長編と同じ夢主を想定しています
【おすすめ】短編集
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
日付を回る少し前に降り始めた雨が男の髪を濡らしている。張り付いた長い前髪の隙間から暗い瞳を覗かせて、その指は彼女の部屋のインターフォンを押した。
枕元に置いておいたスマートフォンが震える音で純は身を捩らせた。どうせしょうもない通知音かなにかだろう。窓を叩きつける雨粒の音がする。布団に潜り込んだ後に降り始めたらしい。朝には止んでるといいななんて、合間を空けて何度か届く通知を無視しながら彼女は眠りの中にいた。
そのうちに断続的にスマホが震え出す。アラームかと思った直後、部屋のチャイムが一度鳴らされた。さすがの彼女も目を覚まして画面を確認する。既に切られていた電話の主はお隣に住む彼氏、神田ユウだった。何かあったのかと折り返そうとしてもう一度チャイムが鳴る。こんな夜更けに一体なんだ?出ようものなら彼に叱られるに違いない。というか普通に怖い。
「…ユウに折り返さなきゃ」
通知を直接タップして折り返しの電話をかける。ワンコールで取られた電話口からはザアザアと雨の音が聞こえてきた。
『もしもし』
「…ごめん、寝ててでれなかった」
『だろうな …どうした?声が震えてる』
「部屋の前に誰かいるみたいなの チャイム鳴らされて、それで…っ」
最悪の状況を想像してしまって身体が震えていた。夜に訪問者と言うだけで怖いのに、彼は部活の飲み会で部屋を空けている。頼れるものが昔取った杵柄くらいしかないのだ。
電話口の彼女が怯えていることに気付いた神田は罰が悪そうな声で言葉を返す。
『…開けてくれ 鳴らしたのは俺だ』
部活動のしょうもない飲み会を何とか二次会で抜け出して帰路に付いたはいいものの、鍵ごとカバンを忘れてしまったらしい。最寄り駅で降りたタイミングで同輩からLI○Eが届いた。明日の授業での引渡しを要求して、今夜は隣の部屋に転がり込むことに決めた。早速彼女に連絡するも既読すらつかない。当然か。時刻は零時を回っている。アイツの寝ている時間だ。だが宿のないことに背に腹はかえられん。降り出していた雨の中を駆けながら追って連絡を入れておく。頼むから起きて欲しい。
部屋の前についても彼女からの既読はない。さぞかし気持ちよく眠っていることだろう。その穏やかな寝顔を思い出し、起こしてしまうことが忍びなくなる。が、晩秋の雨を受けた身体が冷えて仕方がない。通話をかけてしばらく待ったが起きてくる気配はない。仕方なしに二度チャイムを鳴らしたタイミングでようやく折り返しの電話があった。
ガチャリと鍵の回る音がしてドアが開く。
「何やってんのよ」
「飲み屋に鍵忘れた」
「……早く入んなさい、タオル持ってくるから動かないでね」
緩い生地の寝間着にカーディガンを羽織った彼女は気怠げに玄関の奥に消えていく。目が半分くらいしか空いてなくて怒っているようにも見えるが、あれはおそらく眠いだけだ。眠気七割、苛立ち三割といったところだろう。
「はい、拭いて 服はそこで脱いで籠 今お風呂張ってるから少し我慢なさい」
「わりい」
「…いいわよ 寒くない?大丈夫?」
「ん」
塗れた服とタオルの入った籠をもつ彼女を追って風呂場まで付いていく。居間で待っておけと言われたがそんな気分にもなれなかった。眠たげに蕩けた眼と少し乱れた髪を見ては離れがたくもなってしまう。洗濯機に籠の中身を放り込む純を後ろから抱きしめる。甘やかな柔らかさが冷えた身体に沁みる。
「酒臭い 珍しく酔ってるみたいだけどどれだけ飲んだんですか」
「一升」
「飲み過ぎ」
「飲まされたんだ」
「それで鍵を忘れたと」
「…だから悪かったって」
文句をいう彼女を肴に抱きしめた肢体を堪能する。いい匂いがするし、柔らけえし。抱きたくてたまらない。置いておいたゴムの在庫はある。一緒に風呂に入れてそのまま抱くのも悪くない。いいタイミングで風呂が溜まったと自動音声が流れる。
