EP3「亡霊に繋ぎ止められた日、亡霊を繋ぎ止めた日」
[必読]概要、名前変換
・概要原作沿い:本編開始前~神田ユウ教団帰還まで
ジャンル:悲恋、一部嫌われ要素あり
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仮想19世紀末の日本は江戸。
崩れ行く方舟の中で亡霊の歌に繋ぎ止められた。
EP3.亡霊に繋ぎ止められた日、亡霊を繋ぎ止めた日
結局、使徒になった麻倉とは一度も任務を共にしなかった。教団本部で何度か顔を見かけはしたが、長居はしていないらしく言葉を交わす機会も殆ど訪れない。風の噂で聞こえてきたアイツの様子は無口で冷徹な女。過去に植え付けられた恐怖心はまだ消え去ってはいないようだが、あの亡霊はある種の畏怖をもってして受け入れられたようだった。何かと単独任務を与えられることが多いようで、新しい傷を増やしては次の任務の資料を漁っていた。あの街に居たときは伸ばしたままだった黒髪は、整えられ光に当てられては艶を返し、少女じみた赤みを帯びていた肌はより青白く磁器の滑らかさを増している。任務を繰り返す度に失われていく光に透ける紫と増えたひび割れから覗く青白い光が、あの亡霊がエクソシストとして身を捧げていることの何よりの証拠で、それとは裏腹に彩度を保つ瞳だけがやけに目についた。
千年伯爵からのメッセージを受け、元帥たちの護衛に駆り出される最中で6人のエクソシストが散っていった。AKUAMAとノアの連中によるイノセンス狩りに同門の使徒も奪われた。
「私は帰らん ――
それに、新しいエクソシストを探さないと 神が私達を見捨てなければまた新しい使徒を送り込んでくれるだろう」
本部からの帰還要請を聞いたティエドール元帥の言葉は予想通りのものだった。悪化する戦況の中の僅かな希望を探すのが己の努めだと、デイシャの故郷を空に届けながら元帥は涙を流す。ならば、俺も課せられた任務に努めねばならない。
「お供します ティエドール元帥」
そしてたどり着いた先は日本の江戸。故郷と定められた見覚えのない景色の中を改造AKUMAに連れられて進んでいく。高く積み上げられた石垣に乗る瓦屋根の城、その下に広がる街の上で見たこともないゴツいアクマが暴れている。マリが感じ取ったのはクロス部隊の音。どうやらアイツらもこの街に用があったらしい。助太刀に行けば、ボロボロのリナがノアの野郎に囚われていた。やけに硬いアクマを真っ二つにしてファーストネームを口にしやがった兎を怒鳴りつけたとき、どす黒い悪寒が背筋に走る。
城を中心にして広がっていく、街の跡形すら残さない衝撃波。それをなんとかやり過ごしたものの、他の連中はすでに死に体だった。更地になった江戸の街の中で神々しい光が頭上から降り注ぐ。
「!! また…っ」
「おい…何だ コレは…!?」
月明かりの薄闇の中で光を放っている結晶の中から聞こえてくるのはリナが俺達を呼ぶ声。起こった事態を飲み込めずにいた俺を、危険だと叫ぶマリの声が現実へと引き戻す。襲ってきた天パのノアの攻撃を咄嗟に防いだが、そのままリナの下から引き離されるように戦闘へともつれ込んだ。ヤツを追って仕留めようと切りかかった先に居たのはモヤシとラビだけ。
「どうなってんだ… そこにもノアがいねェ…?」
「ちっ」
…ノロマにも遅れて登場しやがったモヤシ野郎に一通りのイラつきをぶつけた後に、散らばって倒れていた連中を集めまだ形を保っていた橋の下に集合する。適合者の探索のために日本に向かってきた俺達とは異なり、クロス部隊の奴らは改造アクマだとか、プラントだとか、ノアの方舟だとかのために日本に誘導されて来たらしい。ティエドール元帥曰く、クロス元帥によって良いように使われているだけらしいが、それ自体はクロス部隊の連中も理解しているようだ。それが師匠は気に食わないらしい。
「…今この世に存在するエクソシストは教団にいるヘブラスカにソカロとクラウド。 マリアン、そしてここにいるたった10人しか居なくなってしまったんだよ――」
だからこそクロス部隊は戦線を離脱すべきだと主張する元帥に、疑問の声が上がる。
「…10人、ですか?」
「ここにいるのは9人ではありませんか?」
「いいや、もう一人来ている。マリ、そうだね?」
「はい、先程まで離れた場所でアクマを狩っていたようですが、もうこちらに来ています。」
「…まさか」
「出てきなさい、君もクロス部隊という括りになるのだろう?」
「…そうせよ、とおっしゃるならば」
随分と久しぶりに聞いた声。訃報が聞こえてこない以上生きているとは思っていたが、まさか江戸にいるとは。新しく誂えられた団服の上にマントを羽織った女のエクソシスト。首に巻き付けられた包帯を透かして光る喉元のイノセンス。崩れた橋の陰りから現れたのは、あの亡霊だった。