EP4「亡霊が眠りについた日」
[必読]概要、名前変換
・概要原作沿い:本編開始前~神田ユウ教団帰還まで
ジャンル:悲恋、一部嫌われ要素あり
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仮想19世紀末、教団への襲撃の末。
亡霊は長い眠りについた。
EP4.亡霊が眠りについた日
―――あなたが私を呼んだ声に反応したことが運の尽きでした。いいえ、違いますね。本当は呼び止めてくれて、帰るぞと言ってくれて嬉しかったの。
あのときの私は怯えていたから。教団に戻ることが怖くて、また誰かを傷つけてしまうんじゃないかと怖くて、それなら誰にも知られずに何処かへ逃げてしまいたかった。でも、あなたは許してくれなかったね。それはきっと私が約束を破ったからでしょう?わかっている、だってあなたがそれを一番嫌うと知っていてあの話をしたんだから。それで見放してくれれば良いのにと思っていたけれど、本当に残酷な人。私を逃さないことを選んだんですもの。
クロス元帥もひどいお方だわ。思ってもいないくせに私を弟子だと呼んで、抱きとめて頭を撫でてくるだなんて。そんなことをするくらいなら江戸に呼びつけたりせずに放っておいてくれればいいのに。方舟でも優しい顔なんてしないでいてくれたら良かったのに。
それでも、だからこそ、教団が私の帰っていい場所だと口にしてくれたことが殊更に嬉しかった。よくやったと褒められたのは初めてだった。皆のことを繋ぎ止めることができて本当に良かった。なんだか、ようやく皆の一員になれた気がしたの。
だから拘束されたことも、あんな独房みたいな場所に閉じ込められたこともちっとも恨んでいない。イノセンスの痛みと恐怖心で抵抗してしまったけれど、今なら私の暴走を止める唯一の手段だったとわかるから。でも、本当に怖かったな。イノセンスを埋め込まれる前に過ごしていた部屋に似ていたの。毎日毎日検査と実験の繰り返しだった。今回は名目上は療養だったから実験はなかったけれど、何もしないでくれっていう皆の目線が辛かった。
何度も夢を見たわ。あの崖の上のニワトコの樹にあなたがバスケットを置いていく夢。私がサンドイッチを貰ったときの、地団駄を踏むあなたの夢。海に落ちたあなたに包帯を巻いた夢。あのときは本当に驚いたんだから。あなたが李を持ってきてくれる夢。一緒に花畑に歩いた夢。見たのはあの数年の間のことだけ。それだけが私に残った楽しい夢だった。
独房にはルベリエ長官殿が何回も来た。多くのエクソシストを失った後で、あなたとラビのイノセンスも壊れていたし、リナリーちゃんのシンクロ率も低いままだったんでしょう?きっと私を休ませておくだけの余裕がなかったのね。私、彼のことは嫌いじゃないの。長官殿は最初から私を使徒として扱ってくれたから。ただの使徒として命令を下してくれるから。早く擦り切れてしまいたかった私には都合が良かった。
あの日。教団が襲撃されたあの日、衝撃で私の拘束が緩んであの独房を抜け出せた。聞こえてくる通信の内容は酷いものだったわね。レベル4に進化したアクマに教団がめちゃくちゃにされて、撤退の指示が出ていた。あのとき、室長殿を守るあなたを見たわ。イノセンスがないのにあんな無茶をするなんて、本当に命知らず。
知ってる?あの日は教団の外からもアクマの襲撃があったの。元帥達も、動けるエクソシストももう残っていなかったから、志願した。ルベリエ長官殿ならば私を止めないとわかっていたし、教団の外ならば皆を巻き込まずに戦えた。でも、リナリーちゃんには悪いことをしてしまったかな。あのときの彼女にとって、私は良い前例だったでしょう。装備型のイノセンスを直接身体に埋め込んだところで良いことなんて何も無いのに。ルベリエ長官が良い口実に使ったことなんて想像に難くないもの。それで決意してしまえるんだから、本当に強い子。結晶型、でしたっけ?彼女が私と同じにならなくて良かったと思う。
とまれ、あの日の私にはようやく贖罪の機会が与えられていた。中のことはきっと皆がなんとかしてくれるから、それまで外敵から教団全部を守り通したかった。嘘、そんなことは微塵も思っていなかったの。言ったでしょ?やりきって擦り切れるように終わりたいって。私の身体は万全じゃなかったし、イノセンスももう暴走寸前でまともに言うことを聞いてはくれなかった。本当に終わるにはちょうどいい日だったの。だったらせめて、終わるならば私のことを―――
(麻倉純の日記より抜粋)