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君が笑うその世界を愛してる
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月の寮のロビーへと4人連れ添って戻れば、まだ皆が起きだす時間ではないようでシンッと静まり返っていた。
夜間部(ナイト・クラス)の生徒達に余計な事を聞かれずにすんだと、そのまま寮長である玖蘭枢の部屋へと行く。
「枢、入るよ」
「お兄様、失礼します!」
一応ノックはするも返答を待たずに中へと入る。
「優姫、一条、支葵。
…お帰り」
机で書類仕事をしていたらしい枢は顔を上げて3人を労った。
「レベルEはちゃんと狩ってきたよ。…まぁ、実際に狩ったのは彼女だけど」
一条が腕の中にいる少女に視線をやりながら報告すれば、
「玻璃ちゃんが起きないんです、お兄様!」
プチパニックを起こしているらしい優姫が一条達を押し退ける様にして訴える。
「落ち着いて優姫。
…玻璃は昔から一度寝たらなかなか起きなかっただろう?」
立ち上がり、安心させるために優姫を抱き寄せた枢は耳元で優しく囁いたあと指示を出す。
「一条、ひとまず玻璃を寝かせてあげて」
一条はそれに従い、そっと玻璃をカウチへと横たわらせる。
「お兄様…玻璃ちゃんがいるのに驚かないのですか?」
落ち着いている枢を疑問に思って問い掛ければ、今朝こちらに来ると連絡があり、数分前には半狂乱になった運転手から途中でいなくなったとの連絡を受けていたとの返事が返る。
「これから探しに行かせようかと思っていたのだけど…一条達が保護してくれてて良かったよ」
それは面倒事が1つ減ったとばかりの口調だったが、優姫は気付かずにただその説明に納得し、ついで思い出した様に声をあげた。
「わっ、私、玻璃ちゃんの顔を拭かなきゃ!」
スルリと腕の中から抜け出した優姫は、そんな自分を残念そうに見つめる兄の表情を見ることもなくバスルームへと駆け込んだ。
ここにくるまでにある程度落としたとはいえ、全身に浴びてしまった灰はまだアチコチについたまま。
せめて顔だけでも綺麗にしてあげたいというその優しさに、優姫らしいと自然に口元は綻んでいく。
「さて、それでは詳しい話を聞こうか」
しかしその笑みは一瞬で消え、枢は一条と支葵に報告を促した。
報告が済むと支葵は退室したのだが、一条は残って優姫と一緒に玻璃の話で盛り上がっていた。
「玻璃ちゃんかぁ~。名前だけは聞いてたけど…こんなに可愛い子だったんだね」
「そうですよね!玻璃ちゃん可愛いですよね!」
「うん、可愛い!」
きゃーきゃーと盛り上がる優姫の手にはカメラが握られている。
つい先ほど玻璃の顔をキレイにした優姫は、わざわざ自分の部屋からカメラを持ってきて玻璃の写真を撮り始めたのだ。
可愛い可愛い!と興奮状態にある優姫を止める者はなく、満足いくまで撮りまくった後ようやく落ち着いたと思ったらすぐに一条と盛り上がってみせる。
これが優姫でなければ、とうの昔に部屋から閉め出されているはずだ。
だが部屋の主は煩がるどころか優しい瞳で優姫を見ている。
「…あっ、」
一条の声が漏れる。
ふと目を開けた玻璃の、アイスブルーの瞳に囚われる。
「……れ?」
小さな声に、自分が玻璃に見惚れていたと知る。何か言葉を返そうとするも言葉は出て来ない。
「玻璃ちゃ~ん!目が覚めて良かったぁ~!」
一条が声を掛けるより先に優姫が玻璃へと抱きつく。
状況に付いていけないせいか暫し茫然としていた玻璃だが、何があったのか思い出したのか優姫に向かって口を開く。
「ゆ…き、ちゃ?……ぶ、じ?」
「~~っ!玻璃ちゃんが助けてくれたから大丈夫だよ!!」
「よか、…た」
お互いの無事に安堵すると、玻璃は次の質問をする。
「こ…ど、…こ?」
「黒主学園月の寮の僕の部屋だよ。
…久しぶりだね、玻璃?」
「…かな…め、さ…?」
天井付近をさ迷っていた玻璃の視線が枢の姿を捕らえた。
.
