見え始める闇
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「すまんが、ここは通行止めだ」
尋常ならぬ様子で闘技場から街へと戻る渡し舟へと走ってきたアルクノアを見据える。止められると思っていなかったのか彼らは足を止め、焦った様子を見せた。
「ミラのほうはどうなったが知らぬが、その手にあるティポを返してもらおう」
ミラの命を狙っていたかと思ったが、本命はティポだったか。でなければ、返せと言った後に後ろ手に隠しはしないだろう。
「それはエリーゼの、私たちの大切な友達だ。キミらが持つには相応しくない」
手に鎚を召還し、巨大化させる。音素(フォニム)を知らぬ彼らの表情が驚愕に満ちる。
「行かせはせん!」
鎚を連中へと振るう。狙うはティポを持つ男。残りの連中に狙われるのは承知の上で攻撃を仕掛ける。連中は黒匣を取り出し応戦してくる。
「死ねっ!」
間合い的には避けれる距離ではない。が、いくら私とて何の策なしに挑みなどしない。すぐさま防御譜陣を展開しその攻撃を防ぐ。そして譜術で向こうの動きを止めようとしたときだった。
「唸れ烈風!大気の刃よ……ぐっ!?」
痛烈な痛みが腹部に走った。地に膝をつき、反射的に痛む腹部へと手を置く。生暖かい湿ったそれが手に付着する。見なくてもそれが何なのかわかるが、傷の具合を見るために視線を向ける。思ったほどの傷ではないが、出血は多く見る見るうちにシャツを赤く染めていく。
「……何処かに、もう一人隠れていたか」
実行犯は目の前の二人だと思っていたが、まさかまだいたとは。見つかる恐れがあるというのに。しかしそれを考慮しなかった私の考えが浅はかだったという事か。
「い、今のうちに逃げるぞ!」
「ええっ!」
動けぬ私を見て連中は渡し舟へと乗って逃げた。立ち上がろうにも激痛が走り、出血のせいか少々目も眩む。
「フィリンっ!」
「け、怪我をしたんですか!?」
連中が逃げていった方を睨みつけていれば、そこにアルヴィンとエリーゼが現れた。私の様子を見てエリーゼが悲鳴を上げ、アルヴィンは表情を歪めた。
「私のことはよい!早く連中を追え!」
今なら間に合う!と去っていった方を指さす。時間的にも去って間もない。アルヴィンならば間に合うだろう。
「そんなお前を置いていけるか!」
「そうです!」
「すぐにジュードたちが来る!」
それよりもティポを取り戻せ。と強い口調で言えばアルヴィンとエリーゼは黙り顔を見合わせる。
「…わかった。そこを動くなよ」
「動こうにも動けんよ。エリーゼも早く行け」
「は、はい」
私の様子を伺いながらも二人は渡し舟に乗り込む。それを見送って、私は大きく息を吐いた。ここまでの大怪我をしたことはそうもない。痛みからか額からも脂汗が滴り落ちる。
「フィリンっ!」
「どうした……怪我してる!」
「お二方、すぐに治療を!」
うずくまる私へと駆け寄るジュードたち。押さえる腹部を見て表情を一変させる。そしてジュードとレイアが私に治癒術を施す。
「アルヴィンとエリーゼはどうした?」
「連中を追わせたよ。すまんな、奴らを止められんかった」
もしもの事を考え、ここで待ち受けていたというのに返り討ちにあうとは、何とも情けない。
「もう一人何処かに隠れたいたようだ」
「そいつにやらたということか」
情けないことにそういことだ、と肩を竦める。
「情けなくないよ!こんな怪我までして……」
怪我を負ったのは自分ではないというのに、辛そうな表情をするジュード。全く、アルヴィンの気持ちもわからんでもないな。
「私たちも追うとしよう。フィリン、大丈夫か?」
「無論だ」
傷はジュードとレイアに治してもらった。軽く体を捻っても痛みはない。巨大化させていた鎚を縮小させ空間へと消す。
「急いで後を追おう」
渡し舟の乗り場へと急ぐ。先に行ったのがアルヴィンとエリーゼだ。不安がないと言えば嘘になる。
「すまなかったな」
「さすがにヒヤッとしましたよ」
ああ言っておきながら怪我をし逃がしてしまうなど失態を犯してしまった。礼をするつもりが更に貸しを作ってしまった。
「あまり無理はなさらないで下さいね」
「それは無理な相談だな」
私の気が済まない。と言えばローエンは仕方ないと言った風に肩を竦め息を吐いた。
((自分にも奴らにも憤りを覚える))