それを忌み嫌う
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「フィリン!心配したよ!」
宿に戻るとアルヴィン以外全員が揃っていた。私が部屋に入るや否や、真っ先に声を上げたのはジュード。
「すまんな」
軽く謝罪をして空いているソファーへと座る。するとローエンがお茶を入れてくれ私へと手渡す。屋敷にいたときの癖なのか、ありがとうと礼を述べて一口啜る。
「何をしてた?」
「台所を調べてきた。毒の入った鍋とその毒は見つけたが、人はいなかった」
胸の前で腕を組んでこちらを見るミラ。私の言葉にレイアとエリーゼは首を傾げる。
「すでに逃げた後と言うことか」
「恐らくな。特定の誰かを狙うためだけの無差別殺人だと私は考えている」
確証はないが、わざわざあの場を選んだ意味がそれしか浮かばない。冷静に答える私に対して年少組二人が小さく悲鳴を上げる。
「……たぶん、私だろう」
「黒匣を、壊してるから?」
眉根を寄せ、表情を一段と険しくなるミラ。それにジュードが躊躇いがちに口にする。
「ふむ。そうか……」
それなら色々辻褄が合うか。一つを除いては。それは、後で確認するとしよう。
「少々疲れたな。私はひと足先に休ませてもらうよ」
考えを一度纏めた方がいいだろう。ローエンに話すのはそれからでも遅くはあるまい。カップのお茶を飲み干して、立ち上がる。ではな、と軽く手を挙げて部屋を後にする。だから彼らのこの後の会話を知らない。
「……大丈夫、かな?」
「さっきのフィリン。ちょっと怖かったもんね」
フィリンが出ていったのを見送って僕たちはさっきのことを思い出す。食事に毒が盛られ、悔しそうに激怒して壁を殴ったときは驚いた。あんなに血が出るくらい力強く殴るくらい、怒ってた。
「フィリンさんは暗殺や毒殺など卑怯な手が嫌いなのでしょう」
「クレインさんのときも、そうだったね」
僕たちに協力してくれようと手を差し伸べてくれたクレインさんが目の前で死んだときも、フィリンは静かに怒ってた。さっき程じゃないにしても、あの時僕は彼女が怖いと感じた。
「わたし、あんなフィリン初めて見たから……びっくりしちゃった」
「……私も、です」
普段のフィリンは真面目な顔をして変なことを言うけど、正論も言う。観察力や洞察力もすごくて、何でも知っていて異世界から来たとは思えない。知識だけじゃなくて戦う力だって持っている。けど、感情はそんなに豊富に表さない。笑うけど基本表情は崩さないし。僕と年が変わらないのにすごく大人に見えて。
「フィリン君。大丈夫かなぁ?」
「フィリンさんなら大丈夫ですよ。一晩立てば元通りです」
「……なんか違うような」
シュンとするティポを慰めてるんだろうけど、ううん、落ち着かせてくれてるんだ。あんな事が起きたばかりで僕たちもまだ動揺してる。医学生なのに僕は誰も助けてあげられなかった。
「ジュードさんも気に病む必要はありません」
「あれは仕方なかった。誰も気づかなかったのだからな」
むろん私も、口にする寸前までわからなかった。とミラは悔しそうに顔を歪める。本当にミラを狙ったのなら、一番悔しいのはミラかも知れない。ミラは少し変わった。少しだけど、出会った頃なら自分の使命のためなら多少の犠牲は仕方ないって思ってたかもしれないし。
「しかし、アルクノアの連中も見境なしとは思わなかった………のに」
最後の言葉はよく聞き取れなかった。それに対してローエンはそうですね、と答える。
「にしたってやりすぎだよ!フィリンじゃなくたって怒るよ!」
腹が立ってきた!と今頃怒りを露わにするレイア。空回りするといけないから落ち着いて欲しいんだけど。
「決勝、どうなるんでしょうか?」
「うん。なくなるとワイバーンが借りれなくなっちゃうね」
「明日になればわかるでしょう」
今は待つしかありません。ゆっくりと休みましょう。静かに言うローエンの言葉に頷く。今ここで話していてもわからないものはわからないし。ワイバーンに関しては再度交渉してみればいい。ユルゲンスさんは悪い人じゃないみたいだし。
「みんなも今日は休もっか」
「そうだね」
なんだかんだと連戦で疲れている。早々と休もうという提案に誰も反対はしなかった。
((……大丈夫。大丈夫))