第七話「狐と兎」
[必読]概要、名前変換
・概要「亡霊に名前を呼ばれた日」から約2000年後の物語
ジャンル:転生/やりなおしモノ。神田落ハピエン確定(リナ→神田片思いからのアレリナ着地を含みます)
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俺達はヘマなどしなかったはずだ。予定通り街の支配者気取りを、それも特に人望の厚い、慕われてた奴らを殺せた。顔に泥を塗られたと組の奴らは怒り狂い、カタギの老若男女共だって悼んで、そして数人がAKUMAになった。全ては上から、千年伯爵様から指定されたように。世界を終焉に導くシナリオ通りに事が進んでいた。
はずなのだ。
実際、連日行われてる犯人探しには俺達の名前など一欠片すら上がらなかった。忌々しい黒の教団が派遣してきた調査員だって、あまりにあからさますぎて調査すら出来ずに街から追い出されていた。俺達の進言すら必要なく街の総意がそうさせたのだ。都合が良すぎて涙が出た。
念には念を入れて教団の手が入ったことを伯爵様にお伝えして、俺達は街を出る手筈を整えた。エクソシストが街に入って、それから姿を追えなくなったのは手筈が整った矢先だった。俺達が伯爵様に指示されていたのは必要数のAKUMAの納品だ。まだ足りていないのにエクソシストに見つかって破壊されようものなら。それならまだしも、俺達が捕まって計画自体が頓挫しようものなら向ける顔がない。足が付く前に逃げるが勝ちだった。
勝ちのはずだったのだ。
「…と、言うわけで お前たちはここで、身内に報復されたことになるんだ」
この街一番の組の息のかかった酒場から出てきた女が、ここいらじゃよく見る銃の引き金を適当に引く。縛られて動けないままの俺の太腿に風穴を開けて、弾丸はフローリングに突き刺さった。
「身内殺しの報復を恐れて身を潜めていた貴様たちの隠れ家がついにバレて、足に傷を負ったお前は逃げることが出来ずに組に持ち帰られた と、いう筋書きで行こうと思う」
俺の太腿の風穴をあやすように優しく撫でながら女は激痛を送り込んでくる。叫び声を上げようにも縄を噛ませられていた。
「貴様たちは、伯爵の意に沿うことが出来ず 組と世界を呪いながら報復されて死んだ いかにも間抜けでお似合いだな?」
傷の無くなった太腿からは痛みが消えている。この気味の悪い現象もこれで三度目だ。眼の前にいる女は理外の化け物、時代が時代なら魔女として火炙りになっていただろう忌々しい生き物だった。それが我が物顔で街を闊歩することが許され、あまつさえ銀の十字架を胸に携えるなど悍ましい。伯爵様の敵は、世界の救世主面をした黒の教団様の本性とはこれなのだ。爛々としたグリーンの瞳を睨み返せば、満足気に口の縄を解いてきた。
「…ほら、喋っていいぞ」
「糞のエクソシスト エクソシストってのはテメエみたいな尻軽の女狐だったのかよ!」
「は、汚い口だが元気だな 良いぞ、その調子でべらべら喋ってくれ」
勝ち誇ったようにして女は笑っていた。誰が貴様の望むように話などしてやるものか。俺がまだ街にいたのは、顛末を伯爵様に報告するためだ。他の仲間はエクソシスト連中が来た時に既に街を発っている。もう追えはしまい。あとは、俺が死んで情報を抜けなくすれば良い。それだけで伯爵様に報いることが出来る。
「ああ、安心して 我々は君達の命を保証する いかなる方法でだって、死ねることがあると思うな」
「な…」
「奥歯の毒はもう抜いた 舌を噛んでもすぐに治してやる。 な?わかるだろう?」
すり、と傷一つ無い深窓の令嬢じみた細指が肩を、太腿を、首を、風穴を開けられた位置を撫でた。撃たれたときよりも強い痛みを伴って肉が塞がる感覚を思い出す。恐ろしいほど整った顔面で女が笑っている。睨みつけていたはずのグリーンの双眸から、目を逸らしたいのに逸らせない。笑っていない瞳の奥が、ゆらゆらと揺れている。この女にはもう逆らえないのだと体が理解して力が抜けた。
「よろしい、わかったなら良いんだ はじめに聞きたいことがあってね 何、口に出さなくたって良い 君の、伯爵に人間を売ったお仲間の顔を思い浮かべるだけでいい 出来るね?」
これは、この女は悍ましすぎる。仲間だけは売らないつもりだったのに、「仲間」と口が動いたのに合わせてあいつらの顔が脳裏を過った。それだけだったのに、二人だけだったこの部屋に三人の男が落ちてくる。先刻街を発ったはずの仲間は声を上げる間もなく縛り上げられた。
「三人だけ? 他には?」
「…居ない」
「本当かなあ?」
俺だって、嘘を吐くくらいは出来る。今度は誰も落ちてこなかった。成功したのだろう。
「ねえ、君達のお仲間は 何人組?」
「やめろ!」
さっき落ちてきた仲間に近寄って額に銃を突きつけながら女は聞く。俺の静止も虚しく、残った二人も落ちてきた。
「嘘が上手ね?」
「……これで全員だ」
銃声がして、今度は右手を撃ち抜かれた。倍以上の痛みを伴って傷が塞がれる。
「……本当に、全員だ」
「そうみたいね。 君達の身柄は教団に送られます 色々聞きたいことがあるの」
「吐くと思うのか」
「手段なんていくらでもあるのよ? まあ、取り急ぎ彼らの質問には答えなさい?次は頭を治してあげるから」
白くて丸い、不出来の鳥みたいなのに先導されて別のエクソシストが二人、部屋に入ってきた。
「老師 コイツは調理済みです 話しますよ」
「わかった すまんが麻倉嬢は」
「承知しております アクマの位置も割れましたので掃除してきますよ」
「任せたさ」
「はーい」
まだ撃ち抜かれていない頭に、あれだけの激痛が走った時俺は正気でいられまい。それとも、正気を保ったままあの激痛を味あわされるのだろうか。今になってエクソシストが街に入ったことを伯爵に報告していないことが悔やまれる。頼みの綱のAKUMAも今から破壊されるのでは間に合わないだろう。
「では、吐いてもらおうか 貴様らと伯爵の計画と、その連絡経路について」
俺は、これから、人類を裏切った代償として、伯爵を裏切り忌々しい教団に協力することを求められるらしい。それに逆らう気力など、根こそぎ削がれていた。