出会いと別れの街
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「食事も馳走になったな。さて、私は行くとしよう」
話も纏まったところだしな、と部屋から出ようとすると呼び止められた。
「何か問題があったか?」
「いえ、どちらへ行かれるつもりですか?」
クレイン、ドロッセル、ローエンがキョトンとした顔でこちらを見る。よく表情の変わる者たちだなと感心する。
「ふむ。宿を取りに行くだけだ。また明日来る」
荷物は全部先ほど目覚めた部屋へと置きっぱなし。当然金もバッグの中だから取りに行かねば宿には行けぬ。
「部屋はこの屋敷のをお使い下さい」
「そうよ。宿代が勿体ないわ」
私の答えに安堵したように息を吐いてそう提案するクレイン。ドロッセルもすぐさま同意してローエンに空いてる部屋の確認をする。さすれば先ほど使っていた部屋はいつでも使えるように支度していたと。どれだけ用意周到なのだか、と口にする前にローエンは急なお客様が来てもすぐ対応できるようにしておりますと。
「キミらもなかなかの物好きだな。ではお言葉に甘えることにしよう」
「良かったわ。じゃあ、早速フィリンのことを聞かせて」
「ドロッセル。フィリンさんはまだ体調が完全ではないんだ、明日にしなさい」
私の腕を取ってにこにこと笑うドロッセルを諫めるクレイン。ローエンはいつの間にか部屋にはいなかった。
「構わぬ。よく寝たし、美味しい食事も頂いた。話すくらいはどうということでもない」
体を動かすわけでもないのなら体力はさして使わない。それでドロッセルが満足するのなら良いのだろう。
「しかし妹の我が儘に付き合わせるなど…」
「妹とはそう言うものだろう?それに私は嫌なら嫌だとはっきり言うから安心しろ」
助け船でもだそうと思ったのか、しきりに止めようとするクレインに私はそう返す。幼なじみがそうだったわけではないが、街で見た妹というものは我が儘を言って甘えたがるのか多かった。というのが私の勝手な認識なのだがな。
「あちらにお茶の用意が出来ました」
「さすがだわ、ローエン」
嬉々として部屋を出るドロッセルに肩を落とすクレイン。
「よいではないか。さあ行くぞ」
キミも来るのだろう?と問えば、ええと歩き出す。たぶん彼が一番話を聞きたいのだろうしな。
「キミもなかなかそんな性格だな」
「どういう意味ですか?」
廊下を歩きながら隣のクレインに視線を向ける。自分ではわかってるのかわかってないのか小さく首を傾げる。
「存外、キミも人が良いようだ」
「そうですか」
一人掛けのソファーに腰を下ろし、クスリと笑う。まるで私を拾ってくれた街の者たちのようだ。口にした言葉に空気が固まった気がした。予想をしていなかったわけではないが、自分自身周りが思うように感情は抱いていない。
「私は生まれ持っての才能のせいで幼い頃に親に捨てられたのだよ」
誤解はするな。それを行かせる街に引き取られた。ただそれ以来、十年以上顔を合わせてないがな。別に親がいないからと言って不幸だとは思わぬ。周りに助けられて何の不自由なしにやってきたからな。
「キミら兄妹は私の幼なじみ兄妹に似てるよ」
だからなどこか安心を感じる。懐かしいと言えば懐かしい。街に残っている兄に対して、妹は世界を飛び回っている。あの世界のために。街を離れた私はなかなか会う機会はないが。
「フィリンさん。先ほど言っていた音素と言うものことを聞いても?」
「音素はこっちで言う精霊だと思えばいい。オールドラントでの力の源だ」
音素は生活だけではなく生き物全てに必要なもの。使い方を誤れば自らも音素乖離して消えてしまうほど。だがなくては生活できない。切っても切れないものだ。
「話で聞くよりも見た方が早いだろう」
席を立ち、少し離れたところへと行く。譜陣だけを展開させる。特にどの術を発動させるではなくどういったものかを見せるだけ。
「この譜陣に精霊の力は感じなかっただろう?」
すぐに譜陣を閉じ彼らの元へと戻る。さすがに驚かせすぎたのか、この数時間で展開についていけないかなのかまた驚きの表情を浮かべている。
「いきなり多くを知る必要はない」
時間はある。知りたいことがあるのであれば存分に説明しよう。それでよいだろう?
「しばらく世話になるぞ」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
差し出した手を取る。これもまた一つの出会いだった。
((私ことはフィリンと呼び捨てでいいぞ))
((……えっ、あ、はい))
((ふふ、お兄様ったら))