降り立った地へと
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「いざとなったら出ていこうと思っていたが、必要なかったな」
観客席から降りてきたユルゲンスらは驚きの表情のままだった。私たちがここまでやるとは思ってはいなかったようだな。まあ、向こうからしたら何処の馬の骨とも知れん連中なのだからな。
「あったり前だよー!えっへん!」
「すまなかった。君を見くびっていた」
何故か偉そうにするティポにユルゲンスがそう言うと、ティポは僕だけー!?とショックを受ける。
「ははは。誰が見たってそうだよな」
「むー…私の友達、バカにしないでください」
ケラケラ笑うアルヴィン。そんなアルヴィンにエリーゼが頬を膨らませて怒る。わるいわるいとまた適当だが一応謝罪を入れる。
「だが、それだけ厳しい戦いなんだ。かつては部族間の優劣を決めるために、相手を殺すまで戦っていた大会だ」
険しい表情を見せるユルゲンス。相手を殺す、その言葉に皆が息を飲む。
「えーっ?!相手を殺すって…!」
「今は大丈夫。現ア・ジュール王がその制度を禁止にしたからね」
不安を口にすると、ユルゲンスは安心させるかのように笑みを浮かべる。
「ア・ジュール王いい人ー!」
伝統ある闘技大会のルールを改変した王、か。少々興味があるな。機会があるのなら会ってみたいものだな。ナハティガルとは違う王の器を見てみたいものだ。
「それじゃ、本戦は明日だ。宿を用意したから、ゆっくり休んでくれ」
軽く手を挙げてユルゲンス達は去っていった。私らも彼の言葉に甘えて、宿へと向かうことにした。ワイバーンの方が大まか目処が立ったからか、ここに着いたときよりは安堵の表情浮かべている。
「ああ、ところでアルヴィン」
「ん?なんだ?」
最後尾を二人並んで歩く。私は正面を見据えたままだが、彼はチラリとこちらに視線を向ける。
「母親の容態はどうだい?」
「――っ!?」
よからぬことを企むついでに母親の様子を見に行ったのだろう。前を歩くジュード達には聞こえぬ声で言えば、あからさまに動揺しこちらを見る。何のために小声で話してると思ってるのだか。
「……お前」
「別に気してもおかしくあるまい」
確かに彼女とは顔見知りでない。寝ている姿を見ただけで会話をしたわけではない。が、ただの病気には見えないからある種気になっていた。
「なんも……変わりねぇよ」
「そうか」
問いただしたところで何も言うまい。わかっていはいたのだがな。私も人の子と言うことか。
「一つ訊きたいのだが」
「一つ、だぞ」
念を押されたか。まあ、それでもよい。今は『とりあえず』訊いてみようと思っただけだからな。
「イスラ、という女性を知ってるか?」
「イスラ?知らねえなぁ」
思い出そうとしているのか空を仰ぐ。が知らぬと答える。これに関してもただ反応を見ようと思っただけなのだが、思った通り反応らしい反応はない……今は。
「そのイスラってのがどうかしたのか?」
「いや、別に」
ここで答えてやる義理はない。私の答えに納得がいかないのか小さく睨みつけてくる。私は答えてやるなど一言も言っていない。訊きたいことがあると言っただけだ。
「食えねぇな、相変わらず」
「キミが言うかい?」
人のことを棚に上げてよく言う。互いに互いのことは言えぬと言うことか。私らの関係と言えるのはそういうものなのだろうな。
「ふふふっ」
「なんだよ急に?」
つい可笑しくなってしまい笑い出してしまった。それを不快に思ったのか眉根を寄せている。
「いや、すまん。これはこれで良いと思ってな」
どうやら今の今まで引きずっていたようだ。だが、それだけではないというのを気づかせてくれたのがこの男だというのが納得は仕切れんがな。この土地がそう思わせたのか。
「意味わかんないですけど」
「そうだな……存外、キミのことは嫌いじゃないようだ」
落石の件はでは少々苛つかせられたが、気付かされるとくすぐったいものがあるな。
「何だよ、いきなり……」
「言葉のままだよ」
ひらひらと手を振って、前を歩くローエンの隣に着く。吹っ切れることは出来ぬが、それはそれでよい。私の心を読んだ訳ではないだろうが、ローエンは小さく微笑んだだけで何も問うことはなかった。
((感傷に浸るのも悪くはないな))