日溜まりのような日々
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「えーっ!明日出て行っちゃうの!?」
「随分急ですね」
日が暮れる頃、ドロッセルとローエンは帰ってきた。何やら荷物を抱えて。クレイン曰く、ドロッセルは極度の買い物症らしい。外に出る度に何か一つは買ってくるらしい。金のある者の考えはよくわからぬが、需要と供給が上手く行っているのならばそれは良いのだろうが。
「思い立ったが吉日だ。出てくと言っても一ヶ月二ヶ月に一度は戻って来る」
クレインはともかく、ドロッセルを説得せねば街を出れそうにないな。
「準備は大丈夫なのですか?」
「ああ。元々あのバッグ一つだ。普段から使い終えたらバッグにしまう習性を付けている」
現在、時計は九時を指している。食事を終え、就寝前のお茶を飲んでいるときに彼女らに伝えた。だから急だと感じたのだろう。
「片付けは幼い頃から習慣づけるように心掛けていたからな」
シェリダンの大人は作業に集中していると何処に物を置いたのか忘れる。それを見て教訓にしている。そのおかげか出掛けるのに慌てる必要がなく楽と言えば楽になった。
「でも寂しいわ」
「すまんな」
この世界に来ての新たな目的はリーゼ・マクシアを知ること。そのために書物を漁るだけではなく、実際に見て聞くことにした。まあ、宿無しなのだから旅する他はないのだがな。まさか命の恩人から部屋を与えられるとは思わなかったが。
「それに旅をしてればもう一人の命の恩人に会えるかも知れぬしな」
「命の恩人……って、リーゼ・マクシアに来たときに助けてくれたって人のこと?」
オールドラントからリーゼ・マクシアへと来た際に空から降ってきたこともそれを助けてくれた者がいることは話している。それが傭兵だと言うこと以外は話していない。強いて言うならば、彼のことを話さない方がいい、と直感がそう言ってあえて言わなかった。
「まあ、何もしないでいても会いそうだがな」
理屈はわからんが予感はそう言っている。下手な計算より当たるからろくでもない。
「フィリンさん。後ほど時間がよろしければ、霊勢の変化でも方角を見失わない方法をお教えしますよ」
「それは助かる。また行き倒れになったら適わんからな」
同じことを繰り返してはいかんからな。霊勢は面白いが旅するには厄介な代物だ。その辺りオールドラントと違いすぎて未だ慣れない。いや、違うという認識はしている。それで方向やら時間感覚が変わると言うことを頭で理解してるつもりでいて理解しきれていない。ああ、やっぱり慣れてないだけか。
「オールドラントの空は違うんだっけ?」
「夜域など空の変化がない代わりに音譜帯が見える」
六つの音素(フォニム)の層がオールドラントを包み込んでいるのが浮いて見えるのだ。これは世界の何処にいても見える。簡単な説明でわかったのか相槌を打っただけなのか、コクコクと頷くドロッセル。
「常に太陽か月が見えるから方向を見失うことはなかったよ」
改めて世界の違いを知ったよ。私の言葉に納得できないのかドロッセルは片頬を膨らませてこちらを見ていた。
「どうした?」
「一人で旅なんて危ないわ。やっぱり私たちと一緒にいない?」
納得ができない、というよりは不安を露わにする。クレインたちが通りかからなかったら飢え死にしていたというを聞かされたからそう思うのか。自分自身ではないというのに。
「すまないな。私は探求心を押さえることが出来ない。なに、一ヶ月二ヶ月などすぐだ」
まるで子供をあやすようにドロッセルの頭を撫でてやる。心配してくれるのは嬉しいと思う。それでも欲望は止まることを知らない。
「ドロッセル。フィリンを困らせてはいけない」
「わかってるわ。ただ心配なのよ」
「やれやれ、私はキミの浪費癖の方が心配だよ」
これも意地が悪いとわかってながらもついつい言ってしまう。軽く額を小突いてやると、もぅ…とまた頬を膨らませる。
「無理を言ってすまぬな。大した礼も出来んままで」
「いえ、またここに帰って下されば十分です」
結局ただ世話になっていただけなのに誰も嫌な顔をしない。街を守る兵士や街の住民たちもよくしてくれた。クレインという人徳がそうさせてるのだろう。
「存外、すぐに戻ってくるかも知れぬな」
日付が変わるまで夜の茶会は続いた。
((ところでキミらは私を寝かせる気があるかい?))
((あれ?もうこんな時間!?))
((す、すみません))