「体は大丈夫?痛いところはない?」
視線が合ったところで問い掛ければ若干の間の後にないと答えられる。
「それで?どうして車を降りたりしたの?」
「ゆーき、ちゃ…みつ、け…た…」
「優姫を見かけたから?
それだけの理由で君は車を降り、結果として沢山の人に迷惑を掛けたわけだ?」
「か…枢?」
徐々に怒りを見せ始める枢に、一条は思わず名を呼ぶ。
「今回はたまたま大事にはならなかったみたいだけど…一歩間違えばどうなってたか、分かるよね?」
責め立てられる玻璃は黙ったままだ。
「力を使った後はすぐに倒れてしまうのに。
一条達がいたからいいものを…もし誰もいなかったらどうなっていたのか、考えるのも恐ろしいよ」
「ご…め、な…さ…」
「謝ったら許されるとでも?」
「お兄様…、もう…」
見かねた優姫が止めに入るが、枢の怒りはまだ収まらないらしい。
珍しいと、その光景を見て一条は思った。
枢とは子供の頃からの付き合いだが、妹である優姫の事以外で心を動かすなんて…。
興味のない事や自分の事では怒ったりはしない。
心配したからこその強い口調。
なんだか可哀想になって、
「まぁまぁ、枢。その辺で許してあげなよ」
そう取り成して見たものの、一睨みで後が続かなくなってしまう。
未だ起き上がる事さえ出来ぬ玻璃は僅かに潤む瞳を枢へと向ける。
「ど…すれ、ば…い?」
体調を崩しているためか、それとも元からなのか…幼いその口調と相まって、酷く弱々しく見える。
「……あまり無茶はしないで」
ここで玻璃が頷けば、形だけでもこの場は収まった事だろう。
けれども玻璃は「ム…リ」と言って更に枢の怒りを煽る。
「…玻璃?」
名を呼ぶその声は地を這うように低い。
「から…だ、かっ…て、うご…く。…でき、な…やく…そ、く…しな、い」
ピシリと、部屋の窓ガラスに罅が走る。
それを見ていた優姫と一条の顔が青ざめた。
「で、も。…ど、りょく…す、る…やく…そ、く」
「本当だね?」
「ん…」
少しだけ怒りを収めた枢が問えば、玻璃は今度こそ頷いた。
それで一応の決着が付いたこの話が蒸し返されないように優姫は慌てて話題を変える。
「そ、そそそそういえば!玻璃ちゃんは今日は何のご用事があって来たんですか?」
かなり強引ではあったが、枢も玻璃も気にはしない。
「っ!…おて、が…み!はい…た、つ!」
そしてようやく起き上がった玻璃はきょときょとと視線をさ迷わす。
「あっ、もしかしてコレ探してる?」
一条が取り出したのはクリーム色の小さなポシェットで、カウチに寝かせた時に外した玻璃の持ち物だ。
「そ、れ!」
パッと顔を輝かせた玻璃は礼と共に受け取ると中から分厚い封筒を2通、薄い封筒を3通取り出した。
「ゆーき、ちゃ…に」
と渡したのは分厚い封筒2通。
「…お父様とお母様からだ!」
差出人の名を見て嬉しそうに受け取る優姫の次に、残りを枢へと差し出す。
「ありがとう。…父様と母様と…瑠璃さんから?」
予想していた差出人の他に、意外な人からも届いている。
玖蘭と同じ、純血種家である“南風野”家の者であり玻璃の母親。
何度か会った事はあれど、手紙を貰うほど親しくはない。
一体何が書いてあるのかと開けようとすれば玻璃に止められる。
「何?」
「じゅ、り…さ…、はる、か…さま、…か…さま。の…じゅ、…ば…」
どうやらその順番で読ませてほしいと指示を受けているらしく、ジッと見つめてくる。
瑠璃からの手紙の内容が気になりつつも、枢は最初に樹里からの手紙の封を切った。
“やっほー枢、元気?
