第五話「幼馴染と過ごした日々」
[必読]概要、名前変換
・概要「亡霊に名前を呼ばれた日」から約2000年後の物語
ジャンル:転生/やりなおしモノ。神田落ハピエン確定(リナ→神田片思いからのアレリナ着地を含みます)
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その八『ご主人を探してside白丸…あるいは黒の教団壊滅事件』
ご主人がいない!
麻倉純の自室で強制的に電源を落とされていた彼女のゴーレムことシエルはやっとの思いで目を覚ます。シエルは特殊なゴーレムだ。教団と彼女の通信機の役割の他に、彼女の武器としての側面がある。そんな自分を置いて一人で出歩くなど不用心にも程がある。と、白いゴーレムは怒りながら猛スピードで教団の廊下を飛んでいった。
彼女の行き先など一つに決まっている。最近手に入れてお気に入りの山小屋、どうせ今頃暖炉に火を焚べてギター片手にソファで寛いでいるに違いない。教団の中でちょっと離れているだけ、何かあっても一人で対処出来るという言い訳が彼女の口から出てくることが今から想像に容易い。まったくもってご主人は危機管理が甘すぎる。不慮の事故などいくらでも起こり得るのだ。この万能武器たるシエルを側に置かないとは何事か!なんてプリプリ怒った様子で翅を流線型に畳みながら脇目もふらず突き進んでいたら、妙に固い物体にぶち当たった。ゴチンといい音が鳴る。目の前に広がる闇のような黒髪は周りの空気よりも幾分か暖かい。
「…ってえな」
シエルが状況を認識している間に伸びてきた手がそれを雑に掴む。その手の主を認識してあからさまにゴーレムの目つきが悪くなった。げ、神田ユウだ。ご主人の幼馴染、口の悪い失礼極まりない男である。
「んだコラ 白丸」
ほれみろ失礼だろう。シエルにはシエルという立派な名前があるのに勝手に白丸だなんて雑なあだ名を付けて適当に呼んでくるのだ。まあこれでも最初は『白いの』とかいうあだ名以前の呼び方だったのだから渋々シエルも白丸呼びに納得していた。
「アイツはどうした、捨てられたか?」
ひとしきりゴーレムを睨みつけてから神田が口を開く。わざとらしく嘲るような問いかけにシエルはブンブンと頭を振るようにして威嚇してみせた。ご主人がシエルを捨てるなどありえないのだ。そんなことを聞くなんて笑止千万、失礼すぎて話にならない。さらに言えば神田ユウの方こそゴーレムに捨てられているような有り様じゃあないか。いつもそばにいる黒くて泣き虫のあの子がどこにも見当たらない。そっちこそ、とシエルも侮蔑を込めた瞳で睨み返せば、神田は決まりが悪そうに目を逸らした。どうやらはぐれてしまっているらしい。
「心当たりのある場所は探したんだがな… 白丸、お前なにか知らねえか」
シエルは頭を横に振る。神田も期待はしていなかったようで無感情な舌打ちだけが帰ってきた。これでお互いの話は終わり。それぞれの探し物に戻ろうとしたとき、塔を貫いて轟音が鳴り響いた。
床の抜ける音、誰かの叫び声、金属が飛び散り壁にあたって甲高く空気が切り裂かれる。敵襲だろうか?身構えたシエルに対して、神田は妙に落ち着いていた。いや、落ち着いているというより呆れ返っていたという方が正しいだろう。この事態には覚えがある。敵襲は敵襲でも身内からの敵襲、優秀な科学班約一名の大き過ぎる負の側面、黒の教団壊滅事件の再来に違いない。
コムリンだとかいう妙に強い機械が城の内装を悉く破壊しながら下り落ちていく。シスコンマッドサイエンティストは実に優秀なようで、前回までの反省を活かし装甲が改良されているように見受けられる。無駄に固くて無駄に速いに違いない。生半可な武器では斬り伏せようにも武器が壊れてしまうだろう。まったくもってタイミングが悪い。神田は六幻を置いてきてしまったことを痛く後悔した。
後悔している間にもコムリンn号は彼の元へと迫ってきている。これ以上機械風情の狼藉を許してやれる気にもなれない。今すぐ斬りたい。八つ裂きにしてコムイの目の前に積んでやりたい。そして二度とこんな馬鹿げた絡繰を作るなと誓わせる。それには武器がないと、あたりを見回して白丸と目があった。あった。武器だ。白丸も不満げながら頷くように動いてみせる。
「…刀だ、白丸」
声を掛け空を握り暴れる機械に飛びかかる。神田が腕を振り下ろすのと同時に、それを追っていた光が刀の形をとった。白い刃がまるで豆腐を切るように軽やかに機械を断つ。続いた二振りで見事コムリンは八つ裂きになった。
「いい切れ味じゃねえか」
神田が手にした白色の刀を振り回しながら満足気に呟く。途中で刀はその手をすり抜け元のゴーレムの形に戻った。心なしか自慢げな目つきで彼の周りをふよふよと飛び回っている。こうして再来した黒の教団壊滅事件はおよそ最低限の被害で事態を収束した。
だが、彼とシエルの探し物は終わっていない。おおよその見当がついているシエルに対して、神田は無闇に探し回る他手段を持っていなかった。ひどく面倒そうな舌打ちとともに捜索を再開しようとする彼を白いゴーレムが引き止める。あの黒の泣き虫に通信をかければ居場所がわかる。あの暴れ機械からご主人の部屋を守ってくれた礼にそれくらいの手助けはしてやらんでもないつもりだった。訝しげに足を止めた神田の目の前で彼のゴーレムに通信をいれる。場所は教団内、森の中の一地点だ。シエルが場所を教えてやろうとしたとき、その通信に返答があった。
『はい、こちら神田のゴーレムですが 当人はいませんよ』
「……純?」
『神田?あなたね、くろすけ置き去りにして何やってるのよ』
「お前こそ白丸が探してたぞ」
『シエルはわざと置いていったの……って、この通信シエルから?』
「そうだ 今何処にいる」
『山小屋だけど …待ってるわ』
「ああ、すぐ行く」
会話の間も神田とシエルは先を急いでいた。シエルはまた彼女の不用心さに怒った様子で、それには神田も同意するばかりだ。まったくもって不慮の事態とは唐突に起こり得る。ついさっきの機械の暴走などがいい例だ。己を守る武器をわざと置いていくなど警戒が足りていなさすぎる。などと神田は自分を棚上げにしながら、黒の教団壊滅未遂事件の顛末を彼女に語って言い聞かせる気になっていた。
その八『ご主人を探してside白丸…あるいは黒の教団壊滅事件』おしまい
第五話「幼馴染と過ごした日々」 つづく