閑話2-X
[必読]概要、名前変換
・概要「亡霊に名前を呼ばれた日」から約2000年後の物語
ジャンル:転生/やりなおしモノ。神田落ハピエン確定(リナ→神田片思いからのアレリナ着地を含みます)
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2-X-3「任務報告書数枚と、ある任務の回想」
「…さて、それじゃあ報告書を読むかな」
コムイが冷めきってしまったコーヒーを飲み干し、メガネを拭いてかけ直す。麻倉純が教団にやってきてそろそろ一月。彼女がこなした任務の数も増えてきた。多忙故に報告書の概要をさらうのみにとどまっていたが、ようやくまとまった時間が出来たのだ。
彼女から提出された報告書はどれもよく纏まっていた。任務の概要、作戦立案の経緯、意図および結果報告。どれも過不足なく記されているが、端的に過ぎる。彼らエクソシストの管理義務のある室長としては、何を見て何を感じたのかをもう少し共有してほしかった。言葉の端的さは幼馴染である神田ユウに似通ってはいるが、彼の報告書にはもう少し不満や要望が記されている。その上、彼女は単独で任務に向かうことが多い。そのどれもが当たり障りのない報告書であるからして、任務地での彼女の様子を知る手段は、同行したエクソシストによる報告書数枚に限られていた。
【神田とアルマの場合】
彼女の初めての任務だ。ドイツの山村における防衛任務は、彼女の事前準備により大きな被害を出さずに成功を収めたと言ってもいい。
アルマの関心は彼女の魔法とイノセンスに注がれているようだった。街全体を覆うイノセンスの光の美しさと、負った傷を魔法で治療された旨、電車内で彼女のゴーレムの姿が様々に変化して驚いた旨が中心だ。締には彼女と仲良くなれる気がすると記載さている。良い関係を築き始めたようだ。
いつもどおり端的な神田の報告書には彼女が持ち込んだ土産の一件が記されていた。彼女の報告書には経緯が記されていなかったため助かる。どうやら貴族の奥方を助けるために施しを行って、その対価として教団への協力を約束させたらしい。彼女の所属はエクソシストではあるが、兄の部隊へも名前が入っている。おそらくはその一環だ。実際に効果は出ており、その貴族だけでなく他の中立派閥からも協力申請が届いたほどだった。最後に彼の所感として、土産を持って帰らなければという強迫観念めいたものを感じたと記されている。経過をよく観察しなければいけないだろう。
【ミランダとマリの場合】
彼らとの任務の報告書には嘆願文が添付されていた。曰く彼女がミランダのイノセンスの使用を拒んだとのこと。この件については純くんに聞き取り調査済みだ。実質的に不死である彼女に能力を使用するのは不毛であること、魔力まで回復させられてはミランダの身体が保たないことを理由に断っていた。理屈は最もである。
だが、彼女が囮役を務めたこの任務ではミランダの憔悴も殊更だった。マリの邪魔になってはいけないと歌を封じ身一つで戦ったらしい。二人共彼女を心配していた。一度軽く注意したが、理解してもらえただろうか。二人の元へ謝罪には言ったようだが、心配だ。
【クロウリーの場合】
彼女の強力さと戦闘時のギャップについての記載に『魔女とはさもありなん』の文字。戦闘の経緯をよく読むと、彼を誘導して大量のアクマを屠ったらしい。血の気が多い一面があるらしい。
―回想―
「で、ではよろしくたのむである」
「はい、よろしくお願いいたします」
「…む、来たようだな 血が欲しい。 私の獲物だ、邪魔をしてくれるなよレディ」
「仰せのままに、サポートいたしますわクロウリー卿」
アクマの気配を感じ取った瞬間に髪の毛が逆立ち荒々しい顔つきが姿を現す。その様子は獣か吸血鬼か。気も強くなるらしく口調まで変化している。一度は修正させた呼び名を当然のごとく吐くその口には鋭いキバが見えた。わざと恭しく応えれば満足気に敵へと駆けていった。
・・・
「これは殺りやすくて助かる!」
向かってくるアクマどもの動きが常に牽制されている。入り組んで視界の悪い森の中の戦闘で、死角からの一撃がなかった。その上追加の敵が姿を現す前に場所と数の報告が入る。実に強力な仲間を得たと言っていいだろう。
『新手です。北から20 多いですね』
「流石に多すぎるな… どうにかならんか」
『誘導しますのでこちらへ連れてきてくださいな』
「よかろう」
慇懃無礼な頼み事をうけ、アクマを連れて森を駆ける。日ノ本では唐突な攻撃のことを誘導と言うのだろうか。当たらないように調整された光弾が降り注いでは道を指定してきた。高い木々の間隙、光射すその場所に彼女が立っている。新たなエクソシストを見つけたアクマ共が抜けようとするので、彼もスピードをあげた。木々の間を抜け、広い空間に出る直前で彼女の声が耳を劈く。
「culcă!」
懐かしき母国語の命令に、考えるより先に身体を縮こめる。それと同時に空気の割かれる音。リボンを思い切り振ったような、鋭い切っ先を振り回したようなそれの後に、木々が倒れていくのが聞こえる。両の手を握りしめ笑みを浮かべる彼女のもとにたどり着く。振り向くと追ってきた敵は一様に空中で留まっている。違う、見えないなにかにギチギチと締め付けられているのだ。ぱっと彼女が手を緩めると同時に、賽の目切りになった機械が地に落ち朽ちていく。揺れる細い光、糸がアクマどもを切り裂いたのだ。
「間一髪でしたわね、閣下?」
彼女に浮かぶ高圧的な笑み。可憐な姫君だという認識は改めなければならないだろう。
「…魔女とはさもありなん。実に良い作戦であったな、姫殿下?」
「まあ、お褒めいただき光栄です 閣下」
「閣下はやめんか」
「姫殿下もおやめください」