EP3「亡霊に繋ぎ止められた日、亡霊を繋ぎ止めた日」
[必読]概要、名前変換
・概要原作沿い:本編開始前~神田ユウ教団帰還まで
ジャンル:悲恋、一部嫌われ要素あり
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「…お主がクロス部隊とは、初めて耳にしたぞ」
「遅れてクロス元帥から直々の司令をいただきましたので」
「まったくマリアンのやつは…」
「ええと、あなたもエクソシストなのよね?」
「…ええ。麻倉純、どうぞよろしく」
そうして口元だけで笑みを作った亡霊に対する反応は二分されていた。僅かな希望を感じているのはおそらく初対面のヤツだろう。コイツを知っている兎など、眠っているリナリーとの間に入って距離を取るように牽制していて、それに気づいたのか亡霊は手振りだけで近づかない意思を示していた。
「ここまでは一人で来たのかい?」
「改造アクマとやらが道案内を」
「ふむ、僕たちと同じようだね」
「…元帥たちはどうしてこちらへ?」
「日本で適合者を探しに来たのだが…」
「そこでクロス元帥の策略に巻き込まれたと、災難でしたね」
「まったくだよ」
「もうよろしいですか?」
「待ちなさい、君も離脱すべきだ。」
「元帥殿、そうは参りません。クロス元帥直々の指名です。それだけの意味がある」
「しかしだね…!」
「私の姿が見えては落ち着かない子もいるでしょう。…ご安心を、話は聞いておりますので。」
軽く現状を報告しあったところで、亡霊が橋の影へと戻っていく。突然現れては消えたアイツに困惑した連中へむけてブックマンと師匠がアイツの説明をしてやっている。その話を耳に入れたくなくて辺りを見回るふりをして席を外した。
橋の後ろ側、積み上がった瓦礫の上に浅く腰掛けて更地になった江戸の街を見つめている。足音でこちらに気づいたのか、一度だけ目線を向けてすぐに戻す。
「生きてやがったのか」
「…おかげさまで」
側に腰掛けてどんな顔をしているかと見てやれば、ただただ無表情を返される。
「…辛くねえの?故郷なんだろ、ここ」
「別に?生まれが江戸なわけでもないし、日本に居たときのことなんて覚えてない。そっちこそ、興味なさそうじゃない」
「俺も似たようなもんだ」
「…そう」
それだけ返して淋しげに目元を細めるのは見知った亡霊の仕草だった。
無言の空間が続く。静寂の向こう側から、残った奴らが亡霊について話す声が流れてきていた。麻倉は気にしないように努めているのか、頬杖をついて放りだした足を遊ばせている。そうしながらも俺の様子を伺っているのはなにか言いたいことがあるからだろう。しばらくして決心を固めたようにこちらを向き直してきた。
「ねえ、神田 覚えてる?」
「何をだ」
「あの花畑。昔一緒に行ったでしょ」
「…ああ」
「私、またあそこに行きたいの」
「戻ったら勝手に行けよ」
「…いますぐに、って言ったら?」
珍しく縋るように伸ばされた腕と、まっすぐに見つめてくる瞳。思い出すのはあの花畑で交わした約束。逃げないのかと問いかけた俺に、あんな穏やかな場所で暮らしたいと返した少女。その手を俺は取ってやれない。
「今更逃げたくなったのかよ」
「…そ、このまま何処かに行けたら良いなって」
「無理だとわかっていて口にするんだな」
「ごめんね」
「謝るくらいなら最初から言うな」
「わかってるよ。 代わりに、じゃないんだけど…ちょっと協力してほしいことがあるの」
「…聞くだけ聞いてやる」
「この後、どうしても単独行動を取らなきゃいけない時が来る。そのときに黙っていて。知らんぷりをしてほしい」
「師匠が許さんと思うが…。クロス元帥からの依頼か?」
「そう。元帥には借りがある…ようやく返す機会が来たの。失敗できない。お願い、神田にしか頼めない」
「ちっ…勝手にしろよ。俺は口を出さない。それでいいだろ」
「ありがとう。」
そう言って伸ばした腕を引っ込めた亡霊は、まだ悲しげに俺を見つめている。約束を違えられたにも関わらず願いを聞き届けてしまったのは、その瞳に宿る光に覚悟を見出したからだろうか。
「ああ、彼女が起きたみたい。行ってあげなさいよ」
向こうから騒がしいモヤシとラビの声が聞こえてくる。リナリーが目を覚ましたらしい。行ってこいと促す亡霊の手を引いて元いた場所へ歩き出した。
「…私が行くべきじゃないってわかるでしょ」
「知らんな。見逃すにしろそれまでは単独で動くな」
「別に逃げない 手を離して」
「どうだか」
観念したのか押し黙ってついてくる亡霊の手を離し足早に戻った先では、リナリーを囲んでモヤシ達がじゃれ合っていた。俺達が戻ったことに気づいたリナリーが目線をこちらに向け、亡霊の姿を目にしたかどうかという時、その体が地面に飲み込まれる。
「…!」
「狙いはリーだ! とめろっ!」
引き留めようと手を掴み合った連中が次々と穴の中に吸い込まれていく中、麻倉が俺より先に動いていた。焦った顔で穴に駆け寄り誰を掴もうともせず一息に飛び込んだ亡霊。それを追うようにして抜けた先には白亜の街。積み重なるようにして落ちた俺達の横を、ひとり静かに抜けていく少女は、その緑の瞳で俺だけを見て唇に人差し指を当てる。先程言っていた協力の機会は存外早く訪れたらしい。聞きたいことは山ほどあるが何も口を出さないと言った手前、アイツを行かせるほかない。早く行けよと促すように目線をそらしてやると、亡霊は足早に街の隙間に姿を消した。