長編と同じ夢主を想定しています
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「ねえユウ、お誕生日何が良い?」
六月一日のことである。
千年伯爵と教団の長くに渡った戦争が終結して早数年、二人のは終の棲家で割合穏やかな日々を過ごしていた。
完全なる休日に、二人して少しだけ遅く目を覚ました朝。台所に二人で並んで朝食を用意して、天気がいいからと庭のテーブルで食べている。
トーストにスクランブルエッグとハム、チーズを乗せて、ついさっき畑からもいできたトマトはソテーにして。いわゆる普通の、ご機嫌な朝食というやつだ。いただきますと手を合わせた純のなんと楽しげなことか。神田の方は相も変わらぬ仏頂面、というにはやはり穏やかに凪いで刺々しさがない。
それを半分ほど食べ進めたときに、純が切り出したのだ。
「……何が良いって言われてもな」
誕生日とは毎年あるものだ。この二人の場合、なんやかんや言って再開した直後の誕生日から毎度何かしらを贈りあい、祝わなかった試しがないのである。
このように「何が良い」なんて聞いた例も、聞かれた覚えも無いわけで。改めて考えてみても何が良いかと言われれば、すぐに思いつくものでもなかった。
「あー、靴下が少なくなった あと下着も何枚か欲しい」
「…ユウ、そういうこと言ってんじゃないわ 用意しておきます」
「すまん助かる、…つってもな」
ひとまず直近で必要なものを述べたが不正解だった。
薄切りのチーズを口に運んで考え込む。が、思いつかないものは思いつかないのだ。
終の棲家で彼女と穏やかに過ごす日常以上に何を求めるものがあろうか。
「俺はお前が居ればそれでいい」
「…ユウ、そういうことでも無いわ」
「…どうしろと」
思ったままを口にして、本当にそれ以上を望んでいないのにまた不正解だったらしい。
「ユウが、したいこととか 私にしてほしいこと 何でも良いのよ」
「何処にも行くな」
「行かないわよ」
「ならいい」
神田が実に満足気に笑う。ただでさえ絶世の美貌なところを無愛想さで相殺してなんとか常人の目に耐えうる強度に抑えているのに、こう笑われては蕩けるというよりも溶かされそうな破壊力を持っていた。
それは純でさえ一瞬たじろぐほど。
「…っ」
「早く食え 冷めんぞ」
「……もう、だったら デートしましょ、デート」
唇を尖らせながら彼女が別の案を出す。
「その時までに、してほしいことでも欲しい物でも思いついてよね」
「何でも良いのか」
「良いわ」
「…言ったな?」
「………言ったわよ!」
いきなり純の頬に指を添え嗜虐的に笑った神田に何を想像したのか、彼女はそれきり耳を赤くして黙り込んで朝食の続きを食べ始めた。
それを見る神田の楽しげなことよ。
実を言うなら神田も何を思いついたわけではない。ただ彼女の時間と意識という求めてやまないものが目の前にあったから掴みに行っただけ。それでこの反応を得られて、誕生日当日まで楽しめるとあらば嬉しいことこの上ないのだ。
六月六日、彼の誕生日に何があったのかここに記すのはよしておこう。
ただ一つ言えるのは、彼は期待通りに彼女の時間と意識を独り占めできたということだけである。
六月一日のことである。
千年伯爵と教団の長くに渡った戦争が終結して早数年、二人のは終の棲家で割合穏やかな日々を過ごしていた。
完全なる休日に、二人して少しだけ遅く目を覚ました朝。台所に二人で並んで朝食を用意して、天気がいいからと庭のテーブルで食べている。
トーストにスクランブルエッグとハム、チーズを乗せて、ついさっき畑からもいできたトマトはソテーにして。いわゆる普通の、ご機嫌な朝食というやつだ。いただきますと手を合わせた純のなんと楽しげなことか。神田の方は相も変わらぬ仏頂面、というにはやはり穏やかに凪いで刺々しさがない。
それを半分ほど食べ進めたときに、純が切り出したのだ。
「……何が良いって言われてもな」
誕生日とは毎年あるものだ。この二人の場合、なんやかんや言って再開した直後の誕生日から毎度何かしらを贈りあい、祝わなかった試しがないのである。
このように「何が良い」なんて聞いた例も、聞かれた覚えも無いわけで。改めて考えてみても何が良いかと言われれば、すぐに思いつくものでもなかった。
「あー、靴下が少なくなった あと下着も何枚か欲しい」
「…ユウ、そういうこと言ってんじゃないわ 用意しておきます」
「すまん助かる、…つってもな」
ひとまず直近で必要なものを述べたが不正解だった。
薄切りのチーズを口に運んで考え込む。が、思いつかないものは思いつかないのだ。
終の棲家で彼女と穏やかに過ごす日常以上に何を求めるものがあろうか。
「俺はお前が居ればそれでいい」
「…ユウ、そういうことでも無いわ」
「…どうしろと」
思ったままを口にして、本当にそれ以上を望んでいないのにまた不正解だったらしい。
「ユウが、したいこととか 私にしてほしいこと 何でも良いのよ」
「何処にも行くな」
「行かないわよ」
「ならいい」
神田が実に満足気に笑う。ただでさえ絶世の美貌なところを無愛想さで相殺してなんとか常人の目に耐えうる強度に抑えているのに、こう笑われては蕩けるというよりも溶かされそうな破壊力を持っていた。
それは純でさえ一瞬たじろぐほど。
「…っ」
「早く食え 冷めんぞ」
「……もう、だったら デートしましょ、デート」
唇を尖らせながら彼女が別の案を出す。
「その時までに、してほしいことでも欲しい物でも思いついてよね」
「何でも良いのか」
「良いわ」
「…言ったな?」
「………言ったわよ!」
いきなり純の頬に指を添え嗜虐的に笑った神田に何を想像したのか、彼女はそれきり耳を赤くして黙り込んで朝食の続きを食べ始めた。
それを見る神田の楽しげなことよ。
実を言うなら神田も何を思いついたわけではない。ただ彼女の時間と意識という求めてやまないものが目の前にあったから掴みに行っただけ。それでこの反応を得られて、誕生日当日まで楽しめるとあらば嬉しいことこの上ないのだ。
六月六日、彼の誕生日に何があったのかここに記すのはよしておこう。
ただ一つ言えるのは、彼は期待通りに彼女の時間と意識を独り占めできたということだけである。