全然連絡くれないからお母様寂しいわ。
この手紙の返事くれないと今度そっちに押し掛けちゃうわよ?
それから玻璃ちゃんとちっとも会えなくて寂しいだろうと思って今回手紙を届けに行ってもらっちゃったv
母に感謝してねvvv
樹里”
ぐしゃりと握り締めたくなったが皆がいるため理性で押し留める。
中身を封筒へ戻すと2通目、悠からの手紙を開ける。
“やぁ枢、元気にしてるかな?
今度の休みには優姫と2人で帰ってきてくれると嬉しいな。
玻璃ちゃんも優姫と会えなくなって寂しいみたいだし…枢の仕事が忙しいなら優姫だけでも帰してくれないかな?
あっ、そーだ。
帰ってきたらいい加減に優姫と玻璃ちゃんとどっちが本命なのか教えてね。
もしもそちらで他に本命が出来たのならその子の事を。
そろそろ周りも煩くなってきたしさ。
しっかり捕まえておかないと他の男に盗られちゃうよ?
2人には山ほど見合い話が来てるんだから。
追伸
いくら久しぶりに会うからって玻璃ちゃん襲っちゃダメだよ?
女の子にはちゃんと段階踏んであげないと!
悠”
ぐしゃりと、今度は躊躇せずに握り潰すとそのままゴミ箱へと放り込む。
一体何を考えているのか…頭が痛くなってくる。
幸い優姫は自分宛ての手紙に夢中でこちらを見ていないし、一条は枢の機嫌が悪くなった事を察し少し引きつった笑みを浮かべつつも何も言ってはこない。
玻璃はジッと見ているものの、手紙を読んだかどうかにしか興味がないようでやはり何も言わなかった。
最後に残った手紙は瑠璃からのもので…嫌なものを感じつつも見ないわけにはいかない。
静かに息を吐き、心を落ち着かせてから封を開けた。
“ごめんなさいね、枢くん。
樹里と悠がうちの子絡みで何か変な事言ってるでしょうけど気にしちゃダメよ?
あっ、でも、もしも2人の言うような事を枢くんが思ってるなら覚悟はしといてね?
私の旦那ってば娘ラブでいつも「玻璃は嫁には出さない」とか言ってるから争う事必須よ~。玻璃もファザコンぎみだし。
相手は私の旦那を務められるだけあって手強いから。
まっ、枢くんが優姫ちゃん奥さんにするなら関係ないけど。
私は玻璃の事好きで、浮気しない相手なら誰であろうと反対はしないけど…泣かすなら殺すわよ?
