第一章:引きこもり魔女姫と蓮の騎士の再会
[必読]概要、名前変換
・概要ゆるふわ中世ファンタジー悪役令嬢ものっぽいパロディ
なんでも許せる人向け
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あの日交わした約束。
最初から、王家とルナドプリムスにとっては熟考の末だったのかもしれないけれど、第二王子ルシアン殿下との婚約が定められていた私にとっては最初で最後のロマンスのような、そういった約束だった。
「俺は、強い騎士になりたい」
「…カンダ男爵様のような?」
「父のようでなくとも、強くありたい」
「漠然としてますのね」
学園に上がる前の幼子に求める問答にしては求めすぎだったかもしれない。だがあのときの私はいずれ身辺を護らせることになる未来の近衛に対して期待をしていた。
武勲によって爵位を得た新興の男爵家であっては嫡男であろうとも王族の護衛という立場は易易と手に入るものではなかった。それはあの交流会で一番に見出されていたとしても変わるはずはなく。故にわかりやすい実績が、立場にふさわしい称号が彼には必要だった。
「学園では最優秀者が表彰されると知っていて?」
「…初耳です」
「私は、魔術師として表彰を受けるつもりでいますの」
「ならば俺は、最優の騎士となる 貴女と並び立ち表彰を受けると約束しよう」
「ええ、約束」
当代一の魔術師であることが王国から私に求められた全てであり、それこそが殿下を婚約者にする理由の全てであった。それと共に表彰され、在学中も殿下の護衛を務めていれば実績としては十二分に用意できる。
だからこそ交わした約束は純粋に嬉しかった。共に並び立つと言った芯の強い抜ける青空のような瞳が美しいと思った。彼と殿下を支えていく未来に何の疑問も抱かなかったのだ。
あれが初恋だったと気付いたのは随分と後になってからで、そのときには状況が何もかも違っていた。
学園への入学を控えた頃に起きた二つの事件。一つは当時のカンダ領で起きた痛ましい事故であり、一つは王都にあるアサクラ家のタウンハウスを襲った火事であった。カンダ男爵はその事故により若くして遥か高みへの階段を昇られ、アサクラ家は私と留学中だった養子の兄、数人の家臣以外に残らなかった。
火事で負った怪我を療養するために領地へ籠もるうちに学園への入学は遅れていた。風の噂で共に約束を交わしたあの小さな騎士がティエドール公爵家の養子に迎え入れられたと聞いた。あの美しく、意志の強い瞳が失われずに済んだのだと安心して涙が出て、それで初恋だったのだと気がついた。
殿下の婚約者でありながらの許されざる初恋は胸に秘める淡い思い出にするつもりだったのだ。可愛らしい思い出にして、殿下に、王国に仕えようと努めてきたつもりだった。だからこそ「爛れ顔の魔女姫」だなどという荒唐無稽な噂話も許したし、あろうことかそれを信じ切ってヴェールの着用を命じてくる殿下の戯言にだって付き合った。
時間の大半を領地で過ごし、勉学と魔術の修行と、我が家を燃やした敵の調査を進める日々。試験の時にしか顔を出さない爛れた顔をヴェールで隠した引きこもりの令嬢は、誰の目に見ても王族の第一夫人には相応しくなかった。その筆頭にルシアン第二王子殿下はいらっしゃった。最低限の交流として学園に赴くたびに挨拶に伺ったものの返ってくるのは見当違いの小言ばかり。その上数百年に一度しか現れないという聖女が当代に見つかって、それが可憐なご令嬢であったものだから殿下に口実が出来てしまった。元より王国の力を盤石にするための婚約だ。娶るのはルナドプリムスでなく聖女であっても良いと考えたらしい。この第二王子の主張を受けて国王陛下は一方で落胆し、もう一方で歓迎なさったのだ。
結局のところ国王陛下は両取りを選び、社交に不安の残る私を第二夫人にし、聖女と目されたダルヴィン嬢を第一夫人に迎える計画だった。
まあ、後の顛末はなんてこと無く。それすらご不満のルシアン殿下は私との婚約破棄を堂々と宣言なさって、私が受けるはずだった表彰の栄誉の権利は剥奪された。繰り上がりでダルヴィン嬢が表彰されたと聞いたときには顔の引きつりを隠せなかった。
何よりもあの日、浅ましくも殿下に縋った姿を彼に見られたことが、表彰の席で彼に並び立つという約束を破ってしまったことが辛くて仕方がなかった。