第二話「かくも懐かしき」
[必読]概要、名前変換
・概要「亡霊に名前を呼ばれた日」から約2000年後の物語
ジャンル:転生/やりなおしモノ。神田落ハピエン確定(リナ→神田片思いからのアレリナ着地を含みます)
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「おや、新しいエクソシストというのは君だな?」
「まあ!はじめまして。ミランダ・ロットーです。うれしいわ、頼りないかもしれないけれど、一緒に頑張りましょうね…!」
「ノイズ・マリだ。よろしく頼む」
麻倉純が教団本部にやってきた翌日、昨日は見なかった顔が声をかけてきた。幸の薄そうな長身の女と、物腰の柔らかい巨漢。男のほうは盲目なのだろう、物音でこちらに気付き声をかけてきたようだった。
「はい、麻倉純と申します。よろしくおねがいしますね、ミランダ、マリ。」
差し出された手を取り挨拶を返すと、もう一つ近づいてくる影が見える。細身で高身長の男だ。立ち振舞からして貴い生まれに見える。
「あの方は?」
「同じエクソシストのアレイスター・クロウリーさんよ」
「クロウリー!新しい仲間だ!」
「おお!それは素晴らしいことであるな。」
アレイスター・クロウリー。なるほど、神田が言っていた薔薇の管理をしている吸血鬼とは彼のことだろう。と、純は検討をつける。気弱で腰の低そうな態度ではあるが、その名前はルーマニアの男爵家のもので、れっきとしたとした貴族である。彼女もそれなりの態度で接さねば無作法というものだ。
「お初にお目にかかります、クロウリー卿。麻倉家が娘、純と申します。エクソシストとして教団に所属することになりました。」
「うむ、アレイスター・クロウリー三世である。麻倉家、ということは日ノ本の魔女であるな?」
恭しく礼をしながら名乗りを上げる純に、貴族然とした態度で言葉が返ってくる。まさか家のことを知られているとは思っておらず、彼女は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに笑みを作り直して応える。
「っ、ええ。すでに滅んだ家ではありますが」
「…そうであったな。 とまれ、これからは仲間だ。どうかよろしく頼むである、レディ・麻倉」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。クロウリー卿。 それと、できれば純とお呼びくださいな。」
「では、こちらもクロウリーと呼んでほしい。…その、気恥ずかしいであるからして」
ひと通りの挨拶を終えると、談笑していたマリとミランダが声をかけてくる。
「あの、よかったら一緒に昼食をとらない…?」
「様子をみるに、これから食堂へ向かうところだったのだろう?我々もそうなのだ」
「まあ、よろしいの?」
「もちろんである。」
・・・
「ええ、実に見事な薔薇でしたわ」
「お褒めに預かり光栄であるな…。にしてもあの小僧と同郷とは。そうは見えん」
「すごい偶然もあるものなのねえ」
「…噂をすれば影だな。お前も昼食か?」
談笑しながら食堂に向かうと、注文の列に神田ユウが並んでいる。
「…帰ってたのか。」
「昨日の深夜にな。どうだ?これから彼女と食事なのだが、お前も一緒に」
「絶対断られるであるよ…ひっ!」
苛ついた様子でクロウリーを一睨みした神田は、軽く舌打ちをするも話にのってくる。
「…あー、いいぜ。純、お前蕎麦食えよ」
「なに、それが目的?」
「昨日食うっつってたろ」
「…言ったけれども」
「ジェリー、コイツにも盛り蕎麦。辛味おろしと山葵をつけてくれ。それとかえしは」
「例のやつね。まかせて頂戴!」
皆の食事が出揃ってついた席には異様な緊張感が漂っていた。向かい合って座った神田と純は真剣に目の前の蕎麦を見つめている。重大な宣告が言い渡される前のような雰囲気に食堂にいる人間が固唾を呑んだ。
「では、いただきます」
純がまず手をつけたのは蕎麦つゆだ。その様子に神田が満足そうに口の端を上げるので食堂内に激震が走る。ごく小さい一口を飲み下して彼女が口を開いた。
「かえしを仕込んだのは貴方ね?よくできています。」
蕎麦つゆは合格だったらしい。次に箸を持ち上げた彼女は、細く切られた蕎麦を数本掴み、何もつけずに咀嚼する。瞼を閉じながら飲み込んで、再度蕎麦を掴み今度は蕎麦つゆへ浸した。つるつると音を立てずに啜り上げて、蕎麦猪口をゆっくりと置く。
「なるほど、なるほどね。出汁の味が少し弱すぎるんじゃないかと思っていたけれど、こちらの蕎麦に合わせての調整ね?」
「ああ、どうしても郷と同じ味にはならんからな。満足が行く味になるまで時間がかかった」
「…ふふ、大変美味しゅうございます。」
軽く笑って食べ進める純の様子に、食堂内の緊張が緩んでいく。どうやら試験の時間は終わったらしい。事の顛末を見守った者の中には、蕎麦を注文し始めるものもいる。同じ食卓の彼らも興味を抱いたようだった。
「神田がいつも食べているのは知っていたが、ソバをそのように食べるのはそんなに美味しいものなのであるか?」
「美味しいですよ。風味が非常にいいんです」
「その白いものは…?カブじゃないわよね?」
「大根おろし…、薬味ね。これもまた、さっぱりとしていて美味です。」
半分ほど食べ進めた後、猪口に辛味おろしを溶かし入れ、山葵をのせた蕎麦をつける。その一連の手慣れた所作を二人がほぼ同時に行うものだから、多少のおかしみがあった。持ち上げた蕎麦を口に運んだ神田の眉が軽く寄せられ、眼前の少女の様子を伺うように視線が動く。対して彼女は気にした様子もなく、美味しそうに咀嚼を続けていた。
「神田?どうかしたか?」
「いや、なんでもねえ」
怪訝な表情を浮かべ食べる手を止めていた神田の様子に気がついたマリが声を掛けたが、そっけない言葉が返ってくる。こういうときは得てして何かあると知っているマリであったが、むやみに彼の心を暴くことも無いだろうと微笑みを浮かべるだけだった。