EP4「亡霊が眠りについた日」
[必読]概要、名前変換
・概要原作沿い:本編開始前~神田ユウ教団帰還まで
ジャンル:悲恋、一部嫌われ要素あり
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クロス元帥の銃弾によりレベル4の頭部が破壊されて、長い朝が終わった。本部の半数以上を失うほどの大被害の痕跡が、まだ燻っている。襲撃が終わった安堵と、犠牲への混乱の最中に、天上から降るような鎮魂歌と一度の爆発音。古城の外から聞こえるそれはアクマが破壊された音だ。
他のエクソシスト連中がいた第五研究室の中に亡霊の姿はなかった。レベル4からコムイを守った時、ルベリエのヤツに駆け寄った影はアイツに見えた。俺達の側にいなかったのだから、ここに戦いに行ったのだと思っていたが違ったのか?では、この歌は、あの日聞いた歌はどこから聞こえてくる?
外しかないと気づいて窓に駆け寄る。白い光で失われていく朝焼けの紫の中、引き裂かれたようなアクマの残骸が無数に空から降り注いでいる。どれだけの数を破壊すればこんな景色になるのか理解ができない。黒焦げたスクラップに混じって青白い光が落ちていく。手を伸ばしても、窓から飛びよっても届く距離ではなかった。光が木陰に消え歌が止まる。俺は、彼女が落ちていくのをただ見送ることしかできなかった。
教団内部に亡霊を気に掛ける余裕のあるものなど残ってはいない。せめて落ちるのを見届けた俺が行ってやらねば報われないと思った。森に向かう間に亡霊の願いを思い出していた。穏やかに過ごすことは叶わなかったが、せめて擦り切れるように終わりたいなどと考えでもしたのだろうか。それにちょうどいい機会が見つかったとわざわざルベリエの奴に駆け寄ったのだろうか。それで死んで終われるのなら良かったのか。だったら、あの時出てこなければ良かったのに。俺の声に反応などしなければ良かったのに。最初から逃げていれば良かったのに。俺にあの日の話などしなければ良かったのに。本当に馬鹿な女だ。こんなくだらねえ場所で終わらなくても良かっただろうに。それとも、もう終われるだけで十分だったのか?
叶わないことを口にしても虚しいだけだ。そして残酷なことに口に出した願いはそうそう叶うものじゃない。亡霊の落ちた先、教団の森の奥に江戸で見たあの光があった。リナを覆っていたあの大きな結晶体ではなく、白磁のひび割れから生えるようにして首をもたげる結晶体。ボロボロに傷ついて色味を失った彼女の頭を抱きかかえるようにして包み込む聖なる光。イノセンスが宿主を守っていると考えられていたソレは、亡霊を逃がすまいと拘束しているように見える。これでは…これでは、
「これじゃ終わらせてはもらえねえな。」
考えていたことと同じ言葉が背後から聞こえてくる。
「元帥」
「…そう睨むな。どうしようも無いことだった。外に対応できるのがコイツしかいなかったのさ」
「コイツは、麻倉はこのあとどうなるんですか」
「俺の知ったことではない。が、リナリーがああなった以上、良いサンプルだろうな」
「…アンタは弟子のことをサンプルだと言うのかよ」
「この様子じゃ意識が戻るかもわからねえ。意識の戻った弟子をいじくり回されるより、このまま調査されたほうが幾分マシだろう」
「随分と小さな幾分ですね」
「ああ、実に惨い話だ。」
元帥の言う通り、このまま意識が戻らないほうが亡霊にとっては良いのだろう。終わりたいと願っていたのだから、せめて眠りにつくことだけでも許されていればいいのに。
教団本部を移転する準備に駆り出されている間も亡霊は目覚めない。結晶形と名付けられた装備型イノセンスの進化、その2例目になりうる亡霊の身体は存外丁重に扱われていた。それでもクロス元帥の言っていたようにサンプルであることに代わりは無いようで、教団の移転後に詳しい調査が実施されるらしい。
…コムイの薬によって引き起こされた馬鹿馬鹿しい事件の顛末によれば、この城に巣食っていたマジモンの亡霊をコムイの意思が救ったと。教団本部で行われた惨たらしい実験の被害者たちの怨念。新たな拠点に居を移す前に、過去の遺恨が一つ清算された。同じくあの城で実験を受けていたアイツのことも清算されてしまったのだろうか。新本部に移った後も一向に目覚める様子がない彼女はいないものとして扱われ、死んだも同然だ。…それで良いと思った。目を覚まさずにいれば、亡霊でいられる。もう、無理をして使徒である必要はないのだから。
EP4「亡霊が眠りについた日」
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