新たな旅立ちと
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「さすがにこの時間は申し訳なかったかな……」
借りた本を片手に治療院へと訪れた。人の家に行くのはあまりよくはないとは思いつつも、明日には旅立つのならば今日中に返したほうがよいだろう。そう思ってまだ鍵の開いていた治療院の扉を開く。ついでにミラの様子を見に行こうと彼女の部屋の前に行くと何やら話し声がした。
「薬か?」
「ああ……即効性だ。もう意識はない」
この声は……やはり関わっていたのか。音を立てぬようそっと壁により掛かりその声に耳を研ぎ澄ます。
「で、『鍵』の在処は聞き出せたか?」
「…私はもう何の関係もない。アルクノアなどとは」
アルクノア、か。一つ思い当たる節というよりはわかったことはあったな。ディラックとアルヴィンは昨日今日の付き合いではない。それなりに関係のあるのは確かだろう。ディラックとしてはあまり関わりたくなさそうだが。
「あーら、寂しいこと言ってくれるね」
「彼女……彼女らには感謝している。いや、それ以上に恩がある」
聞く限りではアルクノアとは何かの組織か。あまりよろしくはないモノのようだが。しかし、彼女と言うのはミラのことだろうが、彼女らと言うのはエリーゼやレイアらのことか?だがレイアはともかくエリーゼのことを知っているのか。
「一人息子をオトコにしてくれたってか?」
「…そうだ。彼女らのおかげで、あの子は強くなった。人を好きになれたんだ…」
色々思うところはあるようだな。厳しいことを言っても人の親ということか。彼は彼なりに心配しているらしいな。
「俺は、知ってることさえ教えてくれれば、それでいい」
疑うというのは好きではないが、どうもその手の勘は外れぬようだな。
「……イバル……イバルという人物に渡した可能性がある。私の知っているのはそれだけだ……もうこれ以上関わるな」
「……そっか、十分だよ」
そろそろ離れぬと出てくるな。さてと本は仕方ない、明日にして今日は宿に帰るか……と踵を変えそうとしたときだった。持っていた本を壁へとぶつけてしまい、ゴンっと言う音が鳴り響く。
「……誰だ!?」
マズいな。入り口まで戻るとバレる。いや隠れる理由はないが、相手はあのアルヴィンだしな。仕方ない。
「……誰も、いない?」
間一髪だったか。扉越しに聞こえる声に内心で安堵する。いや、安堵する意味もわからぬが。
「まあ、いいや。邪魔したな」
その声がしてすぐに治療院の扉が閉じられた音がした。それを確認して私は目の前にある丸椅子に腰掛ける。
「……き、君は!?」
この部屋の主が浮かぬ表情で入ってきたと思ったら私の顔を見るなりギョッと目を見開く。やあ、と片手を挙げて挨拶をすれば何故か溜息を吐かれた。
「聞いていたのは君か」
「聞くつもりはなかったよ」
偶然だ。と言ったが警戒した表情を浮かべ私を睨みつける。警戒というのは些か違うか。恐れている、というほうが正しいのか。
「ジュードたちには言わぬよ。キミも人の親だと言うことがわかったしな」
「何故だ」
告げ口をしないことを不思議がるか。ジュードがミラを慕っているのは見てわかる。ミラを売ると言うことはジュードを裏切る行為でもあるからだろう。
「キミの事情は知ったことではないが、私も気になることがあってな」
ジュードとミラがイル・ファンで何をしたのか細かい経緯は知らない。何かをしたから指名手配されたというのに、またイル・ファンに行くという。これに興味を持たずして何を持つというのか。
「ああ、そうだ。これをジュードに返しておいてくれ」
これを返しに来たのが目的だったのだよ。とそう言って私は立ち上がった。扉に手をかけて外へと出ようとすると彼は短く呼び止める。
「君の目的は何だ?」
何を下らぬ事をと思いつつもそれは口にはしない。したところで意味はない。
「世界を知ることだ」
今の私にはそれ以外は興味はない。そのためにミラたちと行くと決めた。ディラックが何かを言う前に診察室の扉を閉めて部屋を出る。小さく息を吐いて治療院をあとにする。