あなたに会えない寂しさ、会えた喜び
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「あ~やってもやっても終わんないよう」
山積になっている書類を見て溜息を付く。誰がこんなに溜め込んだのだか…それは言わずとも知れた人なんだけど。とりあえず手当たり次第に手をつけてもキリがないと思い山積の書類を提出期限の短い順に仕分けていく。そうすれば少しはマシになるだろうと。
「誰か手伝ってくれないかなぁ…」
ぽつりと誰もいない部屋で一人呟く。この部屋の主はいない…先日崩落に巻き込まれて亡くなったと聞かされた。その時は信じられなくて上官が何を言っても耳には入らず、後になって悲鳴を上げながら夜通し泣いた。どうしても信じたくなくて信じられなくて…数ヶ月前に任務でしばらくグランコクマを空けると聞いたときは出発の前の日にいっぱい甘えさせてもらって、別れる前に「すぐに戻りますよ」と言ってキスしてくれた。それなのに…あの人は帰ってこない。一人ここで仕事をしていると陛下が心配してくれてか何度も足を運んでくれる。
「あいつは死んでない。俺はあいつを信じてる」
と来るたびにそう言ってくれる。気休めにでもと言ってくれているんだろうなと思い「はい」といつも答える。
会いたい。会いたい。
会って抱きしめてもらいたい。あの温かい腕の中に閉じ込めてもらいたい。
なのに、こんなに寂しいのに彼はいない。
「会いたいよう…ジェイド。会いたいよう」
彼に告白されて付き合いだしてから二人きりのときとプライベートのときはそう呼ぶように言われた。意外と独占欲が強くて、私に言い寄ってくる人や遊びに来て私に抱きつく陛下に絶対零度の笑みを浮かべて脅かしていた頃が懐かしく感じる。
「…ジェイド――ジェイドぉ…死んじゃやだよぅ」
「縁起でもないことを言わないで下さい」
流れ出そうになる涙を堪えて叫ぶように助けを求めるように声を上げれば、聞きなれた声が返ってきた。その声に目を見開いたまま声のした扉のほうを見る。
「ジェ…イ、ド?」
搾り出すように声を出す。信じられなくて、何度も瞬きをする。
「はい。ただいま帰りました…随分待たせましたね、なまえ」
別れたあの日に見た笑顔のまま私の名を呼ぶ。
私は手にしていた書類を投げ出して彼に、ジェイドに抱きつく。抱きついた私を優しく受け止めてくれて、もう一度「ただいま、なまえ」と言ってくれた。
「…うぅ、生きてたんだね。死んだって言われて、私。私…」
抱きしめてくれる彼の体温を肌で感じて、本当に生きていたということを実感させてくれた。その温かさにこらえていた涙が溢れ出す。
「すみません、すぐに帰ってこれなくて。本当はすぐにでも帰ってきたかったのですが…」
「いいの!生きていてくたことだけで…いいの」
申し訳なさそうに私の頭を撫でなでるジェイドの言葉を遮るように叫ぶ。
「…ごめんなさい」
「なまえ?」
ジェイドの胸に顔を埋めたまま私は謝罪の言葉を口にする。突然の言葉に私の頭を撫でる手を止める。
「私…信じてなかった。私を置いて死んじゃったって思ってた。陛下は絶対に生きてるって信じてたのに…私信じられなかった」
ぼろぼろと涙を流しながら私はジェイドを見上げる。信じたい…でも崩落に巻き込まれたのなら生きてはいないと思い込んでいた。ううん、彼なら絶対に生きていると信じられなかったんだ。
「ごめんなさい…ごめんなさい」
ジェイドの顔を見ていることが出来ず両手で自分の顔を覆う。情けなくて、申し訳なくて、辛くて顔を上げてられず顔を隠したまま俯いてしまう。
「なまえ、顔を上げなさい」
ジェイドが私の両手を掴む。恐る恐る顔を上げれば、ジェイドは優しく微笑んでいた。
「ジェイド?」
「私はあなたに会う為に帰ってきたのです…だから、笑ってください」
そう言って流れ出る涙を拭ってくれる。泣き顔は見たくありませんよぅ、と少しおどけたように言葉を続けた。
「ジェイド、おかえりなさい」
「ただいま、なまえ」
そっと触れるだけのキスを交わす。互いに顔を合わせてもう一度キスをする。
これからはあなただけを信じて生きます。
●元拍手文です。前のが原作前で今回のが崩落後の話です。