第一話「最期の願い」
[必読]概要、名前変換
・概要「亡霊に名前を呼ばれた日」から約2000年後の物語
ジャンル:転生/やりなおしモノ。神田落ハピエン確定(リナ→神田片思いからのアレリナ着地を含みます)
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教団における魔術師の役割は多岐にわたる。治療術や占術、魔道具の作成はもちろんのこと、最たるものは結界術であった。2000年に及ぶ戦乱の中で、無辜の民の血により積み上げられた防衛手段。アクマによる襲撃の予測方法が確立した現在では、要地に防衛陣地を築く事が教団の重要任務の一つになっていた。黒の教団科学班において結界を専門にしていた研究者はこの日を待ちわびていたと言っても良い。過去、教団が観測した中で最も洗練された結界を張った魔女の術をその目にすることが出来るのだ。
「それでは、結界を張ってもらいます。」
「想定は?」
「できるだけ強力なものを。砲弾を防いでもらいます」
「わかりました。砲撃して大丈夫ですよ」
「…?まだ張っていないように見えるが」
「…あの日と同じものが見たいのでしょう? では先に攻撃を。間に合わせますので」
「わかった。では砲撃開始!」
試験用に調整された砲弾を放つも、彼女に届くこと無く掻き消える。あの魔女の、麻倉純の素振りはただ一つ指を鳴らしただけだった。張られた結界に近づいて性質を調べれば、研究員から思わずため息が漏れる。
「…間違いない、あの場所に在った結界だ」
「ご満足いただけました?」
「ああ、実に素晴らしい…!だが、強度が違うな?なぜかね?」
「…結界術は土地の影響を強く受けるものです。郷とこの場では勝手が違います。」
「なるほど、君の魔力に馴染んだ地であったからこそのあの結界なのか…実に興味深い…」
そうしてブツブツと物思いに耽りだした研究者は気づかない。その結界を張った魔女がどんな顔で自分を見据えていたのかを、その緑色の瞳がどれほどの冥さを持っていたのかを知らずにいる。
「いま、砲弾が消えましたよね?」
「うん、消えてた」
「いや~、想像以上だね」
「すっげえさね…。なあ愁のアニキ、目の色が変わってんのはなんで?」
「…魔力を使うと変わんだよ。そういう質」
試験会場に選ばれた広間の上から行く末を見守っていた彼らが思い思いの感想を述べていた。中でも真剣に見つめているのはラビだ。ブックマンJr.たる彼にとっては初めての魔女との邂逅であり、少しでも情報を得ようとアンテナを高く張っている。
「純くーん!次は対人戦ね!」
「…承知しました」
よく通る声を少しだけ大きくし、こちらに向かって手を上げ了解の意を示してくる。エクソシストといえど軍人だ。多少の対人戦の心得がなくては困ると数年前から訓練項目に追加された事項であった。腕自慢の教団員数名を相手にした勝ち抜き方式の練習試合の結果は、各エクソシストの力量を測る指標として用いられる他、娯楽の少ない教団内でのちょっとした楽しみになっていた。現に野次馬達が次々と集結してきている。
「さて、彼女は何処まで行けるかな?」
「純!頑張ってください!」
「頑張って!」
応援の声に振り向いた彼女は、目を細めて手を振り返し武器としてゴム製のナイフを両手に取る。
「お、ナイフか。しかも両手、意外さね」
「なんというか、あまり戦っているイメージの湧かない方ですよね」
「そうね。お淑やかなお姉さんって感じ」
「はは、そう言ってられんのも今のうちだぞ?」
兄である麻倉愁は失笑していた。階下では純がナイフの握り心地を確かめながら、軽く飛び跳ねて準備運動をしている。それを見た対戦相手達が冗談めいてお手柔らかに、無理はするななどと軽口を叩いた時、彼女が何かを言い放ったようだ。一名ずつ相手をするはずの教団員が、そろって彼女の周りを取り囲む。それを一瞥した彼女は満足げに口角を上げた後、兄に目線をやり軽く手を挙げる。準備ができたという合図だ。
「え?大丈夫なんですか?」
「多対一はさすがにキツイんじゃねえの?」
「まあ、見とけよ。 では、はじめ!」
麻倉愁の号令と同時に純の姿が消える。次の瞬間には彼女に向かっていた大男が地に伏していた。他の面々はここで事態の異常さに気がついたようで一斉に彼女に牙を向ける。が、指先の一つが掠りもしない。なんなら良いように動かされ自滅まで起こっている始末だった。ピタリ、と最後の一人の首筋にナイフが当てられる。身体を身震いさせたその男は小さな声で「降参だ」とつぶやき、彼女から解放されていた。
「すごい…」
「なあ、兄弟子さんよ。勝つ自信あるさ?」
「ある、とは言い切れないです。少なくとも初見じゃ無理ですね」
「同感、俺も無理かも」
「ったく。コムイ、あまりに不甲斐ない結果じゃないか?舐め腐りすぎだろ」
「室長!いまのじゃデータ足りないっすよ!」
教団の中じゃ小柄な体躯と少女然とした見た目ゆえ舐めてかかられた部分はあるだろう。だが、それを勘案しても戦闘時間のあまりの短さに愁からも、地上にいる研究員からも文句が漏れた。
「え~?でも、今から誰が相手するのさ」
「俺がやる」
「神田!帰ってたの?」
「今戻った。」
「だめだよ、疲れてるだろう?」
「ちょうど良いハンデだ。」
突如として現れた声の主を振り返ると、数日前から任務に出ていた神田ユウが戻ってきたようだ。微かに息を上気させた様子で、この場まで急いできたのだろうとわかる。彼は制止するコムイの声も聞かず、一息に階下へ飛び降りた