その責を誰に問うか
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「ジュード、何か気がかりなのか?」
シャン・ドゥに到着するとおもむろにミラがジュードに声を掛ける。私との会話の件をずっと考えていたのだろう。表情が堅いままだ。
「ジャオの話を聞いてから様子が変だぞ?」
「うん……」
まあ、話すなとは言ったが気にするなとは言わなかったし、気にするなというのも無理がある。そこにこちらへと走ってくる人物が一人。私としてはタイミングがいい人物だった。
「犯人を追って王の狩り場へ行ったと聞いて、心配していたのよ」
私たちの姿を見て安堵の息を吐くイスラ。また一つ、嘘を重ねるか。
「偶然とはいえ、あなたたちを巻き込んでしまってごめんなさい」
「イスラさん…それウソですよね?」
謝罪の言葉を口にするイスラにジュードは真っ直ぐと、睨みつけるように彼女を見る。それを聞いたミラたちはジュードに視線を向ける。
「な、何?私が心配したら変かしら?」
「イスラさんが僕達と知り合ったのは、偶然じゃない」
「偶然を装った必然……というやつだな」
ジュードの言葉を続けるように私が口を挟むと今度は私へと視線を向ける。イスラも段々と顔色を悪くしながらこちらを見ている。まあ、私の場合最初から彼女に疑いの眼差しを向けていたから警戒されていたがな。
「決勝を知らせる鐘が鳴ったとき、この街の人に言われました。この時期によその人間が集まっていたら、それは闘技大会の参加者か観客しかいないって」
ジュードの説明を聞いてイスラは自身の失言を思い出したようで、小さく声を上げた。
「そういうことか。私達がイスラに助けられたあの時だな」
そう、彼女は私達に「街に何しに?」と訊ねたのだ。余所者とわかっていながら訊ねた時点で彼女は偽装を失敗したのだ。
「そしてタイミングが良過ぎたな」
私達に近付き声を掛け、顔見知りになる。一度会話をすれば余所者である私達にとって彼女はこの街での知り合いになる。
「きっと言わないよね、あんなこと…僕達に近付くように言われたんでしょアルクノアに…」
「イスラさん…ウソだよね…?」
彼女のことを尊敬の眼差しで見ていたレイアとしては信じ堅いだろう。だが、それが真実だ。
「あの人たち…ばれないから…平気だって言ったのに…でも私だって、あの人たちに…」
「脅されてたんだよね、弱みがあったから」
孤児の子供を研究所へと売る。親がいない子供が生活をある程度保証されるが、結局は実験の材料扱いだ。けしていいものではない。ある種犯罪だと言われればそれまでだ。
「…ユルゲンスにバラされたいのかって…この子には済まないと思ってる。でも、あの時は私だって…!」
彼女は自身しか見えていない。謝罪のような言葉は出ているが最終的には自分の幸せを最優先しているのだから。実にくだらない。彼女には何の興味が湧かない。
「私は…幸せになりたいだけなの…お願い…彼には言わないで…ください」
過去を知らぬ自分を愛してくれる彼が離れていくのが怖い。だから知られたくない。
「己を偽ってまで愛に縋るのはなんとも哀れなものだな」
「ふむ。人間の愛というのは難解だな。私には理解できそうにない」
人間である私にも理解できないのだが。これはそういう経験を持つ者にしかわからぬということか。私が抱いたものとの違いが、私にはわからない。感情とは如何に愚かで難しいものか。
「どうするかはエリーゼ。お前が決めるといい」
「どうして私なんですか…?」
イスラへの許諾の判断をエリーゼへと委ねる。それを与えられたエリーゼはミラを睨みつけながら何故自分かと問う。
「私達よりその権利があるだろう」
「今さら、私が償えることなんてないけど…お願いします…」
顔面蒼白のイスラがエリーゼに懇願するが、エリーゼの瞳は冷え切ったものだった。
「どうでも…いいです」
「どーせエリーゼが一人ぼっちなのは変わらないんだからー」
許す気も何もないと背を向けるエリーゼ。それを見たイスラは黙ってゆっくりと立ち上がり、覚束ない足取りで去っていった。
「どうした?」
「イスラさん、エリーゼに何も償えないって言ってたけど…本当に何かしよとしたのかな…出来ることないのかな」
ジュードはその場に立ち止まったまま動かず、アルヴィンが声を掛ける。イスラの去っていった方向を見つめながら呟く。その答えはイスラにしか出せない……ミラの言葉に誰も返すことはなかった。
((人の心とは何と脆くて醜いものか))