第二話「かくも懐かしき」
[必読]概要、名前変換
・概要「亡霊に名前を呼ばれた日」から約2000年後の物語
ジャンル:転生/やりなおしモノ。神田落ハピエン確定(リナ→神田片思いからのアレリナ着地を含みます)
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『繰り返す、神田、アルマ、純の三人は司令室へ急行するように。』
スピーカーから流れたのは任務への招集命令だった。繰り返される言葉をよそに、呼び出された三人は司令室への道を急ぐ。
「おや、思ったより早かったね」
「急行と言ったのはお前だろ」
司令室では、コムイとリナリーが資料を用意して待ち構えていた。昨日の今日で再び任務に駆り出されるアルマから文句が漏れる。
「ねー、ぼくたち昨日帰ってきたばっかなんだけど!それにご飯まだ食べてないし…」
「私もアレンくんもラビも、このあと別の任務に行くの。」
「ああ、昼食なら大丈夫だよ。出発にはまだ時間があるから。」
それならば仕方がないと機嫌を治すアルマに、場の緊張感が一気に崩れる。咳払いをして佇まいを直したコムイが純に声をかけるが、彼女からの返答は素っ気ない。
「さて、純くんには初めての任務になるね。大丈夫そうかな?」
「問題ありません、室長殿」
「…オーケー、話を進めよう。 今回向かってもらう先は南ドイツの村。そこで発見されたイノセンスの回収と村の防衛にあたってもらう。」
モニターに映し出されたのは湖と山に囲まれた小さな山村の地図。山頂から続く川によって村がいくつかのブロックに区切られているのがわかる。山にほど近い場所に教会と、湖の辺には小さい漁港があるようだった。任務の確実な遂行のために、彼らは矢継ぎ早に疑問を呈する。
「イノセンスの状態は?」
「村の教会で保管してもらっているよ。」
「アクマは?どうなってるの?」
「今のところ目立った動きは無い。が、おそらく近日中に村が襲撃される見込みだ。」
「結界はどうなってますか?」
「張り直しを行ったから問題は無いはず。襲撃があるまでは保つだろうね」
つまるところはイノセンスの回収目処も立っていて襲撃場所と時間に予想のついている、やりやすい類の任務ということだ。だとしても油断は出来ない。このように事前に準備の出来る任務をこそ、確実に遂行しなくてはならないのだ。用意されていた資料を一通り見て純が呟く。
「…情報が足りませんね。出発はいつですか?資料を漁りたいのだけれど」
「一時間後には本部を発ってもらうよ。それと純くんはその前に着替えておいで」
「団服ができたの!さあ、こっちで着替えましょ」
リナリーに手を引かれ別室に連れて行かれる純を見送った司令室内には、なぜだか自慢げな顔の室長と、好奇心と食欲の間で揺れるアルマ、仏頂面の神田が残されてる。
「ふふん、彼女の団服すごく出来がいいんだよね」
「…いつの間に作ったんだ」
昨日の今日で簡単にできあがるはずがないと神田が怪訝な表情を浮かべてコムイに問うが、それに応えるのは彼ではなかった。彼ら三人しか残っていなかったはずの司令室の影から音もなく出てきたのは彼女の兄、愁だ。
「俺が先に連絡しといたんだよ、ユウ。かわいい妹に着せる衣装だ、妥協は出来ねえからな」
「…兄貴」
「アニキ!」
神田とアルマの二人は麻倉愁をこう呼ぶ。これはかつて愁が救い出した彼らの面倒を見ていたことに起因しており、神田が彼を兄貴と呼ぶのでアルマもそれを真似ている形だ。
「ほんと、注文が多くて参ったよ 全く困ったシスコンだよね」
「お前に言われたくないんだが」
「どっちもどっちじゃないかなあ」
年長者のシスコン二人が子供じみた言い合いをしていると、別室の扉が開かれる。
「室長殿、これでよろしい…って、なんの騒ぎですか」
「もう、兄さん!愁さんと喧嘩するのやめてって何度も言ったよね!」
「何度も?…説明できるわね、兄さん」
司令室内の様子を見渡した妹二人が呆れた顔で兄達に詰め寄る。こうなってはシスコンの二人に勝ち目など残されてはいない。なんとか純の団服へと話題を逸らして一時の安寧を得るので精一杯だった。
「…コホン。サイズも丁度だね、動きやすさはどうだい?」
「十全です、それにこんなに軽い。助かります。」
軽く腕を回し、何度か跳ねて見せる動きは軽やかだった。彼女の団服のコートの丈は他の者に比べて短く胸元までで断ち切られていて、袖も短めだ。加えて、肩口には隙間が作られており真白い肌が覗いていた。コートの内側からは薄手の布地が伸びており、燕尾服のような裾を描いているので背後から見ると長いマントを羽織っているようにも見える。軽くゆるやかな印象の上半身に比べ、腰から下に隙はない。伸縮性の良さげな光沢を帯びた生地のパンツに、真黒のブーツ。ブーツにつけられた透ける白のリボンだけが少女らしさを醸し出していた。
「うん、よく似合ってる」
「…こんなに可愛らしくする必要なかったんじゃない」
「いいじゃない、とっても素敵よ」
「そうだよ!純可愛いんだからピッタリだって」
「そうなら良いんだけど」
想定よりも可愛い仕上がりになっていたことが気恥ずかしいのか軽く口を尖らせていた彼女も、素敵だ可愛いだと持て囃されて現状を受け入れ始めている。それを仏頂面で眺めていた男の声が、その場の空気を断ち切った。
「終わったんなら準備だ 行くぞ」
「そうね、急がないと 室長殿、資料は端末に送っておいてください」
「ぼくご飯食べてきて良い?」
「…早く行け 純、俺達は書庫だ」
「了解」
出発までの時間は残り少ない。慌ただしく司令室を後にする彼らの背に、心配と祈りの籠もった言葉が投げかけられる。
「気を付けて行ってくるんだよ!」
「行ってらっしゃい!」
「はーい!行ってきます!」
その声に反応して手を振り返したのはアルマ一人で、二人は足早に書庫への道を進んでいた。