第一話「最期の願い」
[必読]概要、名前変換
・概要「亡霊に名前を呼ばれた日」から約2000年後の物語
ジャンル:転生/やりなおしモノ。神田落ハピエン確定(リナ→神田片思いからのアレリナ着地を含みます)
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神田ユウ、アルマ・カルマ、ブックマンの三人は任務帰りに報告のため、司令室を訪れていた。
「ただいまー!」
「戻ったぞ」
「おい、コムイ。いねえのか!?」
「おう、おかえり。室長なら新しいエクソシストの試験に行ってるぞ。愁が連れてきた子だ」
「…!アルマ、まかせた」
「ちょっと、ユウ!何処行くのさー!ぼくも行く!」
「…新しい、ということは。例の?」
「そうです、麻倉の…ってブックマン?もう居ない!報告書は!?」
麻倉愁の名前が出た時点で、神田は司令室を飛び出していた。八年前から消息を追えなかった幼馴染がついに見つかったと、愁が教団を発ったのが二年前。ようやく姿を見られるという安堵と、彼女がエクソシストになっている事実が心を逸らせる。
試験会場になっている広間には野次馬共が群がっていた。それををかき分けながら進み、階下を見下ろす。ちょうど試合が開始されたようで、間抜けにもアイツを舐めてかかった連中が次々と伸されては沈んでいた。驚愕している大勢をよそに、神田は当然だと言わんばかりの表情でその動きを見つめている。
「ったく。コムイ、あまりに不甲斐ない結果じゃないか?舐め腐りすぎだろ」
「室長!いまのじゃデータ足りないっすよ!」
「え~?でも、今から誰が相手するのさ」
文句を漏らす愁と研究員にコムイが詰められている。たしかに、あの様子では彼女をまともに測れてはいないだろう。それ以上に神田自身が彼女を確かめたくて仕方がなかった。
「俺がやる」
「神田!帰ってたの?」
「今戻った。」
「だめだよ、疲れてるだろう?」
「ちょうど良いハンデだ。」
それだけ言い放って階下へと飛び降りる。
「…よう、久しぶりだな」
声を掛けると、至極色の髪が靡いた。ゆっくりと振り向いて、長い睫毛に縁取られた双眸が見開かれ、その眼窩に収められた紫色の瞳が僅かに緑に揺れる。目の前の少女は眩しいものを見るように目を細め、ふっと微笑み問うてきた。
「…獲物は?」
「徒手だろ」
これは二人の不文律の確認だった。幼い頃に何度も繰り返してきた手合わせの記憶。改めて力量を確かめるにはそれしか無いと互いにわかりきったうえで声を掛け合った。どちらからともなく歩み寄り、間合いを計って停止する。過去よりも広がった体格差で間合いが変化していることに多少の違和感があった。
二人はほぼ同時に愁を見やり開戦の合図を待つ。まず初めに来るのは蹴りだ。と、神田はアタリをつけた。側頭部を狙って放たれる蹴りは麻倉純の十八番で、まともに食らうのは気に食わない、避けて反撃してやろうと算段を立てていた。開戦が合図され、麻倉純の身体が視界から消える。跳び上がり回転をかけて威力を増したその蹴りを、神田は避けることができなかった。鋭かったのだ。蹴りの重さであれば同じエクソシストのリナリーやラビ、モヤシたちの方に軍配が上がるが、その鋭さと躊躇のなさは想定以上だった。喰らえば必要十分に頭を破壊するだけの威力があると確信して、咄嗟に腕で守った。あたる前にわずかに勢いが緩められた事に気がついて口の端が上がる。すでに間合いを取り直した麻倉純も威圧的な笑みを浮かべていた。互いが互いに、目の前の相手が強くなっていることに満足を覚えていた。その余裕を叩き潰そうと拳が振るわれるが、そのどれもが躱されるか受け流される。しばらく応酬が続いた後に、神田は重心の浮いた純を引きずり降ろすようにして地面へと組み敷いた。右の手首を掴み、左腕は腰元に乗せた膝で体ごと固定する。間違いひとつですぐにでも折れてしまいそうな手首への力を加減しながら、掌底を叩き込む構えをとった。
「そこまでだ!」
背後からブックマンの制止が聞こえて振り下ろしかけていた拳を止める。神田の足に食い込んでいた彼女の左手の指からも力が抜けた。
「…どいて、重い」
「ああ」
しばらく互いに息を整えて動かずにいると、麻倉純から文句が出てくる。掴んだ手首をそのまま引いて立ち上がらせてやると、見上げてくる瞳と目があった。
「随分と、大きくなったのね」
お前はなんだか小さいままだ。と、口に出しかけて騒がしい叫び声に耳を劈かれた。
「ちょっと神田!やりすぎよ!」
「ユウ!駄目だよ女の子に乱暴したら!大丈夫?怪我ない?」
「リナもアルマもうるせえよ…。」
階上で見ていた面々が降りてきて神田を叱り始めていた。彼が不服そうに目線で純に助けを求めると、既に先程までとは違う貴族的な笑みが浮かび上がっている。
「大丈夫、神田くんは加減をしていたから。怪我もないよ」
「えっ、そう?」
「本当に大丈夫?純」
「ほら、傷もないでしょ?」
「あー、良かった…ユウが女の子に怪我させちゃったのかと思ったよ…。あ、ぼくアルマ。よろしくね!」
「麻倉純。よろしくねアルマ」
「…なかなかやるのう。麻倉嬢」
「ありがとうございます。老師」
「ブックマンと呼んでくれ」
「ああ、あなたが。どうぞよしなに」
「ジジイ!帰ってたんか!」
「じゃかしいわ…。麻倉嬢、コイツも」
「存じておりますわ、老師。後継者、Jr.なのでしょう?」
「…バレてたか」
「甘すぎるわ馬鹿者」
「はーい、お疲れ様!そろそろお昼だから皆で食べておいで!」
「本当だ!お腹すいたなあ」
「…テメエはいつもだろモヤシ」
「アレンです。神田も来るでしょ?」
「…ちっ」
「リナリー!神田も行くって!」
「行くとは言ってねえ」
「じゃあついて来ないでください」
「飯を食うんだ 行き先は一緒だろバカモヤシ」
「正直に一緒に食べたいって言ったらどうですか このバ神田」
「な?言ったろ コイツら仲悪いんさよ」
「ふふ。ここは賑やかなのね」
「時々賑やかすぎて困っちゃうくらい」
面を貼り付けたような笑顔で会話を繰り広げる麻倉純に、神田は言いようもない違和感を感じていた。先程まで拳を交えていた、懐かしい雰囲気が何処にも見当たらない。何よりも、自分のことを『神田くん』などと呼ぶ彼女を彼は知らなかった。それがただただ気味悪かった。