それを忌み嫌う
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「……んっ?」
席について間もなく食事が運ばれてきた。その食事をスプーンで掬ったときにふと違和感を感じた。
「いかん!」
「食事に手をつけるな!」
私とミラが同時に席を立ち食事を口にしようとする手を止めさせる。私たちの声にジュードたちは驚いてスプーンを落とす。周りの者もこちらへと視線を向けるが、皆呻きはじめてそのままその場に倒れ込む。
「……ちっ」
すぐに駆け寄り脈を計るがすでに事切れていた。即効性ということか。こんな形で不安が的中するとは……甘かった。もう少し用心するべきだった。街に入ってからそう感じさせることが多々あったというのに。己の不甲斐なさに嫌悪する。そしてこの行為をした者に殺意すら覚える。
「な、何だ……これは…」
「わずかですが、この独特な木の実のような臭いはメデイシニア……間違いありません。水性の毒です」
食事の臭いを嗅いだローエンが表情を険しくする。それを聞いて全員の顔色が悪くなる。
「みんなの食事に盛られてたってこと?!」
「まさか決勝の相手が勝とうとして……」
「いいや、違うね……ゲスが、ついに見境なくなってきやがった……!」
青ざめた表情のジュードたち。アルヴィンは珍しく怒りを露わにしていた。
「フィリンさん?」
彼らの会話に加わることなく、すでに冷たくなった被害者を見下ろす。そんな私にローエンが声を掛けるが返事はしない。その代わりに全力で壁に拳をぶつける。手に痛みが走り、レイアとエリーゼの悲鳴が聞こえたがそんなものもどうでもいい。
「何やってるの!」
ジュードが慌てて私の手を取り治癒術を施す。血も出ていたのか、袖口に少しだけ赤いものが付着していた。壁を見るとうっすらと血の跡が。建物の管理者には申し訳ないことをしたな。
「どうしたの?フィリンらしくないよ?」
「……すまんな……この最も卑怯な手が嫌いでな……」
それだけではない。この不安を口にしたところで何かが変わったとは思えんが、それでもせめてローエンにだけにでも口にしておくべきだった。さすれば多少なりとも注意してみれていたはずだ。
「今日はさすがに中止になるだろう。君達は宿に戻って休んでくれ」
大会本部へと確認しに行ったらしいユルゲンスが言う。確かに、これだけの人間が一度に毒殺されたのだ、こんな状況ですぐに決勝戦をやれと言われても出来るわけもない。それに被害にあった部族や一般人の家族からのクレームもあるだろう。その対処に追われては今日は無理だろう。
「皆さん、ここにいても仕方ありません。宿に行きましょう」
「……そう、だね」
被害者の方は大会本部の者と街の警備兵に任せて私たちは部屋を後にする。が、私はすぐに足を止めた。
「フィリン君、どうかしたのー?」
「忘れ物、ですか…?」
足を止めある一室を見ていると私の前を歩いていたエリーゼとティポも足を止める。
「すぐ戻る。先に行っていてくれ」
「フィリン?!」
二人の制止は聞かず、そのままその部屋へと入る。私たちが席についてすぐに食事が出てきたというのに人が誰もいない。兵士らはまだ先ほどの食堂にいるのだろう。だがコックが一人もいないというのは気になる。人が来る前に調べてみるか。
「火はさすがに止めてあるか」
鍋からはまだ湯気が出ているが火は止めてある。脇の台を見れば何かをすりつぶしたようなものがあった。これがローエンの言っていたメデイシニアというものか。軽く臭いを嗅ぐ。先ほど感じた違和感はこれだったようだ。微かに感じに臭いが違和感の正体。
「……狙いは何だ?大量虐殺にしては、少々温い」
私なら戦っている最中を狙う。爆発物を投げ込めば一発だ。さっき亡くなった人間以上の人間を一度に殺せる。が、それをしなかったのは何故か。ある一定の人物だけを狙ったならば。その為だけのカモフラージュ。無差別ならば、か。
「一応、聞いてみるか」
これ以上ここにいては私が怪しまれるな。早々と後にして考えるのはあとだ。そして、今度は黙っている訳にはいくまい。それに相談しておいても損はあるまい。
「しかし……あやつは話さないだろうな」
私の呟きも溜息も誰に聞かれることもない。ただ流れるだけだった。足早にこの場を去り、ジュードたちの待つ宿へと向かう。少々取り乱してしまったから心配をかけてしまってるだろうしな。