第一章:引きこもり魔女姫と蓮の騎士の再会
[必読]概要、名前変換
・概要ゆるふわ中世ファンタジー悪役令嬢ものっぽいパロディ
なんでも許せる人向け
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連合王国成立の折に当時のグレイノワール王家に協力した四つの諸侯があった。「建国の四公爵」と呼ばれる四家は現王家との血縁を持たないながら連合王国の中枢にて確かな権力を有していた。
ナイン公爵家、ウィンターズ公爵家、クロス公爵家、そしてティエドール公爵家。中でもティエドール公爵家の現当主であるフロワ・ティエドール公爵閣下は奇特な人物であった。爵位の高低に関わらず庶民に至るまでその眼鏡に適った人材は重用される。あまつさえ有望と目されるならば庶子であれ孤児であれ養子に据えるのだ。
ユウ=カンダ・ティエドールはそんなティエドール公爵家の三番目の養子である。元は度重なる戦乱の中、庶民でありながら戦果により爵位を得たカンダ男爵家の一人息子であった。十歳になる年に事故で父を失い、公爵閣下に見初められた彼はティエドール家三男坊になった。
建国の四公爵、それも跡継ぎでない三男坊。王族からの覚えもめでたく、学園では第二王子の護衛を務め最優秀の騎士として表彰を受けた。花も霞むと言われるほどの美貌と夜闇のような艶やかな長髪は、陽の光の如き明るい美貌の第二王子と対比して、月光の如き夜の君などと囀られるほど。兎にも角にも彼は同世代の羨望の的、抜群の婚約相手の一人であった。
そんな彼は周囲の予想と期待を他所に、第二王子の護衛という花形を捨て戦地へと身を投じていた。南東の国境から届く彼の戦果は凄まじいものがあった。曰く、戦場に五体満足で立っていたのは彼一人だけだった。曰く、返り血のひとつも浴びなかった、と。泥濘と血に汚れた戦場でただ一人麗しく立ち続けるその姿に、彼の血に混じる極東の花を重ねて『蓮の騎士』と渾名されるまでにそう長くはかからなかった。
「見て、ユウ! こっちはまだ雪が残ってるよ!」
「…春だと言うのに随分と寒いな」
「念の為暖かい上着持ってきて正解だったね ひざ掛けいる?寒くない?」
「いらん」
その『蓮の騎士』様は従者であるアルマ・カルマと共に北の辺境に向かう馬車に揺られていた。父を失った事故に同じく巻き込まれた彼は、従者というより幼馴染や兄弟に近い気安い関係であった。それに畏まられるのはユウの性分にどうしても合わず、出来る限り対等に接するというのが二人の取り決めだ。
馬車が向かうのは彼の新たな仕事先、ルナドプリムス領主邸だ。
南方各地の戦地を巡り行く先々で戦果を挙げたユウは、先日ティエドール公爵閣下に呼び戻された。学園を卒業してからというもの働き詰めだった彼を心配して、あるいは舞い込む見合い話を戦地勤めを理由にして斬って捨てる彼を窘める為か。戻った彼を待っていたのは見合い写真の山と既に受理された休暇届けであった。
「…元帥、お断り頂くように申し上げたはずです」
「パパ、だよ ユー君」
「……父上、俺はまだ結婚などする気はありません 休暇も結構です」
「おやおや、困ったね」
「カンダ、見合いを断るのは良いが 休暇は取ってくれないか、私も父上も心配しているのだ」
「マリ、その休暇とやらの間にくだらんパーティーに連れ出され見合いの真似事をさせられるんだぞ 誰が取るか」
頑として首を縦に降らないユウを見かねたように口を挟んだのはノイズ=マリ・ティエドール。公爵閣下の一番目の養子にして跡継ぎ、つまり彼の長兄にあたる。
しかして彼らの問答は平行線を辿る。一晩に及びそうな押し問答の末、ティエドール公爵閣下が持ち出したのは一枚の令状であった。ユウ=カンダ・ティエドールへの異動令状、軍部から王国魔導研究所へ異動せよとのお達しである。軍部のトップたる公爵元帥閣下の命令とあらば頷かざるを得ない。
外から見れば左遷この上ない待遇ではあるが、彼にとってはどうでもいい事だった。
・・・
受理された休暇を形だけ消化するように二日だけ家に滞在し、向かった王国魔導研究所は坩堝のような場所だった。なんでもトップに御座すクロス元帥の志向で使える人間はなんでも使う方針らしい。アルマの俺に対する態度も咎められず、向こうも無駄に謙って来ないのはまあ良かった。元帥の弟子とかいう白髪のモヤシ野郎は無駄に失礼だったが、まあそれはそれだ。職場として文句は無い。
研究所を一通り案内されている中に、妙に格調高く整えられた一室があった。
「ああ、その部屋ですね 魔導研究所の魔女様の部屋ですよ 今は療養中らしいですが、何時でも戻って来られるように部屋だけは整えておけって師匠が言ってました」
「…魔女?」
「知らないんですか? 当代一の魔術師は、聖女のセリーナ様と魔女姫様のどっちか〜? なんてよく聞く話題じゃないですか」
余程人との交流を断ってたんですねという減らず口と共に先に進んだモヤシの後を追って元帥閣下の元に通される。そこで拝命した仕事こそ、その話題の魔女姫とやらの護衛と送迎の任務だった。
持ち込んだ荷物をそのままに馬車を数台引き連れての大所帯で王都を発つ。なんとも適当な様子のクロス元帥から渡された指令書に記された魔女姫の名前には覚えがあった。ジュン・アサクラ=ルナドプリムス侯爵令嬢、二年前学園の卒業式で婚約を破棄されていた『爛れ顔の魔女姫』、彼女を王国魔導研究所まで護衛することが新たな任務だった。