第五話「幼馴染と過ごした日々」
[必読]概要、名前変換
・概要「亡霊に名前を呼ばれた日」から約2000年後の物語
ジャンル:転生/やりなおしモノ。神田落ハピエン確定(リナ→神田片思いからのアレリナ着地を含みます)
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その七『ご主人を探してsideくろすけ』
ご主人が居ない!
定期連絡が入ってスリープモードから目覚めたときには埃っぽい部屋の隅にいた。パタパタと羽を動かせば鎖に繋がれた本の中に机がある。閉架書庫閲覧室に、泣き虫こと神田ユウのゴーレムは置き去りにされていた。ここのところご主人はなにか調べごとをしている。兎と呼ばれているご主人の同僚も時々参加しながらああでもないこうでもないと資料を漁ることが多かった。熱中した挙げ句資料の中に自分が取り残され、置いていかれてしまったに違いない。
急いで探さなくては!ご主人の側を離れるわけにはいかないのだ!
そうして泣き虫のゴーレムは書庫を出た。廊下を飛んで彼の部屋に行くも気配はない。では食堂かと羽を向けるも空振りだった。談話室、娯楽室、鍛錬室、医療室、司令室、と人の居そうなところは粗方見て回ったがあの長髪を見つけることができない。城の中をまわり続ける内にゴーレムのまんまるな目玉には涙が溜まっていった。不安そうに飛び回る泣き虫の姿にすれ違う職員が声を掛けるも、探すのでいっぱいいっぱいのそれの耳(?)には入らなかった。
飛んでいながらもとぼとぼと音が聞こえてきそうな羽様でもう一度城中を見て回ろうかというとき、ゴーレムが閃いた。ご主人が最近訪れる場所は書庫以外にもある。森の山小屋だ。そうだ、きっとそこにいるに違いない。と、ごきげんな様子のゴーレムは空気の入れ替えにと開け放たれた窓から勢いよく飛び出していった。
そして泣き虫は迷った。どこもかしこも似たような木々で埋め尽くされていて、同じ場所をぐるぐると回っている気がする。いつもはご主人について行けばいいから迷わないが、一匹で来るのは当然だが初めてだった。さっきまでのごきげんな様子はどこへいったのか。日が落ちて薄暗くなった森の中、大粒の涙を零しかけたゴーレムがふよふよと彷徨っている。野鳥が羽ばたいて木の枝を揺らす音にいちいち固まり、木々の間をすり抜ける不気味な風の音で進む方向を変えていた。
このゴーレムが幸運だったのは本当に同じところをぐるぐると周回しているだけだったことだ。たまたま良いタイミングで同じく小屋に向かおうと森を歩いていた麻倉純とばったり出会ったのだから。
「…くろすけ?どうしたの?」
くろすけ、とは彼女がこの泣き虫に勝手につけたあだ名だ。彼女のゴーレムを適当に呼んだ神田に対抗したらしい。そんな事情はこのゴーレムにはわからない。今重要なのは見知った顔に出会えたことだった。彼女についていけば山小屋に辿りつけるに違いない。
「神田は…、なるほど置いてかれたんでしょ」
そうです!探してます!と、身体を大きく動かして見せるゴーレム。その様子に純が苦笑した。おいで、とゴーレムを招いて指先に乗せ彼女は先に進む。
「……山小屋に行こうとして迷っちゃったんだ?」
置いていかれたこと、城の中を探し回ったこと、迷ったことを簡単に言い当てられゴーレムの羽がしおらしく畳まれる。それをあやすように撫でて彼女は笑っていた。山小屋についても神田の姿はそこにはない。本当に何処に行ってしまったんだろう?ご主人が近くにいない不安と情けなさで、泣き虫がまた泣いた。
「もー 本当に泣き虫なんだから…」
暖炉に火を焚べながら彼女がゴーレムの頬をうりうりと揉む。気に入ったのか数分は揉み続けていた。ご主人を探しに行かないといけないのに、どうも彼女は離す気がないようだ。なんとか抜けようと暴れてみるも児戯に等しくすぐに手中に捉えられる。
「いいから、待ってなさいって 大丈夫よ 彼ならきっとここに来るから」
確信のある口調で彼女がふんわりと笑った。ほんとかな?と、ゴーレムは一瞬頭を傾けたもののすぐに大人しくなる。ギターを取り出して爪弾き始める彼女の肩に乗って身体を揺らしながら、またスリープモードへと移行したのだ。
その七『ご主人を探してsideくろすけ』つづく
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