瑠璃”
「………」
手紙はけしかけられているのか、牽制されているのか…どちらか判断しづらい内容のもので、最後に会った時の事を思い出す。
一見、穏やかで優しげに見えるあの女性は、長年自分の両親と親友でいられるだけはある人だと改めて思い知り脱力した。
「よ…だ…?」
手紙から顔を上げた瞬間に問われたので頷く。
それに満足そうに頷いた玻璃は、まだ手紙を読んでいる優姫へと抱きついた。
「ゆーき、ちゃ…ま、た…ね…」
ちゅっ。と軽く頬にキスをしてから玻璃は優姫から離れる。
「あっ、まってまって玻璃ちゃん」
そう言って引き留めたのは一条だった。
「僕は一条拓麻。よろしくね」
「ん…?はえ…の、…はりで…す?」
自己紹介をされ、玻璃もペコリと頭を下げる。
「あのね、今日はこれから僕の誕生日パーティがあるんだ。玻璃ちゃんも参加してくれると嬉しいな」
と一条が笑顔で請えば
「それがいいです!そうしましょう玻璃ちゃん!」
優姫も便乗して誘ってくる。
結果として押し切られた玻璃はパーティに参加する事になった。
夜間部(ナイト・クラス)の生徒達に余計な事を聞かれずにすんだと、そのまま寮長である玖蘭枢の部屋へと行く。
「枢、入るよ」
「お兄様、失礼します!」
一応ノックはするも返答を待たずに中へと入る。
「優姫、一条、支葵。
…お帰り」
机で書類仕事をしていたらしい枢は顔を上げて3人を労った。
「レベルEはちゃんと狩ってきたよ。…まぁ、実際に狩ったのは彼女だけど」
一条が腕の中にいる少女に視線をやりながら報告すれば、
「玻璃ちゃんが起きないんです、お兄様!」
プチパニックを起こしているらしい優姫が一条達を押し退ける様にして訴える。
「落ち着いて優姫。
…玻璃は昔から一度寝たらなかなか起きなかっただろう?」
立ち上がり、安心させるために優姫を抱き寄せた枢は耳元で優しく囁いたあと指示を出す。
「一条、ひとまず玻璃を寝かせてあげて」
一条はそれに従い、そっと玻璃をカウチへと横たわらせる。
「お兄様…玻璃ちゃんがいるのに驚かないのですか?」
落ち着いている枢を疑問に思って問い掛ければ、今朝こちらに来ると連絡があり、数分前には半狂乱になった運転手から途中でいなくなったとの連絡を受けていたとの返事が返る。
「これから探しに行かせようかと思っていたのだけど…一条達が保護してくれてて良かったよ」
それは面倒事が1つ減ったとばかりの口調だったが、優姫は気付かずにただその説明に納得し、ついで思い出した様に声をあげた。
「わっ、私、玻璃ちゃんの顔を拭かなきゃ!」
スルリと腕の中から抜け出した優姫は、そんな自分を残念そうに見つめる兄の表情を見ることもなくバスルームへと駆け込んだ。
ここにくるまでにある程度落としたとはいえ、全身に浴びてしまった灰はまだアチコチについたまま。
せめて顔だけでも綺麗にしてあげたいというその優しさに、優姫らしいと自然に口元は綻んでいく。
「さて、それでは詳しい話を聞こうか」
しかしその笑みは一瞬で消え、枢は一条と支葵に報告を促した。
報告が済むと支葵は退室したのだが、一条は残って優姫と一緒に玻璃の話で盛り上がっていた。
「玻璃ちゃんかぁ~。名前だけは聞いてたけど…こんなに可愛い子だったんだね」
「そうですよね!玻璃ちゃん可愛いですよね!」
「うん、可愛い!」
きゃーきゃーと盛り上がる優姫の手にはカメラが握られている。
つい先ほど玻璃の顔をキレイにした優姫は、わざわざ自分の部屋からカメラを持ってきて玻璃の写真を撮り始めたのだ。
可愛い可愛い!と興奮状態にある優姫を止める者はなく、満足いくまで撮りまくった後ようやく落ち着いたと思ったらすぐに一条と盛り上がってみせる。
これが優姫でなければ、とうの昔に部屋から閉め出されているはずだ。
だが部屋の主は煩がるどころか優しい瞳で優姫を見ている。
「…あっ、」
一条の声が漏れる。
ふと目を開けた玻璃の、アイスブルーの瞳に囚われる。
「……れ?」
小さな声に、自分が玻璃に見惚れていたと知る。何か言葉を返そうとするも言葉は出て来ない。
「玻璃ちゃ~ん!目が覚めて良かったぁ~!」
一条が声を掛けるより先に優姫が玻璃へと抱きつく。
状況に付いていけないせいか暫し茫然としていた玻璃だが、何があったのか思い出したのか優姫に向かって口を開く。
「ゆ…き、ちゃ?……ぶ、じ?」
「~~っ!玻璃ちゃんが助けてくれたから大丈夫だよ!!」
「よか、…た」
お互いの無事に安堵すると、玻璃は次の質問をする。
「こ…ど、…こ?」
「黒主学園月の寮の僕の部屋だよ。
…久しぶりだね、玻璃?」
「…かな…め、さ…?」
天井付近をさ迷っていた玻璃の視線が枢の姿を捕らえた。
.
