第一話「最期の願い」
[必読]概要、名前変換
・概要「亡霊に名前を呼ばれた日」から約2000年後の物語
ジャンル:転生/やりなおしモノ。神田落ハピエン確定(リナ→神田片思いからのアレリナ着地を含みます)
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
黒の教団食堂。アレン・ウォーカーの呪文のように長い注文が聞こえてくる。
「えーと、エビピラフ、ハンバーグ、鶏の唐揚げ、アクアパッツァ…」
「純、ここが食堂よ。料理長に言えばなんでも作ってくれるわ」
「…その最たる例がアレさね」
「…ポテトサラダに、じゃがバター…」
「皆はいつも何を?」
「ぼくは色々!」
「に、マヨネーズさよね。俺は焼き肉が好き~」
「私も日によって変わるかな」
「…あと、デザートにみたらし団子を30本!」
「はいはーい!.ちょっとまっててね! 次の注文聞くわよー!」
「Aセット!」
「はい、アルマはAセット。マヨネーズつきでね 次!あら、見ない顔。新人さん?」
「本日付で配属になりました。麻倉純です」
「まあ、愁ちゃんの妹さんね!聞いてるわ!さあ、何が食べたい?」
「…生ハムのサンドイッチと、なにかサラダを」
「OK!良いクレソンが入ってるから、そのサラダにしましょう!」
「いつもの」
「神田は蕎麦ね。盛り?ザル?」
「盛り。ネギはいらん」
「あら、蕎麦もあるのね」
「神田はいっつもソバですよね。昔からですか?」
「ええ、そうね。…ここの蕎麦、気に入ったの?」
「ふっ、食えばわかる。」
「じゃあ、次の機会にでも食べようかしら」
「そうしろ」
珍しくも柔らかく穏やかな雰囲気(教団比)で語らう神田に、彼らが本当に昔馴染なのだと実感させられる。壁際の空いている一角に陣取れば、麻倉純のささやかな歓迎会の様相を呈していた。改めての軽い自己紹介と教団でのよもやま話や、不文律などを純に語って聞かせたのちに、話題は彼女のことへと移る。
「はい、質問!純のすきな食べ物は?」
「んー、香りの強い食べ物かな。それこそクレソンとか、チコリとか。」
「生ハムは?好きじゃないの?」
「好きっていうより、よく食べてたから食べ慣れてる」
「食べ慣れてる?」
「…ここに来る前は長い間イタリアにいたの。そこでね」
「へえ、イタリアか」
「いいですよね、イタリア。ピザ、パスタ…」
「何でも食いもんに結びつくのかよ…」
「ユウったらもう食べ終わったの?」
「ああ」
いち早く食べ終えた神田が席を立つ。それを柔らかく口角の上がった声が呼び止めた。
「あ、神田くん」
「……何だ」
「郷のことについて二人で話がしたいのだけれど、お時間よろしい?」
「…構わんが。場所は?」
「できれば人払いの出来るところがいいのだけれど…」
「庭園はどうですか?この時間なら人もあまり来ないですよ ね、リナリー」
「え、ええ。パーゴラなら落ち着いて話せると思うけれど」
「ついでに紹介してくるといいさ。あとで合流すっから」
「庭園か、行くぞ。待ってるから早くしろ」
神田ユウは無愛想にそれだけ伝えて、皿を返し食堂の入口に寄りかかった。
「…ごちそうさまでした。」
純も丁寧な所作のまま食べる速度を早め、そのまま食堂を後にした。入口で待っている神田が近づいたのを確認し、何かを話しながら先導していくのが見えた。
「なんだか、随分と素直じゃありません?彼」
「まあ、同郷の幼馴染なんだし、積もる話もあるんじゃねえの?」
「それだけですかね」
「どうだろうね、ユウもなんだか戸惑ってたみたいだし」
「…っ、ごちそうさま。私、ちょっと用事があるから!あとで戻るね」
「は、はい!いってらっしゃい、リナリー」
足早に食堂を去ったリナリーを、三人の使徒が見送った。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「見事な庭園ね」
「…こっちだ」
庭園までの道を言葉少なに連れ添った二人は奥まった位置にある茨に囲まれたパーゴラに腰を落ち着けた。
「改めて、久しぶりね。神田くん」
またこの呼び方をされて、神田の眉間には皺が寄る。
「で?話って?」
「あの日のこと、そっちはどうだったのか確認しておきたくて」
「兄貴から聞いてねえのかよ」
「聞きました。 一応あなたからも聞いておきたいの」
「ちっ…、あの日は―――――――――
―――――――――で、ここに連れてこられた」
思い出したくもない忌々しい日の出来事。彼らの郷に火が放たれ、眼前の少女が連れ去られた日。あるいは、神田ユウがエクソシストになることを定められた日の記憶。それを聞いた麻倉純はひどく辛そうに眉根をよせる。それでも貼り付けた笑みは崩さずにいて、彼はそれが不満だった。
「そう、ですか。すいません、辛いことを思い出せましたね」
「…お前は、お前には何があったんだ」
「…兄さんから聞いているでしょう?」
「攫われた、とだけな」
「それだけですよ。」
彼女は言外に聞くなと伝えてきている。その表情を彼は知っていた。麻倉純がひどく警戒しているとき顔だ。彼女が当主に定まった時に張り付いて、中々離れなかった薄気味悪い笑み。自身がやめさせた顔のはずなのに、それを向けられている現状が気に入らない。
「それだけだ?お前、俺達がどれだけ…」
「…心配させましたね、ごめんなさい。」
謝罪が聞きたいわけではなかったし、謝られることではなかった。彼女の身を案じるのは当然で、そうすべきだと生きてきた。
「…お前が謝ることじゃないだろう」
「いいえ、謝るべきことです。生きているのかどうかもわからない私に八年間も縛り付けてしまって、本当にごめんなさい。
「…これが本題なのだけれどね。神田くん、許婚と定めた者も、郷ももうなくなってしまいました ですから、貴方の名前を返します。許婚の約束は解消いたしましょう。」
「お前、何を…」
「八年間です。人生の半分を奪っておいて貴方を縛ったままには出来ません」
「それでも俺はお前を」
「神田くん、それは単なる刷り込みです。」
「ふざけるなよ」
「…ふざけているように見えますか? ねえ、私達お互いのことを何も知らないのよ?」
「……っ。」
だったら何があったのか話せと怒鳴りつけたかったが、それを押し留めたのは握りしめた拳に添えられた指があまりにも冷たく震えていたから。彼女を睨みつける神田を見つめ返した紫と緑に揺れる瞳が、いまにも壊れてしまうと伝えてきたから。トドメにと放たれた言葉に逆らう術を持っていなかったから。
「…許婚の最期の願いを叶えてはくださらないの?」