長編と同じ夢主を想定しています
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日が落ち始め、辺りが朱色に染まりだした。駅までの道のりもまであと数時間、このまま向かっても通る電車はない。昨晩から僅かな休息しか取っていないアレン、神田、純は野宿をすることに決めた。雨風をしのげる洞穴を見つけ今晩の寝床と定め、道中で拾い集めた枝を薪に彼女が火を焚べる。
「じゃあ、僕たちで追加の薪と食材取ってきますから 純は大人しく待ってるんですよ」
「はいはい」
直前の任務で無理をして怪我を拵えていた純は二人に口を酸っぱくして説教されていた。大人しくしていろと言われても火の番くらいしかすることがないのだ。手持ち無沙汰に洞窟の周りを見て回ろうとして、帰ってきた二人にまた怒られた。
戻ってきた二人はどちらが食事を作るかで揉めていた。散々な代物を作り上げるのに出来ると主張するアレンと、彼の作ったものなど口に入れられないと主張する神田の図だ。結局持ち帰った食材の半数を毒だと看破した純がどちらも嫌だと言い放ち、有無を言わさず鍋を取り出した。
「なんでこんなに毒を持ち帰んのよ」
「知らん、煮りゃ食えんだろ」
「馬鹿じゃないの そのキノコ取って」
「ほら、これも入れとけ」
「了解」
彼女は文句をいいながら火にかけた鍋の前に座り、魔術で生成した水を張る。彼らが持ち帰った食材を適当に放り込み煮込んでいった。仕上げにと持参したチーズが削り入れられる。食材に触れることを禁止されたアレンが恨めしそうにその欠片を目で追っていた。
「神田、味見して」
「なんで僕じゃないんですか!」
「なくなったら困るでしょ」
「ちと甘い」
「塩ね、入れといて」
「ああ」
出来上がった鍋を三人で囲む。食事の最中アレンと神田がしょうもない口論をするのを見ながら、彼女も口をつけた。寒空で冷えた身体が温まる。腹が満たされて瞼が重くなってきた。一つ船を漕いで、眠りに落ちたくなくて目を見開いた。
眠たくて眠たくて仕方がない。だというのに寝ることがいやに恐ろしい。アクマの犇めく戦場に身を置く恐怖も、市民の怯えた目も、すべてが悪意の夢となって襲ってくる。そのせいで毎夜魘されて浅い悲鳴とともに起き上がるしかできないのだ。そんな失態を彼らの前で晒すわけにはいかなかった。
目を見開いたり、しぱしぱと瞬きする純を彼らが見つめている。彼女はバツが悪くなってスープを飲み干した。すでに食器はすべて空になっている。後始末をしようと伸ばした手を遮られた。
「後片付けは僕がやりますから 先に寝ててください」
「…」
「寝なきゃだめですよ」
「…わかった」
何処か寄りかかる場所をと探して、焚き火にほど近い壁面へ身体を預ける。むき出しになっている肩が岩肌に触れて、その冷たさが伝わる。ゴツゴツとした角が皮膚に食い込んでいた。寝心地は最悪だが、壁と身体の接地面から体温が奪われると同時に意識が遠のいていく。それがどうしても不安で眉間に皺が寄る。無意識に身体が緊張していた。
「痛くねえの」
静かな神田の声、いつの間にか隣に座っていたらしい。痛いし、寒かった。素直に答えれば、ちょっと来いと手招きされる。片膝を立てている彼の正面に膝をつくと腕を引かれた。
「なんの真似よ」
「…寒い、湯たんぽ代わりにはなんだろ 文句言うなよ」
掴まれた腕を離されて一気に体勢が崩れる。彼の胸元に肩と頭を押し付けるようにして倒れ込んでしまった。コート越しに鍛え上げられた硬い胸板の感触がわかる。肩から伝わる温もり、微かに鼻腔を擽る寺院のような香りが擽る。
「…線香臭い」
「文句言うなっつたろうが」
「神田、臭うんじゃないですか?」
「あ?やんのかモヤシ」
