第一話「最期の願い」
[必読]概要、名前変換
・概要「亡霊に名前を呼ばれた日」から約2000年後の物語
ジャンル:転生/やりなおしモノ。神田落ハピエン確定(リナ→神田片思いからのアレリナ着地を含みます)
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紀元の前より続く使徒とアクマの大戦争は、2000年以上の時を経て未だ続いていた。無辜の民の血で過去の因縁を洗い流す大戦争。それでも先の時代にくらべ二世紀も未来に進み、一般社会へのダメージは軽減されている。この事実が黒の教団、ひいてはバチカンにとっては揺るぎない勝利への兆しであった。
それでもなお、勝利へはまだ足りない。神の威光を遍く知らしめんとする中央庁にとって、エクソシストの不足は最たる問題であった。再演の契約における2000年の猶予も底をつくという時分、勝利のために手段を選ぶ余裕はなかったのだ。あるいは手段を選ばずともよいと考えていたのかもしれない。ともあれ、黒の教団へは新たなエクソシストが加入する運びとなった。かねてより待ち望んだ、あの怨めしき『魔女』の加入である。
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仮想21世紀初頭の10月も末。黒の教団本部は、本日付で新たな仲間が増えるという事実に浮足立っていた。船着き場ではちょうど非番で教団に詰めていた三人が、今か今かと待ち構えている。
「そろそろかな?」
「楽しみさね。カワイー子だと良いなー」
「ラビ。そこそこサイテーですよ」
リナリー・リー、ラビ、アレン・ウォーカーである。中でもアレンの心情は複雑であった。この度入団するのは、かつて自分を放りだしてきた師匠、クロス・マリアン元帥が捜索していた相手であり、彼にとっては妹弟子にあたる人物なのだ。その上、と言うべきか
「…神田と同郷とは。」
神田ユウ。強力なエクソシストである一方で、暴力的で短気、ノンデリカシーの権化、仏頂面のムカつく男。まったく反りの合わない彼の同郷という事実がアレンの心を重くする。
「ああ、どうしよう。妹弟子があんな暴力馬鹿みたいな人だったら…」
「いやいや、同郷だからって そんな性格まで似てるってことはないさよ」
「ほんとかな…?どうするんですか、あれが日本人のスタンダードだったら。」
「ナチュラルに酷いこと言ってるよ、アレンくん。 大丈夫。きっとそんなことないよ…多分」
「ほら!リナリーだって自信ないじゃないですか…」
「まあ、近しいサンプルがあの二例じゃな… でも、ダメさよ。アレン。兄弟子がそんなんじゃ来る子も緊張しちまうって」
「…!そうですよね!ここは兄弟子として、きちんと導いていかねば…」
「おお、持ち直したようでなによりさ」
「あ!船が来たみたい!」
フード姿を数名乗せた手漕ぎ船が停泊する。やはり、と言ったところで降りてくるものの中にクロス元帥の姿はなかった。居るのであればとっ捕まえてやろうと考えていたアレンもすでに諦観しており、落ち込んだ素振りすら見せない。
降りたなかで一番の長身がフードを外して、彼らに声をかける。少しだけ神田に雰囲気の似たアジア系の男。アレンにとっては初めて見る顔であった。
「出迎えか?ご苦労さん」
「おー、久しぶりさね。愁のアニキ」
「おかえりなさい!あ、アレンくんは初めてよね? こちらは教団特殊情報部、隊長の愁さん。」
特殊情報部。室長であるコムイ・リー直下の情報部隊だと聞いたことがある。ファインダーだけでは賄いきれない情報戦や機密に特化した部隊だと。アレンも耳にしただけで、本体を確認したのは今回が初めてだった。
「はじめまして、アレン・ウォーカーです。」
「ああ、君が兄弟子の。 はじめまして、俺は麻倉愁。そしてこっちが俺の妹」
握手もそこそこに彼の妹だと言う人物を紹介される。彼の声に反応してフードを外したのは小柄な少女。美しい黒の長髪に、わずかに紫色を呈した大きな猫目、なるほど彼ら兄妹はよく似ている。品の良い、貴族的な笑みを浮かべて三人の使徒を一瞥した彼女は、流麗な動作でカーテシーをした。
「お初にお目にかかります。この度、黒の教団へ所属することになりました。麻倉純と申します。」
どうぞよしなに、と声をかけてくる彼女に最初にいうべき言葉はすでに決めてあった。
「「「教団へようこそ、純!」」」
司令室に向かう道すがら、純に教団内部を案内して進む。彼らの話にニコニコとした笑顔でもって相槌を打つ彼女は、いいところのご令嬢といった様子で、アレンの心配をヨソにどこぞのノンデリカシーとは全く違っている。
「戻ったぞ、コムイ」
「!! おかえり!愁くん! と、言うことは…」
「連れてきたよ、兄さん」
「はじめまして、コムイ室長殿。」
「やあ!君が純くんだね!待ってたよ、来てくれてありがとう」
「…使命に従ったまでですわ」
「よし。教団の概要は愁くんから聞いているね?」
「はい、問題なく」
「早速で悪いけれど、荷物を部屋に置いておいで。その後はイノセンスと、君の能力の試験をさせてもらいたい」
「かしこまりました」
「リナリー、部屋に案内してあげて。大きな家具はすでに運び込んであるから!」
「わかったわ、兄さん。 純、こっちよ」
司令室に入るなりトントン拍子で進む会話に、口を挟む隙がなかった。どうやら純はヘブラスカの検査を受けるらしい。先程までのにこやかな雰囲気とは打って変わって、どこか冷たさを感じさせる彼女に二人は少々面食らっていた。
「おー、切り替えすごいタイプさね」
「よかった…真面目そうな人で…」
「…そんなに不安だったのか?」
「コイツな、ユウみてえな子が来るんじゃないのかって心配してたんさよ。仲ワリーもんな、アレン。」
「へえ、アイツとね」
「せっかくの妹弟子ですし、仲良くしたかったので本当に安心しました。 あの…ところで、師匠は?」
「元帥は次の任務に向かったよ。…安心しろ、終わり次第戻るように言ってある」
「ちょっと、それ戻らないパターンじゃないかい?」
「大丈夫だ。いざというときのために発信機もつけてきた」
「絶対壊されますって…」
「俺の妹謹製だぞ?絶対に壊れないね」
「…魔女の特製か。それは頼もしい」
「魔女?」
突拍子もない単語だった。魔女。この魔女歴において絶対的な覇を誇る勢力であるにも関わらず、その行動には一貫性がなく気まぐれ。表舞台の歴史には数えるほどしか出現していないにも関わらず、その配下の魔術師がこの大戦争にも多数参加している。もちろん黒の教団にも技術者、治療術師合わせて多くの魔術師が所属していた。中でも『魔女』と称されるのは特に秀でた能力を持った魔術師、一人で戦況をひっくり返すほどの能力者を指すのだ。
「そうだよ。彼女は『夢の魔女』。 頼もしき僕たちの新たな仲間さ。」