それを忌み嫌う
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「よく休めたようだな」
一晩ゆっくり休み、身支度を終えてロビーへと降りるとユルゲンスがすでにいた。私たちに気づくと笑みを浮かべて軽く手を振っている。
「さっそく今日の予定だが、参加数の関係で本戦は今日一日ですべて行うことになりそうだ」
挨拶そこそこにユルゲンスが発した言葉に、皆の表情が変わる。
「今日だけですか。ずいぶんハードなんですね」
「何戦あるかは、今日発表の組み合わせ次第だ。鐘が鳴ったら闘技場まで来てくれ。それが大会開始の合図だ」
そう言ってユルゲンスは去っていった。鐘が鳴るまでは好きにしていろということか。しかしいつ鐘が鳴るのかわからないのならば下手なことは出来んな。
「さて、時間が出来たみたいだけど、どーするよ?」
ミラは広場を見て来るというとレイアはそれについて行くと。ジュードとエリーゼは観光。ローエンは二人と一緒に行くという。私はどうするかな。
「フィリンも、一緒に行きませんか?」
「そうだね。一緒に行こうよ」
「ふむ、そうだな。私も街を見て回りたい」
前回は一晩泊まってすぐに出てきてしまったからゆっくり見て回るにはちょうどいいのかもしれない。私も行くと言えばエリーゼもジュードも笑みを浮かべて喜んだ。
「という訳だローエン」
「はい」
宿を出たところで二手に分かれる。観光といっても特に何を見に行くと言うのはないからほぼ散歩に近い。が、今日が闘技大会だからか昨日より人が多くも見られる。
「エリーゼ、何か思い出した?」
街をほぼ一周し、川に架かった大きな橋に来たところでジュードがエリーゼに訊ねる。だがエリーゼもティポも覚えてはいないと首を横に振る。来たことがあると思ったのはハ・ミルへと向かう途中で通りかかっただけかもしれないな。
「そういえば、ティポはいつからエリーゼと一緒にいるの?」
何気ないジュードの質問。ジュードたちに出会うまではティポだけがエリーゼの友達だったという。そのティポといつから一緒にいるのか、何よりも一番重要なことだ。私もそれには気づかなかったな。
「忘れちゃったー。でも、エリーとは研究所から一緒だよー」
「え、研究所…?」
ティポから出た言葉に私もジュードもローエンも驚きを露わにする。まだ十二才の少女が研究所にいた。エリーゼの様子から見て、私のように学者や研究員としてではないだろう。
「ティポは…研究所の人が連れてきてくれたんです」
「ローエン、研究所って…」
さすがにア・ジュールのことはそこまで詳しくないのか、うーむ…と髭をさすりながら唸る。研究所といっても何の研究にエリーゼが関わっていたのかわかればいいのだが、エリーゼ自体あまりよく覚えてないらしいしな。
「ローエン君は、そうやつてよくヒゲをさわってるよねー?」
ローエンの仕草を見てティポが反応する。ティポに言われ、ジュードとエリーゼもローエンへと視線を移す。
「こうしていると落ち着いて、考えがまとまるもので。どうですかティポさん?二人とも」
「えっと…僕は…」
腰を屈め、髭を触りやすくさせるようにか顔も少し前へ出す。
「ほら、遠慮なさらずに。ジジイのヒゲは嫌いですか?」
「ななな、なんで僕なの!?フィリンは?」
「私はカラハ・シャールにいたときに触っておるからな」
気にするな。と笑ってみせる。私は触らぬと判断したのか三人は恐る恐るだがローエンの髭を触る。
「……」
髭を触るとエリーゼが表情を歪めて黙り込む。彼女の様子のおかしさに私たちは慌ててしまう。
「エリーゼ、どうしたの?ヒゲが気持ち悪かった?」
「おかしいですね。手入れは怠ってはいませんが…」
「……うぅ…うぅっ……」
仕舞いには泣き出してしまうエリーゼ。どうしたらいいのかわからず余計に慌ててしまう。まさか髭を触って泣くとは思いもしなった。
「……お父さん……」
彼女の父親に髭があったかはわからなかったが、父親と母親に会いたいと泣く。家族のことを思いだしたかと問うがエリーゼは首を横に振った。この街にエリーゼを知るかもしれないからミラたちと別れて探すかと問うとそれにも首を振る。友達と一緒がいいと。
「鐘が鳴ったな」
「闘技場に行こっか。歩ける、エリーゼ」
ちょうど鐘が鳴り響いた。これを聞いたミラたちも向かっているだろう。エリーゼのことはひとまず置いて私たちは闘技場へと足を向けた。