新たな旅立ちと
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「ミラさん、本当に行くのですか?」
わざわざル・ロンドまで見舞いへと来てくれたローエンとエリーゼに挨拶をしておこうと、レイアの家である宿屋までやってきた。朝の挨拶をそこそこにした後、ローエンが難しい表情で口を開いた。
「ああ。私には使命を果たす責任がある」
「責任…ですか。ミラさん、あなたは強く、そして気高い。それが私の古い傷痕をえぐるようです」
真っ直ぐに見つめハッキリと言いきったミラにローエンは小さく息を吐き目を伏せた。
「クレイン様にこの国を救ってほしいと託され、私は悩んでしまった。今の私にできることがあるだろうか。ナハティガルを止められるだろうかと……」
うっすらと開けた目は迷いで満ちていた。
「キミとナハティガルは古い知り合いのようだな」
「……友人です。とても古くからの」
確かローエンは指揮者という異名を持つラ・シュガルの軍師だったな。王と軍師……という関係以上に親友として仲が良かったのだろう。だからこそ、悩むのだろう。
「ローエン、私達と共に行かないか?」
どことなく重い空気の中、ミラが口を開いた。私でも驚くような、意外な一言。当の本人も目を開いて驚いている。
「決断に必要なのは時間や状況ではない。お前の意志だ。悩むのもいい。人間の一生は短い、時間は貴重なものだろう?ならば、悩みながらでも進んでみてはどうだ?」
ふむ。まだ彼女とは一月そこらしか一緒にはいないが、誰かのために何かを言うようなタイプではなかったはず。出会った当初から比べると、明らかに変わった、と言わざる得ないくらい。
「……ローエン、そうしてみたら?僕もローエンがいてくれたら心強いし」
「私もよいと思うぞ。キミには聞きたいことも色々あるしな」
屋敷で塞ぎ込むよりは外に出て考える方がよいのかもしれない。主の居なくなった屋敷に籠もれば、クレインのこともナハティガルのことも思い出してしまい自らを追い込みかねない。
「確かにシジイの時間はとても貴重。立ち止まってはもったいないですね」
ぜひ同行させて下さい。と頭を下げるローエン。
「わ、私も一緒に行きます…っ!」
「ダメだよ。エリーゼはドロッセルさんののところへ帰るんだ」
意を決したように一緒に行くと言ったエリーゼに皆が首を横に振る。以前はエリーゼを世話してくれる人を探すべく旅をしていたが今はドロッセルが面倒を見てくれている。わざわざ危険な旅をともにする必要はない。
「エリーゼさん。お嬢様にお伝えください。ローエンはイル・ファンに向かいますと」
「待て、ローエン」
エリーゼの視線に合わせてそう言ったローエンの肩に手を置く。
「エリーゼ。私たちが行く先は今まで以上に過酷な地だ。それでも来たいというのか?」
ガンダラ要塞の時より怖い思いをするだろう。最悪、死することになるかもしれない。その覚悟はあるかと問う。
「……行きます!私、みんなと一緒に行きたいです!」
「なら行こう」
皆の返事を待たずに私は頷きエリーゼの頭を撫でてやる。
「フィリン」
「このままだと勝手についてくる恐れがあるぞ?」
一人で危険を冒させるより、私らとともにいた方が安全だろう?と言えば、ジュードもミラもローエンも顔を見合わせて小さく笑い頷き返した。
「あ、ありがとうございます!」
「みんな、ありがとー!」
「では行くかな」
ロランド夫妻に挨拶をして宿を出る。そして海停への一本道を歩く。
「レイアの姿はないか……」
ル・ロンドを発つ前にレイアにも挨拶をと思ったのだが姿が見あたらない。
「この船に乗るの?これってア・ジュール行きだけど…これがローエンが言ってた考え」
「はい」
「ローエンが言うのだから間違いあるまい。明確な理由があるのだろう」
この中で誰よりも博識なローエンの考えならば、より確実にイル・ファンへと行けるのだろう。
「ジュード、お父さんと仲直りしないの?」
そろそろ船へと乗ろうかとするとジュードの母親がこちらへと近寄ってくる。
「必要ないよ…じゃあ、行ってくるね」
「お父さんはあなたが心配なのよ。わかってあげて」
頑固な父子を心配しているのだろう。ジュードとしては自分を認めてくれず何をしても否定され続けたせいか、母親の言葉に頷いたものの納得はしていないような表情だ。致し方ないと言うべきか、親の心子知らずと言うべきか。