第五話「幼馴染と過ごした日々」
[必読]概要、名前変換
・概要「亡霊に名前を呼ばれた日」から約2000年後の物語
ジャンル:転生/やりなおしモノ。神田落ハピエン確定(リナ→神田片思いからのアレリナ着地を含みます)
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その二『少年少女の秘密基地』
「と、いうわけで 今日からこの小屋は好きに使っていいからね!」
クロス師弟という緊急ミッションをやり過ごした面々は司令室へと無事に辿り着き任務の報告を終えた。定型のやり取りと軽い説教もそこそこにコムイが切り出したのは数日前の夜の出来事についてだ。麻倉純が森で歌っていたことに端を発する一連の事件は、協議の結果お咎め無しで決着がつくことになったらしい。ただし、とある条件をつけての話だった。
条件を聞こうとした彼らをコムイが森へと連れ出した。彼の案内に従って、純が歌っていた場所よりも更に奥へと進んでいる。途中、軽い丘を昇って反対側に少し開けた草地へとたどり着く。分厚い林冠にポッカリとあいた間隙に崩れかけのあばら小屋があった。
「…室長殿、ここは」
「こんな場所があったんですか?」
「すっげえボロ小屋さね」
「いやー 良さそうな場所を探すのに苦労しちゃったよ なんせこの森すっごく広いからさ、僕達も全容を把握しきれなくて」
ここを見つけたときは感動して泣いちゃったね、などとコムイはわざとらしく笑っていた。相当な苦労があったに違いない。想像の三倍は広いとされる教団の森だ、しかもどこも似たような景色が続いているのだから手に負えなかっただろう。事実、鍛錬のために森をよく訪れ、彼らの中では一番詳しいと言える神田ですら知らない場所だったのだ。
「じゃあ条件を発表するよ」
「純君、思い切り歌うのなら娯楽室かこの小屋を使いなさい」
「…えっ、それだけですか?」
「そうだとも 本当はすべて自由にさせてあげたかったんだけど、ここが最大の譲歩点だよ」
それほどの苦労をして導き出される条件なのだ、よほど厳しいものになるのだろうと覚悟を決めていた純は呆気にとられる。そんな条件など有って無いようなものだ。歌を禁止されるどころか静かな場所まで用意してもらえるなんて思ってもみなかった。これでは自由と何ら変わらない。もしや一緒に連れてこられた彼らに場所が割れていることを指して譲歩などと言っているのだろうか?
「条件を飲んでくれるかい?」
「……上は、いい顔をしないんじゃ?」
「それを気にするのは僕の仕事だからね それに、一応扱いとしてはレクリエーション施設でみんなが使えるようになっているから、文句は言わせないさ」
眼鏡越しに茶目っ気のあるウインクがバチリと決まる。ビシリと立てられた親指が実に頼もしかった。
「わかりました、飲みましょう」
「よろしい と、いうわけで 今日からこの小屋は好きに使っていいからね! じゃあ僕は仕事があるから、あんまり遅くならないようにするんだよ!」
ゆっくりと手を振りながら去っていく背中を見送って純はあばら小屋を検分する。崩れかけてはいるが雨風を凌ぐくらいは出来そうだ。少し手を加えれば暖を取るにも十分になるだろう。こういうときに魔法は便利だ。便利使いしなくては勿体ない。
「まずは掃除からですか」
「純、僕達も手伝いますよ」
「と、いうより手伝わせてほしいさ」
「うんうん」
窓の建付けを調べていた純に三人から声がかかる。ニコニコと笑った瞳の奥に隠せない好奇心が光っている。まあ、ここまで一緒に来た以上当然の流れではあるが一応彼らの口から要望を聞いておこう。
「……その心は?」
「俺達にも使わせてくれんかなーって」
「こんないい場所ですからね、アルマにも教えましょうよ」
「秘密基地みたいでなんだかワクワクしない?」
「ふふ、そうね じゃあ六人だけの秘密にしようか」
「はぁ?俺も頭数に入ってんのかよ…」
「そりゃあ、場所知っちゃったんだから 当然さ」
「黙っててくれれば別に使う必要ないんですよ」
神田の口からでた悪態はほとんど条件反射だった。それを鬼の首を取ったように突かれて額に青筋が浮かぶ。
「うるせえ、誰も使わねえなんて言ってねえよ! とっとと片付けんぞ」
「まったく素直じゃないんだから… 純、ひとまずゴミを出すのでいいかな?」
「…いいえ、小屋から離れて 一気に終わらせます」
一応任務帰りで日も暮れ始めている。今から作業するのは骨が折れるだろう。そもそも純は最初から魔法で手早く済ませる気でいたのだ。彼らを背の後ろに追いやり小屋を見据え指を鳴らす。うむ、よろしい。埃っぽかった内装は清かになり、いらない物品も外へ出した。壁の隙間も埋まって建付けも治った。あとは追々家具など持ち込めば過ごしやすくなるだろう。ひとまずは大型のソファが欲しいな、などと彼女は思い浮かべてくつくつと笑っていた。その後ろで四人が絶句していたのは言うまでもない。
そんなこんなで少年少女たちが得た秘密基地には今日も誰かが訪れている。余っていたからと純が持ち込んだ絨毯の上に各自がクッションやらブランケットやらを持ち込んで時間を潰しているのだ。過ごし方は様々で本を持ち込んで読みふけったり、ボードゲームやカードに勤しんでみたり。持ち込んだお菓子をゴロゴロとしながら食べてみたり、大きな声ではいえない兄達への愚痴を零してみたり。
純の定位置はソファの上で、そこで楽器を弾いたり歌を歌ったり、イヤホンをつけて曲を聞いているのだ。時々多くが集まった夜には小さなコンサートじみて、そろって彼女の歌に耳を傾けたりする。
鍛錬の休憩所として使っているのは神田で、他のみんなが持ち寄ったブランケットを勝手に使いソファで休むことがしばしば。他の誰かの気配がすれば寄り付かないことだってあった。それでも深夜、寝付けない夜によく小屋を訪れるのだ。決まって先に小屋に来ている純と他愛のない会話をしながら暖炉の火を眺めて一緒に城へと戻る夜が何度もあった。
その二『少年少女の秘密基地』おしまい
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