「体は大丈夫?痛いところはない?」
視線が合ったところで問い掛ければ若干の間の後にないと答えられる。
「それで?どうして車を降りたりしたの?」
「ゆーき、ちゃ…みつ、け…た…」
「優姫を見かけたから?
それだけの理由で君は車を降り、結果として沢山の人に迷惑を掛けたわけだ?」
「か…枢?」
徐々に怒りを見せ始める枢に、一条は思わず名を呼ぶ。
「今回はたまたま大事にはならなかったみたいだけど…一歩間違えばどうなってたか、分かるよね?」
責め立てられる玻璃は黙ったままだ。
「力を使った後はすぐに倒れてしまうのに。
一条達がいたからいいものを…もし誰もいなかったらどうなっていたのか、考えるのも恐ろしいよ」
「ご…め、な…さ…」
「謝ったら許されるとでも?」
「お兄様…、もう…」
見かねた優姫が止めに入るが、枢の怒りはまだ収まらないらしい。
珍しいと、その光景を見て一条は思った。
枢とは子供の頃からの付き合いだが、妹である優姫の事以外で心を動かすなんて…。
興味のない事や自分の事では怒ったりはしない。
心配したからこその強い口調。
なんだか可哀想になって、
「まぁまぁ、枢。その辺で許してあげなよ」
そう取り成して見たものの、一睨みで後が続かなくなってしまう。
未だ起き上がる事さえ出来ぬ玻璃は僅かに潤む瞳を枢へと向ける。
「ど…すれ、ば…い?」
体調を崩しているためか、それとも元からなのか…幼いその口調と相まって、酷く弱々しく見える。
「……あまり無茶はしないで」
ここで玻璃が頷けば、形だけでもこの場は収まった事だろう。
けれども玻璃は「ム…リ」と言って更に枢の怒りを煽る。
「…玻璃?」
名を呼ぶその声は地を這うように低い。
「から…だ、かっ…て、うご…く。…でき、な…やく…そ、く…しな、い」
ピシリと、部屋の窓ガラスに罅が走る。
それを見ていた優姫と一条の顔が青ざめた。
「で、も。…ど、りょく…す、る…やく…そ、く」
「本当だね?」
「ん…」
少しだけ怒りを収めた枢が問えば、玻璃は今度こそ頷いた。
それで一応の決着が付いたこの話が蒸し返されないように優姫は慌てて話題を変える。
「そ、そそそそういえば!玻璃ちゃんは今日は何のご用事があって来たんですか?」
かなり強引ではあったが、枢も玻璃も気にはしない。
「っ!…おて、が…み!はい…た、つ!」
そしてようやく起き上がった玻璃はきょときょとと視線をさ迷わす。
「あっ、もしかしてコレ探してる?」
一条が取り出したのはクリーム色の小さなポシェットで、カウチに寝かせた時に外した玻璃の持ち物だ。
「そ、れ!」
パッと顔を輝かせた玻璃は礼と共に受け取ると中から分厚い封筒を2通、薄い封筒を3通取り出した。
「ゆーき、ちゃ…に」
と渡したのは分厚い封筒2通。
「…お父様とお母様からだ!」
差出人の名を見て嬉しそうに受け取る優姫の次に、残りを枢へと差し出す。
「ありがとう。…父様と母様と…瑠璃さんから?」
予想していた差出人の他に、意外な人からも届いている。
玖蘭と同じ、純血種家である“南風野”家の者であり玻璃の母親。
何度か会った事はあれど、手紙を貰うほど親しくはない。
一体何が書いてあるのかと開けようとすれば玻璃に止められる。
「何?」
「じゅ、り…さ…、はる、か…さま、…か…さま。の…じゅ、…ば…」
どうやらその順番で読ませてほしいと指示を受けているらしく、ジッと見つめてくる。
瑠璃からの手紙の内容が気になりつつも、枢は最初に樹里からの手紙の封を切った。
“やっほー枢、元気?
