、玻璃)
心の中で娘に謝る。
自分はこの男にとことん甘い。
「2つだけ、条件を呑んでくれるなら…」
と白旗を上げれば「なんだ?」と目を輝かせられる。
「玻璃が自分の意志で止めたいって言った時は止めずに、責任を取って公式の場で自分の娘だと証明すること」
「まあ、いいだろう」
「2つ目は…万一枢くんと玻璃が2人の意志で結婚したいと言いだした時は認めること」
「…えっ?」
李土は心底嫌そうな顔をする。
「有り得ないとは言えないでしょう?」
「いっ、嫌だ!玻璃は枢になんてあげないぞ!」
「じゃあダメ」
最低限の約束くらいしておかないと玻璃が可哀想だ。
今度こそ、今にも泣きそうな瞳で見られても負けない。
「ぅう~~っっ…」
この人、3000歳超えてるよね?と10歳児以下の態度に無性に確認したくなる。
「わかっ…た…」
やがて頷いた李土に誓約書まで書かせ、こうして李土のあったま悪い復讐計画は開始される事となった。
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