第十一話「月景に名前を呼ばれた日」
[必読]概要、名前変換
・概要「亡霊に名前を呼ばれた日」から約2000年後の物語
ジャンル:転生/やりなおしモノ。神田落ハピエン確定(リナ→神田片思いからのアレリナ着地を含みます)
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街に、微かに歌が降り始めた。
それは、今も空に浮かんでいる月から溢れてくるような。美しくて、切ない旋律だった。
最初に歌に気がついたのはアレンとラビだった。
あの会議の後に教団で速やかに結成された支援部隊により治療を受けている最中だった。
二人はそれが純の歌声だと気がつくと、すぐに近くに居た治療術師の少女に声をかけた。白い治療術師は飛び出すようにして歌の聞こえてくる方向へ走っていく。
純と神田を捜索していた女の耳にもその歌は届いた。
その女はカンテラと呼ばれる、純の兄麻倉愁の付き人をしている魔女だった。
前日に入った中央庁からの依頼のために、愁とともに教団を空けていたところのこの事態だ。リンクの機転により呼び戻され、支援部隊をこの街に連れてきたは良いものの純と神田の影がどこにも見当たらずあたりを探し始めたときだった。
美しい旋律が降ってくる。間違いなく純の声だ。
「お嬢様! 若様!」
街の遠く外れ、もう誰も立ち入らない廃墟にその大穴はあった。辺りに漂う魔力の残滓が彼らの戦いの壮絶さを物語っている。
声は大穴の下から聞こえてくる。
降りようとして彼らのゴーレムに出会い、予想が確信に変わった。
丁度白い治療術師が合流しようとしているのが見えて、ひと声かけて先に穴に飛び降りる。
「カン、テラ…?」
「お嬢様、ご無事ですか」
「…私はいいから ユウを」
「わかっております ミルク!こっちだ」
意識を失った大の男の身体は重いだろうに、カンテラは軽々と腕を外し抱きかかえる。白い治療術師、ミルクが降りてきたのが見えたので呼びつけて、そのまま地上へと向かう
「お姉様ッ!」
「み、るく ちゃん」
神田の無事が保証されて気が抜けたのか、純の意識もまた薄れかけていた。
「ね、この傷 キレイになるかしら…?」
「…っ、なります きっと、いえ 必ず」
「よかっ、た 残したく、ない…の…」
「大丈夫ですよお姉様 私達を信じてください」
「ふふ、そうね… 任せた、わ…」
薄れゆく意識の中で純が願ったのは酷く純粋な、今日のこの日まで纏い続け、諦めかけていた願い。新たに増えてしまった呪われた証を、本当はかつて刻まれた証すら消し去ってしまいたいという欲。
これこそが純が神田に背負わせたくないものであったから。
一度はこの少女に断られたその願いはどうしてか受け止められる。その答えが自身に満ち溢れているから、薄れかけの思考では疑うことすら出来なかった。
本当に大丈夫なのだと安心して、そこで純の意識は暗転した。
・・・
純が次に目を覚ましたのは教団の病棟、そのベッドの上だった。
ベッドの横は兄と、カンテラと、師であるクロス元帥がいていつか見た光景のようだ。
「純…!」
「…ユウは」
「まだ寝てる 大丈夫だ、命に別状はない」
「どれくらい経ったの」
「二日でございます お嬢様」
ミルクの奮起の影響もあってか、純の体調は万全でありすぐに動き出せるほどだった。
神田のいる病室へ向かうと、そこには人形みたいに奇麗な顔で眠り続ける彼がいた。息をしているか確認しなければ、死んでいるのではないかと思うほどに静謐な美しい寝顔。
その胸元に手を当てれば、確かに体温があって、微かに上下して。
「…生きてる」
「そりゃ生きてるだろうよ 自分のしたことが解ってねえのかバカ弟子」
「クロスは黙ってて …もう少し、かかるかしら」
「こればかりは待つしかないかと」
あれほどの戦闘で再生能力を駆使して、それで純の血を得たのだ。これが仕方のない、長い適応期間であることはわかっている。
解っているのだ。
それから二日が経った。彼が目覚める様子はない。純の肩口に出来た傷は塞がって、それでも本当に消したかった火傷のような痕はまだ残ったままだ。
それからまた一日が過ぎた。彼が目覚める様子はない。兄たちから、火傷の痕を治す方法について教えられた。それはまさしく希望だった。だが、それを知ったところで。
また一日が過ぎた。彼が目覚める様子はない。彼が目覚めないことには、何の意味も成さないというのに。
仕方のないことだと、必要なのだと解っていて尚、彼女は憔悴していた。彼に抱きしめられたときの温もりも、触れ合った唇の感触すらこぼれ落ちて消えてしまいそうな感覚。
また自分のせいで彼を失うことになるかもしれないという恐怖は彼女を病室へ縛り付けた。彼のベッドの横、ずっと手を握りながら静かに佇む彼女を誰も止められはしなかった。
その晩、憔悴の果て。彼女は頭を彼の胸に預けるようにして眠りに落ちた。
第十一話「月景に名前を呼ばれた日」 つづく
「……純」
「ん、ゆう…?」
「おはよう 純」
「ッ、おはよう ユウ!」
そうして次の朝が来る。
Re:2000年の再演を 第一部完