全然連絡くれないからお母様寂しいわ。
この手紙の返事くれないと今度そっちに押し掛けちゃうわよ?
それから玻璃ちゃんとちっとも会えなくて寂しいだろうと思って今回手紙を届けに行ってもらっちゃったv
母に感謝してねvvv
樹里”
ぐしゃりと握り締めたくなったが皆がいるため理性で押し留める。
中身を封筒へ戻すと2通目、悠からの手紙を開ける。
“やぁ枢、元気にしてるかな?
今度の休みには優姫と2人で帰ってきてくれると嬉しいな。
玻璃ちゃんも優姫と会えなくなって寂しいみたいだし…枢の仕事が忙しいなら優姫だけでも帰してくれないかな?
あっ、そーだ。
帰ってきたらいい加減に優姫と玻璃ちゃんとどっちが本命なのか教えてね。
もしもそちらで他に本命が出来たのならその子の事を。
そろそろ周りも煩くなってきたしさ。
しっかり捕まえておかないと他の男に盗られちゃうよ?
2人には山ほど見合い話が来てるんだから。
追伸
いくら久しぶりに会うからって玻璃ちゃん襲っちゃダメだよ?
女の子にはちゃんと段階踏んであげないと!
悠”
ぐしゃりと、今度は躊躇せずに握り潰すとそのままゴミ箱へと放り込む。
一体何を考えているのか…頭が痛くなってくる。
幸い優姫は自分宛ての手紙に夢中でこちらを見ていないし、一条は枢の機嫌が悪くなった事を察し少し引きつった笑みを浮かべつつも何も言ってはこない。
玻璃はジッと見ているものの、手紙を読んだかどうかにしか興味がないようでやはり何も言わなかった。
最後に残った手紙は瑠璃からのもので…嫌なものを感じつつも見ないわけにはいかない。
静かに息を吐き、心を落ち着かせてから封を開けた。
“ごめんなさいね、枢くん。
樹里と悠がうちの子絡みで何か変な事言ってるでしょうけど気にしちゃダメよ?
あっ、でも、もしも2人の言うような事を枢くんが思ってるなら覚悟はしといてね?
私の旦那ってば娘ラブでいつも「玻璃は嫁には出さない」とか言ってるから争う事必須よ~。玻璃もファザコンぎみだし。
相手は私の旦那を務められるだけあって手強いから。
まっ、枢くんが優姫ちゃん奥さんにするなら関係ないけど。
私は玻璃の事好きで、浮気しない相手なら誰であろうと反対はしないけど…泣かすなら殺すわよ?
瑠璃”
「………」
手紙はけしかけられているのか、牽制されているのか…どちらか判断しづらい内容のもので、最後に会った時の事を思い出す。
一見、穏やかで優しげに見えるあの女性は、長年自分の両親と親友でいられるだけはある人だと改めて思い知り脱力した。
「よ…だ…?」
手紙から顔を上げた瞬間に問われたので頷く。
それに満足そうに頷いた玻璃は、まだ手紙を読んでいる優姫へと抱きついた。
「ゆーき、ちゃ…ま、た…ね…」
ちゅっ。と軽く頬にキスをしてから玻璃は優姫から離れる。
「あっ、まってまって玻璃ちゃん」
そう言って引き留めたのは一条だった。
「僕は一条拓麻。よろしくね」
「ん…?はえ…の、…はりで…す?」
自己紹介をされ、玻璃もペコリと頭を下げる。
「あのね、今日はこれから僕の誕生日パーティがあるんだ。玻璃ちゃんも参加してくれると嬉しいな」
と一条が笑顔で請えば
「それがいいです!そうしましょう玻璃ちゃん!」
優姫も便乗して誘ってくる。
結果として押し切られた玻璃はパーティに参加する事になった。
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