第一章:引きこもり魔女姫と蓮の騎士の再会
[必読]概要、名前変換
・概要ゆるふわ中世ファンタジー悪役令嬢ものっぽいパロディ
なんでも許せる人向け
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ルナドプリムス侯爵領は王国の北端、辺境伯領の隣に位置している。領地の大半を山岳と森が占める天然の砦に守られた秘境の地。それが俺が知るルナドプリムス侯爵領だった。
王都から馬車に揺られ数日、遠くに見えていた山頂が見上げるほどに近くなるにつれ空気が冷たくなっていく。領境で石造りの大門と両端に聳える切立った崖を見て身震いをした。攻め入るに難く、守るに容易い。難攻不落の自然要塞がそこにはあった。
ルナドプリムス領主邸、有り体に言えば古城だったが、に到着したのは日が沈んでしばらくしてからだった。日暮れ前を目処に到着する予定が、道中襲いかかってきた蛇の魔物を始末するため時間を食っていた。
「お待ちしておりました ユウ=カンダ・ティエドール様」
「出迎えに感謝する 道中、魔物が出たため遅くなった」
「…左様でございましたか」
「始末はつけてきたが、警戒するに越したことは無いだろう」
「ありがとう存じます 夜分も遅いことですし詳しくは明日、姫様からお伺いすることになるかと存じます 部屋を用意しておりますので、今夜はお休みくださいませ」
「承知した」
既に灯りの落とされた領主邸で使用人と思しき赤髪の女に出迎えられた。護衛対象である魔女姫は既に眠ったらしくこの場には居ない。領主邸のほど近くに建てられた別邸の一室に通される。暖炉に火の焚べられた温かな部屋だった。さほど多くない荷物を運び込んで早めに床につく。明日からは魔女姫を護衛しつつ、王都に送り届けることになる。少しでも体力を回復しておきたかった。
明朝、いつも通り五時に目を覚ました。日の昇り始める前の赤く灼けた空の元で剣を振るうのは染み付いて離れぬ習慣のようなものだ。周囲を白い山に囲われた小高い丘の上に位置する領主邸の麓には小さな湖があるようで、別邸の庭から光る水面が見える。
ふと、視線を感じた。昨日の赤髪の使用人ではない。アルマもまだ起きてくるような時間ではない。それに、この視線は昨夜も感じたのだ。灯りの落とされた領主邸の上階の窓から、誰かが俺を見ていた。
「何か用か?」
誰何とともに辺りを見回すも人影はない。ただ、視線だけがどこかに消え去っていった。
朝食を終え呼ばれた席で今回の護衛対象を確認した。黒いヴェールで顔を覆った令嬢はどこか魔性を帯びた声で名乗りを上げる。
「昨夜はお出迎えも出来ず大変申し訳ございません この地、ルナドプリムスを治めておりますアサクラ侯爵家が娘、ジュンと申します」
「…ユウ=カンダ・ティエドールだ 昨夜についてはこちらが遅れた故、謝罪の必要は無い」
「お気遣い痛み入ります」
「アサクラ嬢、俺は貴方様の送迎を仰せつかっている 早速だが出立の準備を」
「いいえカンダ様、私は王都へは参りません」
きっぱりと、実に堂々とした態度で彼女は告げた。
「…それは、どういう了見か」
「そもそも、の話ですが クロス元帥からの命に私の帰還は含まれておりません」
「意味を理解しかねるが」
「……カンダ様はクロス元帥からの指令をもらうのはこれが初めてでしょうか」
「そのとおりだ」
「あの仮面髭面メガネ、失礼 元帥閣下の指令には少々癖がございます」
少々どころではない大きさの少々だった。
持っているかと尋ねられたのでアルマに持たせていた指令書を机の上に出す。同じようにして出されたのは彼女のもとに届いたという指令書だった。
「カンダ様の方には護衛と送迎、私の方には成果物の提出と帰還と記されています が、元帥の指令で求められているのは一つ目の方だけ つまりは護衛と提出が本題ですわ」
「…まさか」
「文末の、少し下を御覧くださいな 非常に小さい文字で帰還の時期は追って連絡すると書いてあるはずです」
良く見れば確かに書いてあった。アルマにも改めさせたので間違いは無い。しかしこんな、こんな小細工を見落とすだろうか。と、訝しんだ答えはすぐに返ってきた。
「魔術で作られたインクですよ、研究所じゃよく使われているので見分ける方法をお伝えしておきましょう」
「…かたじけない だが、つまり 今回の指令は」
「この地で私の護衛をして、知らせがあるまで戻るな と読めますね」
「……本当に、随分と少々癖のある指令書だ 信用できたものじゃない」
「簡単ですわ、一つ目だけこなしていればよいのです 指令が二つある場合は二枚届きますから」
「………承知した」
軍部とは全く異なるやり方に正直なところ困惑してはいるが、上官のやり方にケチを付けるわけにもいかない。俺が納得を絞り出せば、くすくすと鈴を転がすような笑い声が聞こえた気がした。表情の一つも変化させる素振りがなかったから、笑ったりするような性格では無いのだろうと踏んでいたがどうやら違うらしい。
改めて此度の任務の概要を認識して、ずっと気になっていた件を切り出すことが出来た。
「ところで、前任の姿が見えないようだが」
「ああ、アレでしたら もうじきやってくるかと」
クロス元帥を「仮面髭面メガネ」と呼んだときの声も冷えていたが、それすら些事に感じるほどの酷く底冷えした声で、彼女は前任者を「アレ」と呼んだ。俄に部屋の外が騒がしくなる。ドタドタと大きな足音を立てながら誰かが扉の前に近づいてきていた。