第一章:引きこもり魔女姫と蓮の騎士の再会
[必読]概要、名前変換
・概要ゆるふわ中世ファンタジー悪役令嬢ものっぽいパロディ
なんでも許せる人向け
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「これは一体どういうことかアサクラ嬢!私は護衛の変更に同意した覚えはないぞ!」
「…朝早くから騒々しい 使えぬならば変えると最初に申したはずです」
「田舎の小娘が王命に異議を唱えるつもりか!」
ノックもなく扉を開け放ち入ってきたのは三十代そこそこの騎士だった。無礼にも屋敷の当主に向かって声を荒らげているが、なるほどこれが俺の前任者らしい。アルマの耳打ちしてくる内容によれば、この男は騎士の立場と年に胡座をかいてはロクに仕事もせずにこの地に居座ろうとしていたらしい。追い出されても宜なるかな。無礼だと切り捨てないぶんアサクラ嬢の対応が甘すぎるとさえ言える。
「王命ですか… イザベル、書状は積荷の中に?」
「ええ姫様 昨晩届いております、どうぞこちらを」
「…検めなさい、貴方の次の仕事は王都へ戻る馬車の護衛です 荷を積み終えたら即刻出発するように」
昨夜出迎えてくれた赤髪の使用人、イザベルと呼ばれたその女は彼女のメイドらしい。相当腕の立つ様子で動きに無駄がなかった。
門の方から昨夜運び込んだ荷を下ろし、新たな荷を積み直す男共の声が聞こえる。ご令嬢の送迎だから荷車が多いのかと思っていたが指令にあった成果物とやらを王都に運び込むために用意されていたらしい。
違えようもない国王陛下の印璽がなされた書状を突きつけられているにも関わらず男の勢いは留まるところを知らなかった。ゴネにゴネを繰り返し何とか留まろうと必死で実に浅ましい。
「…アサクラ嬢、王都へ出発する前に引継を終えてしまいたいのですが」
「不要です そもこの男に引継をする仕事など与えておりませんので」
これでは俺の仕事が進まないからと口を挟んだが、予想を遥かに下回ったご回答が帰ってきた。まあ確かに、護衛すらまともにしていない様子を見れば引継の必要はなさそうではある。
「では、今をもって引継が終わったとみなしても?」
「結構です …さあ、早く帰り支度をして頂戴」
「……爛れ顔の行き遅れの癖に、次の男には呪われた騎士様とは高望みをしたもんだ」
ついにゴネることすらやめた男から漏れた極々小さな恨み言。聞こえないとでも思っていたのか俺の顔を睨みつけて、何故か勝ち誇ったように嘲るその口元。
「…貴公はどうも立場が解っていないようだ、この場でアサクラ嬢への無礼が許されると思うな」
逃げるように場を辞そうとした男に、抜き放った剣を突きつける。この部屋に入ってきてからと言うもの、この男の振る舞いには目が余った。引継を終えた以上、彼女の護衛騎士となった俺を前にして暴言など到底許される行為では無い。
騎士がいきなり殺気を振りまいて剣を抜く、という大抵の令嬢ならば震え上がって当然の事態に、お上品に椅子に腰かけていた彼女の態度は実に凪いでいた。ちらりとこちらに目をやって、まるでちょっとした風が吹いたから窓を閉めて欲しいという具合に命じてくる。
「…その男を縛り上げてくださる?」
「馬車の護衛がいなくなりますが」
「あら、うちの御者は優秀なの 問題なく荷を運んでくれるわ ね、アントニオ?」
「へいお嬢、昨日でた魔獣だけが気がかりですが 王都までなら俺一人で問題ありやせん」
だそうなので男を縛り上げた。アントニオと言う御者は俺達をここまで運んだ男だった。魔獣騒ぎの時も御者とは思えんほど真っ当に戦っていたので、言葉に偽りはないだろう。
「…さて、カンダ様」
アサクラ嬢が改まってこちらを見据えてくる。視線はヴェールによって遮られているが、どうも抗えない圧があった。
「着任早々で悪いのですが護衛騎士としての、最初の仕事をお願いしたいわ」
「……なんなりと」
無礼者を縛り上げるのは仕事に数えられていないらしい。
「視察に向かわねばなりません 同行願います」
「承知しました」
「イザベル、馬車」
「用意してございます」
「アントニオ、荷積みが終わったらすぐ出発して、それまでにカタをつけます」
「あー、いつものアレが積んであったんですが」
「……いつも通り、適当に処理するように」
「へいお嬢」
「では、向かいましょう 昨夜、魔獣が出た森まで」
令嬢が向かうにはどうも危険すぎるきらいがあるが、その堂々とした立ち振る舞いに、抗えぬ圧に口を挟むことさえ許されなかった。