ちいさな日溜まり
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「退いて下さい」
丁寧にいつもの口調で前を開けるように言うジェイド。体が痛くて動かせない私は視線だけを親方たちの方に向ける。見た感じからは退いてくれる気配など微塵もない。
「なまえを置いていったらいいぜ」
地面を指さす親方。それはもう一度地面に寝かせて私に暴力を振ると言うこと。
「ってかてめぇはコイツの何なんだ?」
「孤児だろコイツ?身内なんていないはずだぜ」
両親を亡くした数年前から街の郊外に住んでいることをみんな知っている。いつも一人のはずの私を助ける彼は何もなのかと疑問を持つのは仕方がない。
「もう一度言います。退いて下さい」
少しだけ声音を低くするジェイド。私との関係こそは何も言わなかった……というより言えるわけもない。まさか願い事を叶える妖精とそのご主人様なんて。
「言ったろ。ソイツを置いていったらなって」
ジェイドの態度にイライラし始めた親方は近くにあった空のドラム缶を蹴る。ガンっと大きな音が鳴り響く。
「ジェ、イド……私、のことは……」
「直ぐ帰れますからもう少し待ってて下さいね」
私のことはもういいから……そう言おうとしたけどジェイドはにっこりと微笑んで言葉を遮る。やんわりと優しく言っているのに物言わせない雰囲気を醸し出していてそれ以上は何も言えなかった。
「俺たちを無視してんじゃねぇよ!」
堪忍袋の尾が切れたとはこの事を言うのか、親方はもう一度、先程より力強くドラム缶を蹴る。その音に私は身を竦めてしまう。
「退いて下さい」
三度目のこの言葉を発した声は低く、怒気が籠もっていた。側で聞いている私ですら声だけで恐怖を覚えた。表情は光の具合からちょっと窺えないから分からないけど、横目で見た親方たちの顔色は真っ青になっていた。
「行きますよ」
コツコツと足を進めれば道を塞いでいた親方たちは左右へと退いて道を開ける。みんなの間をジェイドは通り抜けふと足を止める。
「ああ、今日限りで辞めさせてもらいますね。こんな所になまえを働かせられません」
今日一番の笑みを浮かべてこの場を後にした。家に帰るまでの間、一言も喋らずに。私の怪我を考慮してなんだろうけど。