第四話「おかえりを君に」
[必読]概要、名前変換
・概要「亡霊に名前を呼ばれた日」から約2000年後の物語
ジャンル:転生/やりなおしモノ。神田落ハピエン確定(リナ→神田片思いからのアレリナ着地を含みます)
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眠れない夜を過ごした純はイギリス南部の町へと赴いていた。本来予定していた任務が空振りに終わり早めに戻ろうかという時に教団本部からの通信が入る。ほど近い海辺の町がアクマに占拠され、その殲滅を命じられたのだ。同行していたファインダーに荷を預け、一人戦地へと急ぐ。空を駆け辿り着いた街の様子は平和そのものであった。往来を子供が走り、市の開かれた穏やかな市井にグロテスクな気配がしてイノセンスを発動する。海岸沿いに長く伸びた街全体を覆うように光輪に収めれば、無数にアクマの反応があった。占拠などと生ぬるい状況ではない、住民の三分の一程度が入れ替わっている。今エクソシストであることがバレてしまえば袋叩きにあってひとたまりもない、それ以上に一斉に彼奴らに暴れられでもしたら街など跡形もなくなるだろう。出来る限り静かに、一体づつアクマを葬らねばならない。これだけの数を、一人で?馬鹿げた話だがやる他無い。本部に状況と応援要請の通信を入れ機能を切る。連絡に構っている余裕などありはしないだろう。
純がこれから使おうとしているのは彼女のイノセンス【暈々】の第二解放状態である。[光暈]と名付けたそれは、純自身に光輪を付与し強化を図る術だった。攻撃と索敵の範囲性を失う代わりに一撃の威力と継戦能力を大幅に上昇させるそれならば、アクマを屠りながら街を練り歩ける。使うと決めてから彼女は深い息を吐いた。覚悟を決めねばならない。どれほど忌み嫌われようと無辜の民は守らなくてはならない。その最中に如何程の苦痛があってもだ。
「来い、暈々 第二解放光暈」
純の頭に光輪が刺さる。それは宗教画の天使に描かれる光背にも、悪魔に描かれる角にも見えた。光輪から淡く白いヴェールが伸び教団の黒き外套を覆う。手元には鉈に似た双刀が光っていた。伏せていた瞼を開ければ緑の瞳が街を睨みつける。ゆらりと動き出した体躯、音もなく路地裏を進んでいく。空気を震わさずに唇だけを動かして口遊んでいるのは呪文ではなくただの歌だった。いまから巻き起こる殺戮を肯定するかのようにアップテンポに悪の歌を、頭の中に鳴り響く聖句に思考を塗りつぶされないように。往来に出る前にすれ違った女性から悲鳴が漏れた。悪鬼だと罵られる。まさしくそうだと彼女は嗤った。刀を一振りして女性を断つ。歯車とオイルが断面から溢れ出した。これを繰り返すだけの悪鬼羅刹が街へと足を踏み入れる。穏やかな日常のレイヤーをそのヴェールで覆い隠しながら。
石工のアーロンは久しぶりの休暇を楽しんでいた。レストランのテラス席、向かいには愛しい妻が座っている。往来に白いヴェールが見えた時、彼女の首はもう無かった。理解が追いつく前に周囲の叫び声が耳をつんざく。至るところから油の焦げる匂いがした。見るも無惨に炎に包まれた往来を逃げ惑う市民、ガチャガチャとスクラップの踏まれる音。彼も炎から逃れるようにその後ろを追った。
マイケルはお使いの途中だった。今日の夕飯に使うベーコンを求め市へとやってきた。母から手渡されたメモと代金を渡し肉を受け取る。去ろうとした時ガチャリと店員の方から音がして恐る恐る振り向くも見えたのは白い角を生やした悪魔だけだった。
マルグリットは学生だった。明日までのレポートを友人と協力して進めている途中だった。喉が乾いてキッチンへ水を取りに行き、戻った先に友人は居なかった。引き裂かれた機械から黒いオイルが漏れ大きなシミを作っている。ベランダから白い影が飛び降りえると同時、オイルが燃え上がり一瞬にして消えた。
ウィリアムは漁から帰ってきたところだった。大量の舌平目を箱に詰め悠々と倉庫に運んでいた。倉庫から戻ると船が沈んでいる。仲間の服が浮かぶ毒々しく染まった海の表面に浮いたオイルが燃えていた。その上を白い化け物が歩いていった。
ヴィクトリアは町の東から走ってくる老人にぶつかった。酷く憔悴した様子の老人は譫言のように悪魔、悪魔が来たと呟いている。彼がやってきた方向を見るも街は何事もなく穏やかな昼下がりだ。呆けてしまったのだろうと老人を窘めようとした時、呪言を呟く白い魔女とすれ違う。途端に街は黒煙に包まれ、見るも無惨な光景が目の前に広がった。
三人すれ違う内に一人を撫で切る。五人家族のうち娘と父がスクラップになった。休憩中の工場で半数を貫いた。流れ出たオイルを燃やし、街を赤く染め上げていく。往来の様子に家に籠もった者たちを背後から刺した。愛しいものが壊されていく様子を見て市井のものは悪鬼だ羅刹だ魔女だ化け物だ悪魔だと口々に罵る。その中にアクマが混じっていたので斬っておいた。無辜の民が蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。もうじき日が暮れる。残るは崖に向かう道と、崖向こうの区画だ。身体ならば未だ動く、行かねばならぬと日の沈む方へ歩を進めた。