EP3「亡霊に繋ぎ止められた日、亡霊を繋ぎ止めた日」
[必読]概要、名前変換
・概要原作沿い:本編開始前~神田ユウ教団帰還まで
ジャンル:悲恋、一部嫌われ要素あり
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崩れ行く白亜の街の中、俺達に残された時間は2時間だけ。天パのノアの野郎が言うには、一番高い等の天辺に崩れる前にたどり着けば出られるという。イノセンスの力を失ったリナと一般人を連れて逃げ惑うだけでは埒が明かない。覚悟を決め鍵を差した扉の先、うちの元帥を狙っている大男のノアが待っていた。いずれ消滅する場所だとわかった矢先、モヤシが残ると言い出す。冗談じゃない。ただでさえ戦力が足りてねえのにアイツと二人でなど考えるだけで腹が立つ。六幻を抜いて脅して、ようやく先の扉へと向かっていく連中にため息が出た。
「神田っ。ちゃんとあとでついてきてね…絶対だよ」
気にかけてくるリナリーの声を無視していたら怒られた。仕方がないから返事をしてやったタイミングで、大男が痺れを切らしたようで姿を大きく変え電撃を放ってくる。
ノロマだがやけに頑丈なノアとの殺し合いが続く。今いる部屋ももう長くは保つまいと、命を昇華し趨勢を決めにかかるも、怒りのノアだという大男を斬りつけるたびに焼け焦げていく身体に回復が追いつかない。終いにはウザったい鎖に振り回されては間合いを失う始末だった。そうして部屋の崩壊が始まる。すでに時間は残されておらず手段を選ぶ暇がない。まだ死なない俺の身体を利用して大男の隙を狙うしかなかった。
「人は死ぬものだ 人で在る限りな」
首を焼き切ろうとするノアの身体を六幻で裂いた。流れ込むエネルギーで六幻が融けだしたが殺すには十分で、鬱陶しかった鎖が消えている。まだ崩れ落ちていない出口に向かうも意識が朦朧とする。命を削りすぎた代償が足を重くしていた。最悪なことにまだ動けたノアの野郎が出口を目掛けてデケえ一発を狙ってやがる。先にはアイツらがいる。ヤツの攻撃を通すわけにはいかない。残された力で電撃を受け止めるも、増していく力に六幻が保たなかった。砕けた六幻に命を吸わせて今度こそノアを切り捨てる。不死だなんだと騒いでは、その体は塵になって崩れていった。
それでも時間だけが足りなかった。俺のいた部屋の出口は崩れ、瓦礫の中に飲み込まれていく。ようやく終れることへの安堵か、誓いを果たせなかったことへの後悔か、無意識に口角が上がる。次元の狭間に飲み込まれていく意識のなかで、聞き覚えのある歌が聞こえてきた。亡霊の声だ。白亜の街に消えたあの女は崩壊を免れただろうか。こう思うとみすみす見逃してしまったことが腹立たしい。アレもエクソシストの端くれだ。戦力くらいにはなっただろうに。もう時期終わるというのに後悔が思考を焼いていく。…まあ、今更言っても詮無きことだろう。もう形すら失った俺の意識にアイツの歌が届くということは、亡霊もこの狭間に飲み込まれているはずだ。最期に聞くには悪くない声だ。そう思って笑ってしまいそうになる。…俺は案外アイツに絆されていたらしい。この歌声が鳴り止むまでは意識を失いたくなかった。
どれだけ経っただろうか。歌声はまだ鳴り止まない。魂に楔を打たれたように遠ざかる意識を引き止め続ける歌に、突如ピアノの音色が鳴り響く。
「………」
気がつくと部屋に居た。いつのまにか歌は止んでいて、崩れたはずの瓦礫も、消滅したはずの床も元通りだ。理解が追いつかない頭を放って出口へと向かう。道中で落ちていた吸血鬼を拾った先で、馬鹿ウサギ達がやたらと騒いでやがった。コイツ達も歌とピアノの音を聞いたらしい。モヤシもリナリーも無事なようで空から声が降ってくる。よくわからんがモヤシが舟を操って街をもとに戻したんだとか。
