見え始める闇
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「おはようございます」
まだ夜が明けて間もない。そんな朝早くだというのに彼はロビーにいた。いや、私がこの時間に起きてくるだろうと予想していたのだろう。
「ああ、おはよう。キミはいつもタイミングがいい」
だが丁度いい。他の誰もいないのであれば。ただ気になるのは私より先にミラの姿が見当たらなかったことだ。
「話の前にミラを見なかったか?私が起きたときにはすでにいなかったのだが」
「いえ。私も今し方降りてきましたが見かけておりません」
彼女のことだから心配はいらぬと思うが。一人で行こうともしないだろう。彼女自身、わかっているはず。
「まあ、よい。実はな……」
これまでに感じた違和感。どうも拭えぬ不安。その不安の一つが当たってしまった。そしてどうも気になって仕方ない彼女。他の者には迂闊に言えぬ相談事にローエンは黙って聞いていた。
「私の思い過ごしならばそれでよい。だが、」
気になる。リーゼ・マクシアに来てから私の感じる不安は見事に的中する。もうあのような場面は見たくないというのに、現実という物は非情なものだ。
「……そうですね。注意しておくに越したことはないでしょう」
そうだな、と頷く。何も無ければそれでよし。
「すまんな」
「お気になさらず。私も少々気になっていましたし」
この街に来てから不穏な偶然が重なりすぎている。それはミラも思っているだろう。今、宿にいないのもその一つかも知れない。
「さてと、そろそろジュードたちも起きてくるだろう」
下手に話していれば彼らにも不安を植え付けてしまう。ただでさえ昨日、あんな場面を見てしまったのだ。一晩で気を落ち着かせろと言うのも酷なものだ。
「あ、フィリン!ローエン」
「ミラ知らない?」
「おはよう。見かけていないが出掛けたのだろう」
いないのであればそれしかあるまい。と言えば、あまり納得していないというか不安げな表情を浮かべる。
「ならば探しに行くか?」
「うん」
逆に昨日の今日だから心配なのだろう。そう促すとジュードたちは頷いた。ミラを捜すために宿の外へ出ると、もはや何かあるとしか思えぬ再会をする。
「あ、イスラさん」
彼女の名前を呼びレイアが駆け寄る。そういえばレイアはイスラに好意を持ったようだったな。側に寄った彼女に、おはようと返す。
「昨日は大変だったわね。でも、あなたたちは運がいいわ」
「は、はあ…でも、たくさんの人が亡くなったから…」
やはり、と思ってしまう。彼女の言動がおかしい。さすがにこれにはジュードたちも表情を変える。確かにあの場にいて生き残ったのは私たちだけだ。だがそれを運がいいと言う。
「そ、そうよね。失言だったわ…ごめんなさい」
ただこれだけのことで確信付けたくはないが、私の中から疑惑の対象から消えない。思わず考えに耽ていると、エリーゼがイスラにミラを見かけてないかと訊ねていた。が、どうやら見ていないらしい。
「…あなた、前にどこかで…」
エリーゼの顔を見て小さく首を傾げる。何かを思い出そうとしているように見える。
「イスラさん、ひょっとしてエリーゼさんをご存じなのですか?」
「エリーゼ…?!」
ローエンからその名を聞いて驚愕に満ちた表情を浮かべる。顔色も一気に悪くなる。
「い、いえ、違うのよ。その…私、ちょっと用事があるから、これで失礼するわ」
まるで逃げ出すかのように走り去るイスラ。確実に何か知っている。ただ昨日の騒ぎとは関係はなさそうだが。
「イスラさん、どうしたんだろう?」
豹変したイスラが去っていった方を見てジュードたちも首を傾げる。しかしこれで確定したことがある。イスラは何かを隠している。それも一つではない。少なくても昨日の事件のことも何か知っているはずだ。下手すると首謀者の一人かもしれない。そしてエリーゼのこと。ジャオが口を開かない以上、エリーゼのことを知ってる者は限られるだろう。あれだけ過敏に反応したのだ知らぬは私には通じない。
「フィリン。置いてっちゃうよ?」
「ふむ」
再び思考の淵へと潜っていれば、皆は先へと進んでいた。歩く足を早め、ローエンの隣へと着く。
「気になることでも?」
「それはキミもだろう?まあ、同じ事だろうが」
頭が切れるローエンのことだ。多少なりとも疑問は抱いているだろう。それはともかくと、私たちはミラを捜しに街の奥へと足を進めた。