空から君へ
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「助けてやれなかったな……」
世話になった者を助けられなかった。悲しいとは思わなかった。だが、暗殺などと言うものには怒りは覚えた。イルファンからカラハ・シャールへと向かう途中で行き倒れそうになったところを助けでくれたこの街の領主、クレインは私の目の前で、死んだ。
「何の恩も、返せなかったな……」
「なまえ」
彼へと放たれた矢に気付いた。手を伸ばしたけど、手のひらを貫通して矢はクレインの心臓に刺さった。ジュードが手当をしたけどそれは無駄なことで……死んでしまった。
「泣いていいんだ」
泣く?泣く?ジュードとローエンが項垂れる様子を少し離れたところから見てると視界を遮るように頭を抱えられる。目の前はアルヴィンのコートの袖。段々と、己の意と反して目頭が熱くなる。何かが零れ落ちる。それが涙と気付いたのは、小さく声を漏らしたと同時にアルヴィンに 抱きしめられたときだった。
「そうか……私は、悲しいのだな……」
さっきまでは悲しみなんてないと思っていた。怒りの方が強かった。でも本当は泣きたかったようだ。ただ黙って涙を流せば、アルヴィンも黙って抱きしめてくれていた。
「……ミラたちが浚われた」
俺らは助けに行く。何も言わずにいるとアルヴィンたち三人は出て行った。ドロッセルも恩人なのだが行く気にはなれず、彼らが大怪我覆ったミラを連れて帰ってくるまで、クレインの側にいた。
「行くのか?」
「……ああ」
ジュードは足が動かなくなったミラを故郷の父親に見せるためにル・ロンドに行くという。エリーゼはドロッセルとローエンに任せると。アルヴィンは、無謀なミラにはついていけないと依頼を破棄したという。
「アルヴィン」
宿屋の前。もう会うことはないだろうと感じた。でもまた会うような気がした。
「私は、親に捨てられた。だから元から人を大して信じない。君みたいな嘘吐きな悪党でなくともな」
五才で捨てられた私は人に期待はしない。ただクレインやドロッセルのように嘘のない者も知っている。普通と言われる人より、感情が乏しいだけ。
「それでも、君を嫌いとは思わないよ」
好感を持てる持てないくらいの感情はある。アルヴィンは何も言わない。何か言われるのを期待したわけではないが。
「君には君の。私には私の生き方がある。また会えたらいいな」
では、さらばだ。軽く手を振って出口へと向かう。また迷子になっては行けない。助けてくれる者はいない。ちゃんと行くとするかな。