それから街を見回って出口を探す最中でモヤシといがみ合ったり、落ちかけたところを新たな適合者に救われた。ノアの連中の姿はどこにも残っていないようで本当に街が元通りになったのだとわかる。
江戸で待たせていた師匠たちに無事が伝わって酷く泣かれた。外からは俺達の存在を感知できなくなっていたらしい。アジア支部で逃亡を図るクロス元帥を引き止め教団へと戻る。「おかえり」と笑顔の歓迎を受ける者の中に亡霊がいない。まさかアイツだけが消えてしまったわけでもあるまい。それともあの協力要請が狂言で、すでに逃げおおせたのか。知っているのは亡霊を江戸に呼びつけたクロス元帥だろうと目線をやると、顎で方舟の奥を指し示される。居る、ということだろう。任務が終わった以上協力義務は果たした。その上、また見過ごしては約束を破られた割に合わない。
「麻倉!帰るぞ!」
名前を呼んだだけで辺りが騒然とした。本部の連中も亡霊が江戸に居たことを把握していなかったらしい。同じ方舟の中に居たことを知らなかったリナは尚更で、元帥に抱きついていた腕を強く締めた。その腕を優しく外して席を外すように言ったクロス元帥が、コムイに問いただされている。
「必要だったんでな、俺が直接呼んだ。 おい、純!早く来い」
街の影から亡霊が姿を現す。たった数時間前より色の抜け落ちた髪と広がった首元の光、生気の失せた瞳が、アイツはアイツで擦り切れるまで戦っていたのだろうと思わせる。
「…もといた場所に戻りますから。教団へは…」
「許さん。命令だ」
「……。」
恨めしそうな緑の瞳に睨めつけられる。俺に呼ばれなければ逃げられたとでも言うつもりか?掠れているにも関わらず、脳を貫かれるような刺激のある声。喉が震える度に脈動するように明滅するひび割れからの光。息も絶え絶えで、どこからどう見ても限界を迎えて暴走寸前の亡霊はいらん意地を張っているだけに見える。
「ですが、クロス元帥…」
「俺の弟子が教団に帰っちゃならねえ道理が一つもない。こっちに来て治療を受けろ。」
その言葉が鶴の一声になった。おぼつかない足取りで近づいて来る亡霊を抱きとめた元帥が「…純、お前はよくやった。良い弟子だ」などと頭をなでている。麻倉はもう声を出す気力も無いようで、されるがままに身体を預けていた。慌ただしく治療の準備を始める職員を横目にその場を去ろうとした時、クロス元帥に声をかけられる。
「神田、よく呼び止めた。」
「別に、気に食わなかっただけです」
「そうかい。」
「…アンタはコイツに何をさせたんだ」
「何、ただの保険さ。いわゆるプランBだ。今回はお前たちを繋ぎ止めるのに使っちまったがな」
「は?今なんと…」
「コイツのイノセンスは魂に直接効く。お前たちの魂がどっかいっちまわないようにこっちの舟に縛り付けさせた。聞こえただろ?」
「…はい。」
「コイツの力を失うのはまだ惜しい。お前が呼んでなけりゃ、俺がぶん殴ってでも捕まえたよ。」
そういう元帥は、目を悲しげに伏せて彩度を失った髪を梳いていた。間もなく担架が運ばれてきて亡霊を連れて行く。朦朧とした意識で抵抗し始める少女が縛り上げられて猿轡をつけられていた。イノセンスの暴走を意識してのことだろうが、その様子を見ていられなくて目をそらし、離れていく足音の向かう先が病棟じゃないことに気づかないふりをした。
EP3「亡霊に繋ぎ止められた日、亡霊を繋ぎ止めた日」
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