また聞こえてきた言い合いの声が遠い。少し安っぽいけど香の匂いが、彼の服に染み付いている。手放しかけた意識に怯えていると何度か背を叩かれた気がした。それが酷く優しくて、彼の胸に頭を擦り付けて瞼を閉じれば、昨夜からの疲れが身体を襲う。久しぶりに起きるまで悪夢を見ることはなかった。
「じゃあ、僕たちで追加の薪と食材取ってきますから 純は大人しく待ってるんですよ」
「はいはい」
直前の任務で無理をして怪我を拵えていた純は二人に口を酸っぱくして説教されていた。大人しくしていろと言われても火の番くらいしかすることがないのだ。手持ち無沙汰に洞窟の周りを見て回ろうとして、帰ってきた二人にまた怒られた。
戻ってきた二人はどちらが食事を作るかで揉めていた。散々な代物を作り上げるのに出来ると主張するアレンと、彼の作ったものなど口に入れられないと主張する神田の図だ。結局持ち帰った食材の半数を毒だと看破した純がどちらも嫌だと言い放ち、有無を言わさず鍋を取り出した。
「なんでこんなに毒を持ち帰んのよ」
「知らん、煮りゃ食えんだろ」
「馬鹿じゃないの そのキノコ取って」
「ほら、これも入れとけ」
「了解」
彼女は文句をいいながら火にかけた鍋の前に座り、魔術で生成した水を張る。彼らが持ち帰った食材を適当に放り込み煮込んでいった。仕上げにと持参したチーズが削り入れられる。食材に触れることを禁止されたアレンが恨めしそうにその欠片を目で追っていた。
「神田、味見して」
「なんで僕じゃないんですか!」
「なくなったら困るでしょ」
「ちと甘い」
「塩ね、入れといて」
「ああ」
出来上がった鍋を三人で囲む。食事の最中アレンと神田がしょうもない口論をするのを見ながら、彼女も口をつけた。寒空で冷えた身体が温まる。腹が満たされて瞼が重くなってきた。一つ船を漕いで、眠りに落ちたくなくて目を見開いた。
眠たくて眠たくて仕方がない。だというのに寝ることがいやに恐ろしい。アクマの犇めく戦場に身を置く恐怖も、市民の怯えた目も、すべてが悪意の夢となって襲ってくる。そのせいで毎夜魘されて浅い悲鳴とともに起き上がるしかできないのだ。そんな失態を彼らの前で晒すわけにはいかなかった。
目を見開いたり、しぱしぱと瞬きする純を彼らが見つめている。彼女はバツが悪くなってスープを飲み干した。すでに食器はすべて空になっている。後始末をしようと伸ばした手を遮られた。
「後片付けは僕がやりますから 先に寝ててください」
「…」
「寝なきゃだめですよ」
「…わかった」
何処か寄りかかる場所をと探して、焚き火にほど近い壁面へ身体を預ける。むき出しになっている肩が岩肌に触れて、その冷たさが伝わる。ゴツゴツとした角が皮膚に食い込んでいた。寝心地は最悪だが、壁と身体の接地面から体温が奪われると同時に意識が遠のいていく。それがどうしても不安で眉間に皺が寄る。無意識に身体が緊張していた。
「痛くねえの」
静かな神田の声、いつの間にか隣に座っていたらしい。痛いし、寒かった。素直に答えれば、ちょっと来いと手招きされる。片膝を立てている彼の正面に膝をつくと腕を引かれた。
「なんの真似よ」
「…寒い、湯たんぽ代わりにはなんだろ 文句言うなよ」
掴まれた腕を離されて一気に体勢が崩れる。彼の胸元に肩と頭を押し付けるようにして倒れ込んでしまった。コート越しに鍛え上げられた硬い胸板の感触がわかる。肩から伝わる温もり、微かに鼻腔を擽る寺院のような香りが擽る。
「…線香臭い」
「文句言うなっつたろうが」
「神田、臭うんじゃないですか?」
「あ?やんのかモヤシ」
また聞こえてきた言い合いの声が遠い。少し安っぽいけど香の匂いが、彼の服に染み付いている。手放しかけた意識に怯えていると何度か背を叩かれた気がした。それが酷く優しくて、彼の胸に頭を擦り付けて瞼を閉じれば、昨夜からの疲れが身体を襲う。久しぶりに起きるまで悪夢を見ることはなかった。