「…純」
「嫌よ、明日一限なの 午前休のあなたと違ってね」
「……加減する」
「そう言ってしたためしがありますか とっとと入って」
腕の間をするりと抜けられ風呂場に押し込められた。彼女の言う言葉は全て事実であるので言い返しようもない。まったく本当に珍しく酔っている。どう考えても甘えすぎだ馬鹿者。口惜しいが諦める他ない。熱めに張られた湯船に浸かり冷静になろうと務める。すりガラスの扉の向こう、彼女が近づいてくる足音が聞こえた。
「着替え、置いておくから」
「ああ」
それだけ言って先に寝るのかと思っていたが、彼女の気配が脱衣所から消える様子がない。それどころか浴室の扉の直ぐ側に座り込んでいるようだった。
「寝ねえのか」
「……誰のせいだと思ってんのよ、怖かったの」
「ライン読めよな」
「…眠かったもん」
「それに関しては本当にすまんと思っている」
「とにかく、上がるまでここにいるから」
「…なんなら今からでも一緒に入るか」
「入んない」
「ねえユウ、温泉行きたい 露天風呂で紅葉狩り」
「…良いぜ、いつにする」
「んー 予定合うのが…」
「後で確認…… おい、純?」
反応が全くなくなった。どうやらその場で眠りに落ちたらしい。すりガラスの戸を開けて風呂から上がればスヤスヤと無防備な寝顔がそこにある。全くもって据え膳も良いところだ。寝込みを襲う完璧な状況が整ってしまっている。だが今日のところは俺に落ち度がありすぎる。これ以上彼女を怒らせたくはない。大人しく引き下がるとしよう。近い内に旅館で美味しくいただく目処も立った。そのとき存分に楽しませてもらうことにする。
用意された着替えは彼女がお揃いだと言って買ってきた妙にふわふわした布だった。絶対に自分の部屋で着ることはないからと置いていったもので、これを着させられるなら純も同じのを着てほしかったと思うのは不可抗力だろう。気持ちよさそうに眠っている純を抱きかかえて寝室に向かう。俺と電話するために充電を引き抜いたであろうスマホが煌々として熱を帯びていた。
枕元に置いておいたスマートフォンが震える音で純は身を捩らせた。どうせしょうもない通知音かなにかだろう。窓を叩きつける雨粒の音がする。布団に潜り込んだ後に降り始めたらしい。朝には止んでるといいななんて、合間を空けて何度か届く通知を無視しながら彼女は眠りの中にいた。
そのうちに断続的にスマホが震え出す。アラームかと思った直後、部屋のチャイムが一度鳴らされた。さすがの彼女も目を覚まして画面を確認する。既に切られていた電話の主はお隣に住む彼氏、神田ユウだった。何かあったのかと折り返そうとしてもう一度チャイムが鳴る。こんな夜更けに一体なんだ?出ようものなら彼に叱られるに違いない。というか普通に怖い。
「…ユウに折り返さなきゃ」
通知を直接タップして折り返しの電話をかける。ワンコールで取られた電話口からはザアザアと雨の音が聞こえてきた。
『もしもし』
「…ごめん、寝ててでれなかった」
『だろうな …どうした?声が震えてる』
「部屋の前に誰かいるみたいなの チャイム鳴らされて、それで…っ」
最悪の状況を想像してしまって身体が震えていた。夜に訪問者と言うだけで怖いのに、彼は部活の飲み会で部屋を空けている。頼れるものが昔取った杵柄くらいしかないのだ。
電話口の彼女が怯えていることに気付いた神田は罰が悪そうな声で言葉を返す。
『…開けてくれ 鳴らしたのは俺だ』
部活動のしょうもない飲み会を何とか二次会で抜け出して帰路に付いたはいいものの、鍵ごとカバンを忘れてしまったらしい。最寄り駅で降りたタイミングで同輩からLI○Eが届いた。明日の授業での引渡しを要求して、今夜は隣の部屋に転がり込むことに決めた。早速彼女に連絡するも既読すらつかない。当然か。時刻は零時を回っている。アイツの寝ている時間だ。だが宿のないことに背に腹はかえられん。降り出していた雨の中を駆けながら追って連絡を入れておく。頼むから起きて欲しい。
