出会いと別れの街
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「まずは単刀直入に言おう。私はリーゼ・マクシアの人間ではない」
他の世界からやってきた。この言葉はどれだけ衝撃を与えるものだろう。普通なら信じるわけもなく、理解できるものではない。だが私にはそれを証明する術がある。私自身が証拠なのだから。
「言っておくが嘘や冗談ではないぞ」
この状況でそんな事を言うほど愚かではない。何の意味もないことをやる趣味もない。
「方法とか目的も聞くな。寧ろ私が知りたいくらいだからな」
ここまでで質問は?と訊ね顔を見回せば三人は固まっていた。瞬きも忘れて口も開きっぱなしだ。ふむ、予想はしていたがどうしたものか。オブラートに包むにも包みようのない内容だからな。
「信じる気がないのなら話を止めるが?」
「いえ、続けて下さい」
こんな話を信じるわけがない。彼が信じただけでもありがたいと思うべきか。そう溜息を吐き掛けたとき、クレインは真っ直ぐにこちらを見て言った。
「こちらの世界にやってきたのは半月ほど前だ」
そこであの男、アルヴィンに助けられ、この世界のことを教えてもらいながら旅をしていた。文字の読み書きに世界の事情。生活に必要なこと。一生を暮らしていくつもりで教わりながら旅をしていた。そして、先日イル・ファンに着いたときに別れ、私は図書館に籠もり知識を得ていた。そろそろ次の街へと、イル・ファンを発ったのはいいが考え事をしているうちに方向を失い迷子になってクレインに助けられたところへと至った。
「今更ながらだが、私は人に迷惑を掛けっぱなしのようだ」
「それは不可抗力だったんじゃ?」
知らない世界に来ちゃったのはフィリンの意志じゃないでしょ?と問われ、それには頷く。迷子に関しては私の不注意なんだがな。
「何にせよ、だよ」
元の世界、オールドラントでもあまり変わらぬ。幼なじみや街の者たちにはいらん心配と迷惑をかけっぱなしだ。現在進行形でな。その意味はわからなかったらしく、クレインとドロッセルは顔を見合わせた。向こうでは私は行方不明になってるだろ?そう言えば理解したようだった。
「今後は如何されるのですか?」
話に割って入ってきたのは後ろで控えていたローエンだった。彼へと向き直り、当たり前だと言わんばかりに一言。
「変わらぬよ。ただ知識を求めるだけだ」
気が済んだら何処かに足を落ち着けて自分自身のための研究でもしようか。その時がいつ来るかわからぬが、今はただ足を進めるだけだ。
「まあ数日はここで滞在しようかと思う。それに…」
「それに?」
今度はクレインへと向き直る。自分に振られたことに驚いたのか、彼は少し首を傾げた。
「キミは私の命の恩人だ。その恩は返さねばならぬ。私に出来ることがあれば何でも言ってくれ」
恩を仇で返すつもりはない。ましてや行き倒れになってたところを水と食料を与えてくれたんだから尚更だ。とはいえ私に出来ることなどたかが知れてるのだが、何もせぬと言うのは気が引ける。ついでに言うならば金も大して持ち合わせていないからそれで片づけることも出来ぬ。
「気にしなくていいというのは無しだぞ」
「……そう言われましても」
困ったように口元に手を当てて考え込むクレイン。すると隣のドロッセルがパンッと手を叩き、私たちはそちらに顔を向けた。
「それならこういうのはどう?この街に滞在している間、私やお兄様の話し相手になって欲しいの」
屋敷の中にいても街を歩いてもみんな私たちをシャール家の者としか扱ってくれない。でもフィリンはそれを知ってもそのままでしょ?と嬉しそうに楽しそうに笑みを浮かべながらそう言った。
「ドロッセル。あまりフィリンさんを困らせるようなことを言ってはいけない」
「いや、構わぬよ」
思わず、くくくっと笑う私をギョッとした顔でクレインが見たがとりあえず気にしない。
「なかなか面白いな。まあ、私は畏まるとか苦手でな。キミらがそれでいいのなら私は一向に構わない」
私にそれが務まるかはわからぬがな。しかしそれを決めるのは私ではない。
「私はその方が嬉しいわ!お兄様もそうでしょ?」
「ドロッセル……そうですね。お願いできますか?」
完全にドロッセルがその気だからなのかどうかは私にはわからぬが、クレインはこちらを向いて訊ねる。私は構わぬと言ったぞと返せば、ドロッセルは手を叩いて喜び、クレインはお願いしますと頭を下げた。