部屋の前についても彼女からの既読はない。さぞかし気持ちよく眠っていることだろう。その穏やかな寝顔を思い出し、起こしてしまうことが忍びなくなる。が、晩秋の雨を受けた身体が冷えて仕方がない。通話をかけてしばらく待ったが起きてくる気配はない。仕方なしに二度チャイムを鳴らしたタイミングでようやく折り返しの電話があった。
ガチャリと鍵の回る音がしてドアが開く。
「何やってんのよ」
「飲み屋に鍵忘れた」
「……早く入んなさい、タオル持ってくるから動かないでね」
緩い生地の寝間着にカーディガンを羽織った彼女は気怠げに玄関の奥に消えていく。目が半分くらいしか空いてなくて怒っているようにも見えるが、あれはおそらく眠いだけだ。眠気七割、苛立ち三割といったところだろう。
「はい、拭いて 服はそこで脱いで籠 今お風呂張ってるから少し我慢なさい」
「わりい」
「…いいわよ 寒くない?大丈夫?」
「ん」
塗れた服とタオルの入った籠をもつ彼女を追って風呂場まで付いていく。居間で待っておけと言われたがそんな気分にもなれなかった。眠たげに蕩けた眼と少し乱れた髪を見ては離れがたくもなってしまう。洗濯機に籠の中身を放り込む純を後ろから抱きしめる。甘やかな柔らかさが冷えた身体に沁みる。
「酒臭い 珍しく酔ってるみたいだけどどれだけ飲んだんですか」
「一升」
「飲み過ぎ」
「飲まされたんだ」
「それで鍵を忘れたと」
「…だから悪かったって」
文句をいう彼女を肴に抱きしめた肢体を堪能する。いい匂いがするし、柔らけえし。抱きたくてたまらない。置いておいたゴムの在庫はある。一緒に風呂に入れてそのまま抱くのも悪くない。いいタイミングで風呂が溜まったと自動音声が流れる。
「…純」
「嫌よ、明日一限なの 午前休のあなたと違ってね」
「……加減する」
「そう言ってしたためしがありますか とっとと入って」
腕の間をするりと抜けられ風呂場に押し込められた。彼女の言う言葉は全て事実であるので言い返しようもない。まったく本当に珍しく酔っている。どう考えても甘えすぎだ馬鹿者。口惜しいが諦める他ない。熱めに張られた湯船に浸かり冷静になろうと務める。すりガラスの扉の向こう、彼女が近づいてくる足音が聞こえた。
「着替え、置いておくから」
「ああ」
それだけ言って先に寝るのかと思っていたが、彼女の気配が脱衣所から消える様子がない。それどころか浴室の扉の直ぐ側に座り込んでいるようだった。
「寝ねえのか」
「……誰のせいだと思ってんのよ、怖かったの」
「ライン読めよな」
「…眠かったもん」
「それに関しては本当にすまんと思っている」
「とにかく、上がるまでここにいるから」
「…なんなら今からでも一緒に入るか」
「入んない」
「ねえユウ、温泉行きたい 露天風呂で紅葉狩り」
「…良いぜ、いつにする」
「んー 予定合うのが…」
「後で確認…… おい、純?」
反応が全くなくなった。どうやらその場で眠りに落ちたらしい。すりガラスの戸を開けて風呂から上がればスヤスヤと無防備な寝顔がそこにある。全くもって据え膳も良いところだ。寝込みを襲う完璧な状況が整ってしまっている。だが今日のところは俺に落ち度がありすぎる。これ以上彼女を怒らせたくはない。大人しく引き下がるとしよう。近い内に旅館で美味しくいただく目処も立った。そのとき存分に楽しませてもらうことにする。
用意された着替えは彼女がお揃いだと言って買ってきた妙にふわふわした布だった。絶対に自分の部屋で着ることはないからと置いていったもので、これを着させられるなら純も同じのを着てほしかったと思うのは不可抗力だろう。気持ちよさそうに眠っている純を抱きかかえて寝室に向かう。俺と電話するために充電を引き抜いたであろうスマホが煌々として熱を帯びていた。